38 / 43
第4章 赤く咲く花
第38話 弔い
しおりを挟む
数日間にわたる苛烈な拷問の末、始水殿の医官は首謀者と共犯者を吐いた。
首謀者は凜凜が顔も知らぬ妃嬪のひとりであった。
彼女は地方の豪族の娘だった。
皇帝は妃嬪と医官、その共犯者たちを一人残らず凌遅刑に処した。
彼らがいかにむごたらしく悲鳴を上げて死んでいったのか、凜凜は聞きたくはなかったが、自然と耳に入ってきてしまった。
時間を掛けて罪人の四肢を端から少しずつ斬り落とさせ、その骸は豚に食わせたのだという。
皇帝の処断はそれに留まらず、薬を工面したと断じられた地方の豪族も、皇帝の弟が率いる軍に攻め込まれ滅ぼされた。
「……私の采配のせいだ」
皇帝は深く沈み込んでそう言った。
首謀者達を討ち滅ぼしても、彼の気は少しも晴れなかった。
「どうか、面を上げてくださいませ」
凜凜は寝台の上からそんな皇帝の頬に手を当てた。
彼女の方から皇帝に触れるのはとても珍しいことだった。
「あの子を丁重に弔ってあげてください。それが供養となりましょう。私はこの通り、まだ動けませぬので、陛下、どうか、お願いしますね……」
「ああ、むろんだ」
皇帝はうっすらと目に浮かんだ涙を拭いながらうなずいた。
「それはそうと凜凜、体がある程度落ち着いたら始水殿から動いてもらう。もう目の届かぬところにお前を置いてはおけぬ。央麒殿に移れ」
「……ですが、御子を生めず、次に子がなせるかもわからぬと言われた私に、そのような大きな扱いは……」
凜凜はまだたまに痛む腹を押さえた。そこに再び子が宿るかはわからないと医官は泣きながら告げた。
医官はよく見れば、凜凜が最初に皇帝に出会ったときに皇帝に対応していた医官だった。雪英や古堂の様子を見てくれていたのも彼であった。
長らく凜凜の心労を近くで見ていた医官は、凜凜の子が流れたのを、我が事のように悼んでくれた。まだ自分にそのように優しく接してくれる人がいることが、凜凜の心を僅かばかり慰めた。
「もう決めた。お前には貴妃の位を贈る」
「そ、それは……」
貴妃、夫人に与えられる位。賢妃であった雪英と並んでしまう。
「もう決めたことだ。誰にも口出しはさせぬ。もちろん子の弔いは大々的に行う。……それから、やはり央角星の娘を悪鬼として祓う」
「……それは」
胸が痛んだ。後宮に凜凜の子が流れたのは雪英の祟りだと根も葉もない噂が流れていた。しかし凜凜はそれを信じはしなかった。雪英のせいなどであってたまるものか。
「……これは後宮の人心が乱れているためだ。私はお前の言葉を信じているよ、凜凜。お前の愛した主人はお前の子に祟ったりはしない。お前の言葉を信じている。ただ、後宮の乱れた気配を正すためなのだ。受け入れてくれ」
「……承知、しました」
凜凜は苦しい胸を隠してうなずいた」
「すまないな、私の力が足りぬばかりに」
少しやつれた顔で皇帝はそう言った。
――たとえば、雪英様の死を、陛下がこれほどまでに悼んでくれたなら、私は雪英様の死について、あなたを恨みに思ったりはせずに済んだのでしょうか。
凜凜は密かにそう思った。
枯れ葉が舞う中で、凜凜の子は丁重に弔われ、そして雪英の悪鬼祓いが行われた。
寒々しい秋を、凜凜はひとりで過ごした。
首謀者は凜凜が顔も知らぬ妃嬪のひとりであった。
彼女は地方の豪族の娘だった。
皇帝は妃嬪と医官、その共犯者たちを一人残らず凌遅刑に処した。
彼らがいかにむごたらしく悲鳴を上げて死んでいったのか、凜凜は聞きたくはなかったが、自然と耳に入ってきてしまった。
時間を掛けて罪人の四肢を端から少しずつ斬り落とさせ、その骸は豚に食わせたのだという。
皇帝の処断はそれに留まらず、薬を工面したと断じられた地方の豪族も、皇帝の弟が率いる軍に攻め込まれ滅ぼされた。
「……私の采配のせいだ」
皇帝は深く沈み込んでそう言った。
首謀者達を討ち滅ぼしても、彼の気は少しも晴れなかった。
「どうか、面を上げてくださいませ」
凜凜は寝台の上からそんな皇帝の頬に手を当てた。
彼女の方から皇帝に触れるのはとても珍しいことだった。
「あの子を丁重に弔ってあげてください。それが供養となりましょう。私はこの通り、まだ動けませぬので、陛下、どうか、お願いしますね……」
「ああ、むろんだ」
皇帝はうっすらと目に浮かんだ涙を拭いながらうなずいた。
「それはそうと凜凜、体がある程度落ち着いたら始水殿から動いてもらう。もう目の届かぬところにお前を置いてはおけぬ。央麒殿に移れ」
「……ですが、御子を生めず、次に子がなせるかもわからぬと言われた私に、そのような大きな扱いは……」
凜凜はまだたまに痛む腹を押さえた。そこに再び子が宿るかはわからないと医官は泣きながら告げた。
医官はよく見れば、凜凜が最初に皇帝に出会ったときに皇帝に対応していた医官だった。雪英や古堂の様子を見てくれていたのも彼であった。
長らく凜凜の心労を近くで見ていた医官は、凜凜の子が流れたのを、我が事のように悼んでくれた。まだ自分にそのように優しく接してくれる人がいることが、凜凜の心を僅かばかり慰めた。
「もう決めた。お前には貴妃の位を贈る」
「そ、それは……」
貴妃、夫人に与えられる位。賢妃であった雪英と並んでしまう。
「もう決めたことだ。誰にも口出しはさせぬ。もちろん子の弔いは大々的に行う。……それから、やはり央角星の娘を悪鬼として祓う」
「……それは」
胸が痛んだ。後宮に凜凜の子が流れたのは雪英の祟りだと根も葉もない噂が流れていた。しかし凜凜はそれを信じはしなかった。雪英のせいなどであってたまるものか。
「……これは後宮の人心が乱れているためだ。私はお前の言葉を信じているよ、凜凜。お前の愛した主人はお前の子に祟ったりはしない。お前の言葉を信じている。ただ、後宮の乱れた気配を正すためなのだ。受け入れてくれ」
「……承知、しました」
凜凜は苦しい胸を隠してうなずいた」
「すまないな、私の力が足りぬばかりに」
少しやつれた顔で皇帝はそう言った。
――たとえば、雪英様の死を、陛下がこれほどまでに悼んでくれたなら、私は雪英様の死について、あなたを恨みに思ったりはせずに済んだのでしょうか。
凜凜は密かにそう思った。
枯れ葉が舞う中で、凜凜の子は丁重に弔われ、そして雪英の悪鬼祓いが行われた。
寒々しい秋を、凜凜はひとりで過ごした。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる