あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

ろいず

文字の大きさ
39 / 62
4章 言霊のカタチ

残響

しおりを挟む
 本日の授業は半日で、ほぼ文化祭の話で終わった感じだ。
 屋上でレジャーシートを敷き、千佳と二人でお弁当を広げてくつろいでいる。
 普段は鍵がかかっているのだけれど、天草先生が鍵を貸してくれて、自由に出入り出来るようになっているのはわたし達だけの秘密だ。
 
「はぁー……それにしても、文化祭の出し物がお化け屋敷……」
「面白そうだから、あたしは好きだけどなぁ」

 わたしは溜め息を吐いてパックのジュースのストローを齧る。
 どうせなら他の出し物が良かったのに、一票差でお化け屋敷に決まってしまって、ホラーが苦手なわたしには拷問になりそうだ。

「そんなに溜め息つかなくても、作り手側なら怖くないかもしれないじゃない」
「だって……教室の中に生物室の骨格標本置くとか言ってたじゃない。生首を作るとかも言ってたし!」

 なぜ悪乗りした男子達はこうも悪戯を思いついたように、止めて欲しい発想ばかりするのだろう。
 その発想力があるなら、別の出し物を考えて欲しかった。隣のクラスなんてファッションショーとかなのに、お化け屋敷だなんて……ただでさえ、春から夏にかけて怖い目にばかり遭ってきたのに酷すぎる。
 
「そんなに怖いなら、教室の前で入場案内係を交換してもらえば?」
「それが出来たら苦労しないよ~っ」

 そう。教室の前で入場案内係をわたしは希望していたのに、サボりたい女子でその役目は争奪戦になり、わたしは敗退を期してしまったのだ。
 じゃんけん運の無い自分を呪いたい。
 わたしの係は脅かす役……自分の方が怖がって悲鳴をあげそう。

「ミカサってば、本物を毎日相手にしてるのに、何が怖いの?」
「火車やキョウさん達は別に平気なの。動物っぽい姿だし、人の形にもなれるから」
「でも、あたし達のお化け屋敷は作り物じゃない。怖くないよ。素人が作るんだしさ」
「だけど、だけど……教室を暗幕で覆って暗くするって言ってたじゃない。ああいう暗がりで脅かされたりするの、本当に嫌いなの! もう当日休みたい!」
「重症だねぇ」

 千佳がケラケラと楽しそうに笑い、わたしの眉は絶賛だだ下がり中だ。
 お弁当をもそもそと口に運び、今日のお弁当も見た目にこだわっているなぁと千佳のお弁当と見比べる。
 千佳のお母さんの可愛いお弁当を写真に撮ってコゲツにも見せたところ、負けじとファンシーなお弁当作りを始めてしまったのよね。
 今日のお弁当はハンバーグでクマさんが作られていて耳の中は甘いニンジンのグラッセで出来ている。
 コゲツのお料理男子力がまた上がっているのは気のせいではないと思う。

「あっ、師匠だ」

 千佳がフェンス越しに下を見下ろして手を振る。
 わたしもフェンスから下を覗くと、コゲツが無玄さんと一緒に歩いていた。
 学校に何もいないかを見て回ると言っていたから、おそらくそれの最中かな?
 こちらに気付くと無玄さんが手を振り、コゲツは口元だけ笑っている。
 顔はいつもの白い布で隠しているから、お仕事半分というところだろう。
 フッと瞬きをする時間くらいで、コゲツと無玄さんは消えてわたし達の後ろに姿を現した。

「よっ! 嫁子ちゃんにお弟子ちゃん」
「ちわっす! 無玄さん」
「こんにちは」
「弟子ちゃんは元気良いな」

 相変わらず人懐っこい千佳は無玄さんにも、気軽に砕けた感じで声をかける。
 
「嫁殿、今日はもう授業は終わったようですね」
「うん。お昼を食べたら各自帰宅だよ」
「なら一緒に帰りましょうか」
「あ、今日は千佳とアイスを食べに行くの」
「へへ~っ。師匠も一緒に行きますか?」

 千佳がわたしに抱き着き、コゲツは指で千佳のおでこを爪弾く。
 コゲツと千佳のこうしたやり取りも兄妹のようで見ていて面白いものがある。

「それなら、この無玄お兄さんもついて行ってあげようじゃないか」
「えーっ。なら無玄さん奢ってくださいよ」
「おっ、弟子ちゃんは遠慮が無いな」
「遠慮なんかしてたら、短い人生謳歌できないですってば」
「弟子ちゃんは言うことが大人だねぇ。よしよし奢ってあげようじゃないか」
「やった! ミカサ奢ってくれるってさ。トリプルアイス頼んじゃおう!」

 バンザイと手を挙げて喜ぶ千佳に、わたしもうんうんと頷き返す。
 コゲツも来るかな? と見上げて伺ってみる。

「分かりました。不肖の弟子と何かしら破壊しそうな嫁殿では心配ですから、私も一緒に行きますよ」
「やった。なら、コゲツのはわたしが奢るね」
「なら私は嫁殿の分を奢りますね」
「お互いに奢ってたら意味が無いよ~」

 あははと四人で笑って、お昼ご飯の続きを食べる。
 千佳はお母さんが持たせてくれたマドレーヌをコゲツと無玄さんにおすそ分けして、お弁当を急いで口に運んでいた。
 
「そういえば、もう『何か』は無いですか?」
「あー、それなぁ。学校とか人の多い所は、自然と発生しやすいから今は何もない状態だけど、そのうちまた出るだろうねぇ」
「なら、次はあたしがちゃんと退治出来るように修行を頑張ります!」
「おー、弟子ちゃん偉いぞー」

 わしわしと頭を撫でられて千佳は嬉しそうに笑い、コゲツには修行を頑張りますから! と、ガッツポーズをしてみせる。
 とりあえず、学校はこれで大丈夫な状態になったのだろう。
 桑谷先生は学校を体調不良で休んでいて、詳しい事は分からない。
 ただ生徒の間では、ダニーが休みだと空気が緩やかだとか言われてしまっている。
 
「さて、食べ終わったし行きますか!」
「んむっ、早い!」

 わたしも急いでお弁当を口に詰め込み、ジュースで流しいれて食べ終わらせる。
 コゲツには「ゆっくりで大丈夫ですよ」とは言われたけど、流石に待たせてしまうのは気が引けてしまうしね。

「よし! アイスを食べに行こー!」

 千佳の掛け声と共にわたし達は屋上を後にする。
 学校の中には夏の名残りの暑さが残り、廊下の窓からの風が吹く。
 そこには微かに生徒の声が聞こえ、その声はそのうち『何か』を生み出すのだろうかと少しだけ思った。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。