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一章
キュウリと河童と狸に麒麟
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朝目が覚めると、何だか顔が少しヒリヒリした。
けれど気にしている間も無く、朝から食堂でキュウリとミョウガを切って和えながら、足元をうろつく河童と格闘していた。
おかしい……昨日よりも妖達が見えているというか、ハッキリ姿を現している。
他にも、妙な妖が何人か見えていて……『おおかみ宿舎』が怪しい場所だという事も分かる。
それなのに、私にとってここは居心地がよく、すんなりとこうした世界もあるのだと受け入れられていた。
説明を求められても、そう感じて受け止められてしまったからとしか言えないけれど。
「キュウリくれーキュウリ―」
「これは朝ご飯! 切れ端あげたでしょ?」
「足りないー。キュウリー」
「語尾がキュウリなの? 朝ご飯まで待ちなさい」
「キュウリだけでいいので、下さい」
私の想像していた河童と違い、二頭身程の河童は水風船のようなモチ肌でぷるんぷるんと丸い。
そんなモチ肌河童はキュウリ連呼をしておねだりしている。
塩揉みしたキュウリを隙を狙ってはヒョイヒョイとつまみ食いするのだから、手に負えない河童である。
「安寿が麻乃を困らせてる」
「安寿。そんな事してると、スイに頭の皿割られるぞ?」
厨房に顔を出した双子の紫音くんと紫雨ちゃんが、河童_安寿を揶揄いつつ、キュウリとミョウガの塩揉みを指で摘んで口に入れる。
安寿とはまた可愛らしい名前の様だ。
「こら。あなた達の尻尾も引っ張ってあげましょうか?」
困らせているのは君達も一緒なのだよ?
私が二人のもっふりとした尻尾を握ると、二人は「キャッ!」と声を上げて飛び退いた。
可愛らしい狐の尻尾と耳。二人は狐の妖である。
おそらく、お姉さんの七緒さんもそうなのだろう。
「朝ご飯が出来るまで、つまみ食いは駄目よ? 大人しく椅子に座っていなさい」
「ちぇっ」
「お腹空いちゃった」
「キュウリー……」
腹ペコ三人組を厨房から追い出し、塩揉みしているキュウリとミョウガをギュッと絞り、水気を取る。
炊きたてのお米に、ポン酢と砂糖を混ぜ合わせ、キュウリとミョウガも中に混ぜ込めば、簡単な塩揉み野菜の混ぜ込みご飯が出来上がる。
「よし。今日はさっぱりご飯!」
塩揉み野菜の混ぜご飯、小アジの南蛮漬け、ジャガイモのごろごろ煮、なめこのお味噌汁。
厨房からトレイにご飯を盛り付けて、カウンターに出していくと安寿に紫音くんと紫雨ちゃんがトレイを持って行き、早速朝ご飯にするらしい。
三人が席に座って食べ始めると、昨日は宴会で遅くまで飲んでいた大人組も食堂にやってきた。
二日酔いのだらしない大人は、席に着くとぐったりして両手と両足を伸ばし、仕方なくご飯のトレイを持って行く。
「まののん~。サッパリした物、なんかないかー?」
「そう言うと思って、サッパリ味のキュウリとミョウガの塩揉みご飯に、小アジの南蛮漬けなんですよ? しっかり食べて、シャキッと起きて下さい」
二階堂さんは二日酔い組で、頭を抱えてぐったりしている。
顔も青ざめているから、相当悪い飲み方をしたみたい。
朝食のメニューを焼き鮭と切り干し大根から、急遽このサッパリメニューにしておいて良かった。
「うへぇ~……頭がガンガンする」
「梅干し茶でも飲みます?」
「いや、俺は梅干し苦手」
「あらら。じゃあ、二日酔いは何が良いでしょうねぇ?」
すると、厨房の冷蔵庫からヨーグルトを持ってきた椿木さんが「これ」と二階堂さんの前に置く。
ヨーグルトの上に黄土色の粉が山盛りなところが気になる。
「何ですかコレ?」
「ウコン。二日酔いにはこれでしょ」
「うげっ! 幸志やめろ! 不味いもん入れんなよ!」
「晴臣。無駄な抵抗はやめること」
ピタッと二階堂さんの動きが止まり嫌な顔をするが、椿木さんはヨーグルトを掻き混ぜて、とても黄色いヨーグルトを二階堂さんの鼻を摘まんでスプーンで流し込んでいた。
「~~ッ!!!!」
「あっ、死んだ」
「二階堂が死んだ!」
「幸ちゃん、あなたが犯人です!!」
机の上に頭を打ち付けて倒れた二階堂さんに、子供達ははしゃいだ声を上げている。
「今、何かしたんですか?」
私が問えば、椿木さんは眠そうな目でにんまり笑うだけだった。
私の問いに答えてくれたのは、御守さんで、いつの間にか私の後ろに居たのだから、神出鬼没というか、足音を立てない人だ。
「二階堂は動物系の妖で、神獣である椿木の『言霊』には逆らえない」
「神獣? と、いうか……二階堂さんって動物の妖だったんですか?」
「二階堂は、化け狸。怪狸、妖狸、古狸と、様々な呼び名で呼ばれている。人間に化けるのが上手い妖だ。ただ、人間とのハーフでもあるから、耳や尻尾の類は無い」
「ああ、道理で見えない訳ですね」
成程、納得。
しかし、人間と妖のハーフがいるとは少し驚きである。
「では、椿木さんは何の神獣なんですか?」
「椿木は、聖獣と呼ばれる、東西南北をそれぞれ守護する妖、『青龍』『白虎』『朱雀』『玄武』の上位に位置する妖、神獣『麒麟』だ。青龍は海系の妖を、白虎は動物系の妖、朱雀は空を飛ぶ妖、玄武は爬虫類系の妖に対して、絶対的権力を持ち、その上に位置する麒麟は、聖獣達の支配できる妖には命令が出来る」
「そうなんですか……椿木さんはのんびりして見えますけど、凄い人なんですね」
「まぁ、妖は見た目ではないからな」
椿木さんはのんびりと欠伸をして、朝食を食べ始めている。
パリパリと咀嚼されるキュウリの音が心地よく響く。
ちなみに言霊は、発言した言葉が呪詛として『命令』という形で発動する物で、逆らうのは難しいのだとか。
『おおかみ宿舎』の人達は謎が深い。
けれど気にしている間も無く、朝から食堂でキュウリとミョウガを切って和えながら、足元をうろつく河童と格闘していた。
おかしい……昨日よりも妖達が見えているというか、ハッキリ姿を現している。
他にも、妙な妖が何人か見えていて……『おおかみ宿舎』が怪しい場所だという事も分かる。
それなのに、私にとってここは居心地がよく、すんなりとこうした世界もあるのだと受け入れられていた。
説明を求められても、そう感じて受け止められてしまったからとしか言えないけれど。
「キュウリくれーキュウリ―」
「これは朝ご飯! 切れ端あげたでしょ?」
「足りないー。キュウリー」
「語尾がキュウリなの? 朝ご飯まで待ちなさい」
「キュウリだけでいいので、下さい」
私の想像していた河童と違い、二頭身程の河童は水風船のようなモチ肌でぷるんぷるんと丸い。
そんなモチ肌河童はキュウリ連呼をしておねだりしている。
塩揉みしたキュウリを隙を狙ってはヒョイヒョイとつまみ食いするのだから、手に負えない河童である。
「安寿が麻乃を困らせてる」
「安寿。そんな事してると、スイに頭の皿割られるぞ?」
厨房に顔を出した双子の紫音くんと紫雨ちゃんが、河童_安寿を揶揄いつつ、キュウリとミョウガの塩揉みを指で摘んで口に入れる。
安寿とはまた可愛らしい名前の様だ。
「こら。あなた達の尻尾も引っ張ってあげましょうか?」
困らせているのは君達も一緒なのだよ?
私が二人のもっふりとした尻尾を握ると、二人は「キャッ!」と声を上げて飛び退いた。
可愛らしい狐の尻尾と耳。二人は狐の妖である。
おそらく、お姉さんの七緒さんもそうなのだろう。
「朝ご飯が出来るまで、つまみ食いは駄目よ? 大人しく椅子に座っていなさい」
「ちぇっ」
「お腹空いちゃった」
「キュウリー……」
腹ペコ三人組を厨房から追い出し、塩揉みしているキュウリとミョウガをギュッと絞り、水気を取る。
炊きたてのお米に、ポン酢と砂糖を混ぜ合わせ、キュウリとミョウガも中に混ぜ込めば、簡単な塩揉み野菜の混ぜ込みご飯が出来上がる。
「よし。今日はさっぱりご飯!」
塩揉み野菜の混ぜご飯、小アジの南蛮漬け、ジャガイモのごろごろ煮、なめこのお味噌汁。
厨房からトレイにご飯を盛り付けて、カウンターに出していくと安寿に紫音くんと紫雨ちゃんがトレイを持って行き、早速朝ご飯にするらしい。
三人が席に座って食べ始めると、昨日は宴会で遅くまで飲んでいた大人組も食堂にやってきた。
二日酔いのだらしない大人は、席に着くとぐったりして両手と両足を伸ばし、仕方なくご飯のトレイを持って行く。
「まののん~。サッパリした物、なんかないかー?」
「そう言うと思って、サッパリ味のキュウリとミョウガの塩揉みご飯に、小アジの南蛮漬けなんですよ? しっかり食べて、シャキッと起きて下さい」
二階堂さんは二日酔い組で、頭を抱えてぐったりしている。
顔も青ざめているから、相当悪い飲み方をしたみたい。
朝食のメニューを焼き鮭と切り干し大根から、急遽このサッパリメニューにしておいて良かった。
「うへぇ~……頭がガンガンする」
「梅干し茶でも飲みます?」
「いや、俺は梅干し苦手」
「あらら。じゃあ、二日酔いは何が良いでしょうねぇ?」
すると、厨房の冷蔵庫からヨーグルトを持ってきた椿木さんが「これ」と二階堂さんの前に置く。
ヨーグルトの上に黄土色の粉が山盛りなところが気になる。
「何ですかコレ?」
「ウコン。二日酔いにはこれでしょ」
「うげっ! 幸志やめろ! 不味いもん入れんなよ!」
「晴臣。無駄な抵抗はやめること」
ピタッと二階堂さんの動きが止まり嫌な顔をするが、椿木さんはヨーグルトを掻き混ぜて、とても黄色いヨーグルトを二階堂さんの鼻を摘まんでスプーンで流し込んでいた。
「~~ッ!!!!」
「あっ、死んだ」
「二階堂が死んだ!」
「幸ちゃん、あなたが犯人です!!」
机の上に頭を打ち付けて倒れた二階堂さんに、子供達ははしゃいだ声を上げている。
「今、何かしたんですか?」
私が問えば、椿木さんは眠そうな目でにんまり笑うだけだった。
私の問いに答えてくれたのは、御守さんで、いつの間にか私の後ろに居たのだから、神出鬼没というか、足音を立てない人だ。
「二階堂は動物系の妖で、神獣である椿木の『言霊』には逆らえない」
「神獣? と、いうか……二階堂さんって動物の妖だったんですか?」
「二階堂は、化け狸。怪狸、妖狸、古狸と、様々な呼び名で呼ばれている。人間に化けるのが上手い妖だ。ただ、人間とのハーフでもあるから、耳や尻尾の類は無い」
「ああ、道理で見えない訳ですね」
成程、納得。
しかし、人間と妖のハーフがいるとは少し驚きである。
「では、椿木さんは何の神獣なんですか?」
「椿木は、聖獣と呼ばれる、東西南北をそれぞれ守護する妖、『青龍』『白虎』『朱雀』『玄武』の上位に位置する妖、神獣『麒麟』だ。青龍は海系の妖を、白虎は動物系の妖、朱雀は空を飛ぶ妖、玄武は爬虫類系の妖に対して、絶対的権力を持ち、その上に位置する麒麟は、聖獣達の支配できる妖には命令が出来る」
「そうなんですか……椿木さんはのんびりして見えますけど、凄い人なんですね」
「まぁ、妖は見た目ではないからな」
椿木さんはのんびりと欠伸をして、朝食を食べ始めている。
パリパリと咀嚼されるキュウリの音が心地よく響く。
ちなみに言霊は、発言した言葉が呪詛として『命令』という形で発動する物で、逆らうのは難しいのだとか。
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