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第二章
俺、活躍する
しおりを挟む大聖都というだけあり、トリプティクには教会や神殿がたくさんある。
そんなありがたい街を、夜の闇に紛れて歩いて行く。
俺は黒の上下にナイフと剣、防具は一切必要ない。
クルケットは足元まで隠すパーカーみたいな服に、リュックを背負って付いてくる。
もう雨ガッパにランドセルの児童にしか見えない。
「ここが異世界で良かった」と心から思う。
道すがら、左目に宿る女神さまがクルケットに何か伝えた。
「ゆーた様! この街には、土地の神が全くいないって言ってるです」
適当な神を呼び出してこき使うのは無理っぽい。
「だから聖都になったのかな……」
俺の独り言を聞いたクル坊が、目を丸くして笑う。
「そんな考えもあるですか。さすがゆーた様です」
もう一つ加えると、以前女神さまから聞いたが『俺の世界には神さまが存在しない』そうだ。
「珍しくも、偶然が重なって出来た宇宙なのよ」と、女神さまは言っていた。
その中でも、たまたま人型の知的生命体が居る地球は、異世界の神にとって都合の良い狩り場になっているとも。
「だって、他の神に遠慮することなく雇えるのよ?」だとさ。
雇うなら給料くださいよ……まあ何らかの能力が前払いなのだろう。
さて、女神さまのとこへ就職した俺は先を急ぐ。
何時か下僕でなく、譜代の家臣となりたいものだ。
目的地――女神さまの体が連れ去られた場所――を見渡せる場所まで着いた。
今回もやっぱり教会。
異世界の悪人ってなぜか宗教関係者ばかり。
「あっち……ですね。特に罠とかもないです」
女神さまが見た情報を、クルケットが教えてくれる。
教会の聖堂、さらに奥の大きな倉庫らしきものが敵アジト。
「では、ちょっくら行ってきます!」
俺は背を低くして走り出す。
目的はとても単純。
奪われた女神さまの力を解放するか、ヴィルクォムの欠片に操られた者を倒す。
どーせ奴らは女神のパワーをそのままでは使えない。
だから依代の少女――実は女神創った肉体――を欲しがった。
「力の変換器、つまりは生贄ってやつだな」
女神さまはそう表現していた。
何の抵抗もなくあっさりと近づけたが、その理由は直ぐに判明した。
『ぐわっ、でかい、重いし強い!』
倉庫に近づくと、牛ほどもある犬に襲われた。
しかも3頭、それぞれが俺の体に噛み付いて引っ張る。
こんなことで傷一つ付かないが、また服がボロ布になってしまう。
『睡眠薬入りの肉とか用意しておけば』と思ったが、そんなものは無い。
一つだけ取れる手段を試してみよう。
ユニコーンを捕まえた<<神獣捕獲>>と<<説得>>の合わせ技。
ただの犬ならもちろん、魔獣あたりでも効果あるのではなかろうか。
……15分後。
ようやく従わせることが出来た。
頭のレベルは前の世界で絡んで来た不良と同レベルか。
「ここで待て。この建物から出る奴が居れば襲ってよし。ただしゴブリンとユニコーンが来ても食うなよ」
犬どもに命令して、やっと倉庫まで辿り着く。
外から様子を伺っても、当たり前だが見える範囲では悪さをしていない。
『上から行くか……』
屋根へ上がり、熱気の出てる煙突を見つける。
ちょっと煙が気になるが、これならいけそうだ。
『誘拐犯の皆さまに、地球名物サンタクロースの恐ろしさを味わってもらいましょう』なんて事を考えながら、燃え盛る暖炉の中に顔を出す。
いた、全部で六人、ティルもいる。
床にも壁にも大量の魔法陣が描かれ、全てが青く発光している。
あれに奪ったお力を一時的に貯めているはずだ。
奴らの真ん中では、手足を縛られて全裸に剥かれた女神さまのお体が。
頭には妙な器具を被せて、あれで操るつもりか。
最も偉そうな奴、高そうな服の奴に狙いを定める。
暖炉は部屋の一番奥、偉そうな奴も一番奥に陣取っている。
『上座を守った不運を呪うが良い』
もちろん声には出さず、俺は暖炉の中から剣を構えて真っ直ぐに走り出た。
人や生き物を殺すのは、文明国育ちの俺にとって抵抗ある。
だがまあ、女神さまの世界では魂は確実に巡るのだ。
それにだ、宇宙ごと消滅するよりはマシだろう。
覚悟を決めた俺の一撃は、そいつの背中から胸へと貫いた。
思い切り刃を押し込むと、口からも血を吐いて絶命した。
剣に体重がかかって凄く重い。
これが人の命一つ分の重さかと、思いの外に大きなショックもあった。
だが、ここで呆ける訳にはいかない、口々に何かを叫ぶ残りの五人を剣で牽制しながら、俺は壁の魔法陣の一つに取り付く。
魔法陣をぶん殴って壊す。
数えた限り、魔法陣は三十ほど。
女神さまは言っていた。
「もって来た力の1/3ほど返ってくれば、この世界にわたしの力を呼ぶ道を作れる。まあ電線を引くようなものかな」と。
十個も壊せば、あとは女神さまの独壇場。
まず一つ、次に二つめ!
三つめを壊したとこで邪魔が入る、ティルか!?
素早いエルフが俺に襲いかかった。
「諦めろ! 親玉はもう死んだ!」
ボッコボコに攻撃を受けながらも、俺は平気な顔で4つめを壊す。
「あ、そうか。ユウタは攻撃が効かなかったのよね」
それだけ言うと、返事の代わりに邪悪に笑ったティルが目の前から消えた。
速すぎて見失った。
右左と見回して、上か!? と見上げてもいなかった。
突然、俺の視界が塞がれて、後ろから膝に蹴りが入って倒される。
あっという間に数人に飛びつかれ、縛り上げられる。
目隠しと拘束でさくっと無力化とは、そういや防御はカンストだけど、それ以外は凡人だったなぁ……。
芋虫で転がされた俺に、ティルの声が聞こえた。
「こいつの分は私が貰うわ! 文句ないわよね」
何の話だと思ったが、次にティルは俺に語りかけた。
「こいつがボスでなくてよ。私達六人が、同時に聖石を授かったのよ! 私達は六人で一つ、いやもう五人ね」
死体からヴィルクォムの欠片、その二つめを手に入れたティルの高笑いが聞こえる。
お前、エルフ少女のくせに、ラスボスだったのかよ……。
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