16 / 29
第二章
エルフとゴブリン
しおりを挟む
ゴブリンのクルケットは良く働く。
せわしない種族のようで、のんびり生きるエルフと相性が悪いのもよく分かる。
「こらチビゴブリン、これに付いて行っても良い事ないわよ?」
ティルはしばらくの間、クルケットを追い出そうとしていた。
旅の道連れの分際で、堂々とそんな事を言っちゃうエルフの神経はかなり太い。
「うるせーです! わたしはめがみん様とゆーた様に尽くすです! 年増ババァはすっこんでろです」
「なんだと、このチビスケめ!」
こんな感じでティルが絡んでくれたお陰か、クルケットもだいぶ馴染んだようだった。
広い草原出身のゴブリンは、うつ伏せで丸くなって寝る。
たいていは女神さまの足元で毛布にくるまる。
一方のティルは、『木の上で寝るから』と夜は居なくなることが多い。
トリプティクに着いた夜もそうだった。
ただし、『知り合いのとこに泊まる』と告げてティルは出ていった。
「そろそろですかね?」
「そうかもな、来てくれないと困るなあ」
俺と女神さまは、対決も近いと感じていた。
女神さまがこの世界に来た理由は、救いの声を受け取ったのと、また”ヴィルクォム”の反応があったから。
「ところで、ヴィルクォムって何ですか?」
当たり前の疑問を、俺はようやく聞いた。
「んー、別の世界の創造神の名前かな」
思いの外、物騒な答えが帰ってきた。
「え、破壊しちゃったんですか?」
あちこちに散らばってるくらいだから、やっちゃったのかと思ったが。
「ちょっと違うかな。結構前になるが、わたしの作った宇宙とそいつの作った宇宙が重なって喧嘩になったの。それで主神大戦モードでやりあって、奴の武器やら鎧やらが飛び散った破片ね」
「主神大戦モードって、先日の惑星を壊した時よりも上ですか?」
怖いもの知りたさで聞いてみた。
「そりゃーね。執行神モードは世界に作用するだけだし。そっちは神同士の戦い専用」
その状態ならば、宇宙も砕けると女神さまは断言した。
そんなのがニ柱も殴りあうとか、なんて恐ろしい。
「ヴィルクォムの奴も、わたしの武器の欠片を掃除する羽目になってるわい」
くっくっく、と女神さまは楽しそうに笑う。
まあそれで、妙な力があったり女神さまが触りたがらない理由も分かった。
「難しくてよく分かんないです」
女神さまの膝の上で可愛がられながら、クルケットが顔をあげた。
なでなでされる様子は、虎に撫でられる子猫のようだが、クルケットにはこれから大事な役を勤めてもらう。
「本当に良いかい?」と、ゴブリンに最後に確認をとる。
「もちろんです! お役に立ちます!」と答えてくれた。
ならば、ヴィルクォムの欠片に操られた敵が現れるのを待ちますか。
深夜、俺達の取った部屋に、押し込む者どもがあった。
またも女神さまがあっさり攫われる。
だが、今度は計画通りだ。
俺はその様子を、向かいの部屋の鍵穴から見ていた。
体格もバラバラの四人組、その中に見慣れた長い耳をみつける。
女神さましか居ないことで責められて、何やら言い訳をしているようだ。
悪漢どもは、諦めたのか女神さまの体だけを誘拐していった。
「い、いなくなったですか?」
後ろからクルケットが話しかける。
彼女の左目――女神さまが再生した――は、常になく不思議な色合いをたたえる。
今、女神さまはこの子の左目に宿っている。
ご自身で作ってあげたから出来る芸当だ。
「もう去ったよ。もう少し待ってから追いかけよう」
女神さまの抜け殻を攫った奴ら、本体がここにあるので追跡も簡単だ。
もう、何をやっていたか何をしたいかも分かる。
この世界で助けを呼んでいたのは、実は世界樹の苗木。
世界樹の力が吸い取られるので助けを呼んだところ、やってきた女神さまのお力まで吸い取られてしまった。
莫大な力に驚いた奴らは、何が起きたか確認する為にティルを寄越した。
まあそういう訳だ。
当たり前だろう、美人のエルフがほいほい助けに来て仲間になるなんて、そんな展開あるはずがない!
ま、吸い取った力で何をするかは微妙だが、たぶんヴィルクォムの本体と連絡を付けたがるはずだと女神さまは言った。
さて、神さま同士の喧嘩が始まる前に解決しないとな。
なんたって、この宇宙が丸ごと消し飛ぶ危機なわけだから。
今回は炭で真っ黒に汚したユニコも連れて、大きく遠回りをしながら抜け殻の後を追う。
不安なのか、クルケットがぎゅっと俺の裾を握る。
「大丈夫だよ。目的の場所まで着いたら、ユニコと隠れててね」
そう言うと、クルケットは大きく頷いた。
せわしない種族のようで、のんびり生きるエルフと相性が悪いのもよく分かる。
「こらチビゴブリン、これに付いて行っても良い事ないわよ?」
ティルはしばらくの間、クルケットを追い出そうとしていた。
旅の道連れの分際で、堂々とそんな事を言っちゃうエルフの神経はかなり太い。
「うるせーです! わたしはめがみん様とゆーた様に尽くすです! 年増ババァはすっこんでろです」
「なんだと、このチビスケめ!」
こんな感じでティルが絡んでくれたお陰か、クルケットもだいぶ馴染んだようだった。
広い草原出身のゴブリンは、うつ伏せで丸くなって寝る。
たいていは女神さまの足元で毛布にくるまる。
一方のティルは、『木の上で寝るから』と夜は居なくなることが多い。
トリプティクに着いた夜もそうだった。
ただし、『知り合いのとこに泊まる』と告げてティルは出ていった。
「そろそろですかね?」
「そうかもな、来てくれないと困るなあ」
俺と女神さまは、対決も近いと感じていた。
女神さまがこの世界に来た理由は、救いの声を受け取ったのと、また”ヴィルクォム”の反応があったから。
「ところで、ヴィルクォムって何ですか?」
当たり前の疑問を、俺はようやく聞いた。
「んー、別の世界の創造神の名前かな」
思いの外、物騒な答えが帰ってきた。
「え、破壊しちゃったんですか?」
あちこちに散らばってるくらいだから、やっちゃったのかと思ったが。
「ちょっと違うかな。結構前になるが、わたしの作った宇宙とそいつの作った宇宙が重なって喧嘩になったの。それで主神大戦モードでやりあって、奴の武器やら鎧やらが飛び散った破片ね」
「主神大戦モードって、先日の惑星を壊した時よりも上ですか?」
怖いもの知りたさで聞いてみた。
「そりゃーね。執行神モードは世界に作用するだけだし。そっちは神同士の戦い専用」
その状態ならば、宇宙も砕けると女神さまは断言した。
そんなのがニ柱も殴りあうとか、なんて恐ろしい。
「ヴィルクォムの奴も、わたしの武器の欠片を掃除する羽目になってるわい」
くっくっく、と女神さまは楽しそうに笑う。
まあそれで、妙な力があったり女神さまが触りたがらない理由も分かった。
「難しくてよく分かんないです」
女神さまの膝の上で可愛がられながら、クルケットが顔をあげた。
なでなでされる様子は、虎に撫でられる子猫のようだが、クルケットにはこれから大事な役を勤めてもらう。
「本当に良いかい?」と、ゴブリンに最後に確認をとる。
「もちろんです! お役に立ちます!」と答えてくれた。
ならば、ヴィルクォムの欠片に操られた敵が現れるのを待ちますか。
深夜、俺達の取った部屋に、押し込む者どもがあった。
またも女神さまがあっさり攫われる。
だが、今度は計画通りだ。
俺はその様子を、向かいの部屋の鍵穴から見ていた。
体格もバラバラの四人組、その中に見慣れた長い耳をみつける。
女神さましか居ないことで責められて、何やら言い訳をしているようだ。
悪漢どもは、諦めたのか女神さまの体だけを誘拐していった。
「い、いなくなったですか?」
後ろからクルケットが話しかける。
彼女の左目――女神さまが再生した――は、常になく不思議な色合いをたたえる。
今、女神さまはこの子の左目に宿っている。
ご自身で作ってあげたから出来る芸当だ。
「もう去ったよ。もう少し待ってから追いかけよう」
女神さまの抜け殻を攫った奴ら、本体がここにあるので追跡も簡単だ。
もう、何をやっていたか何をしたいかも分かる。
この世界で助けを呼んでいたのは、実は世界樹の苗木。
世界樹の力が吸い取られるので助けを呼んだところ、やってきた女神さまのお力まで吸い取られてしまった。
莫大な力に驚いた奴らは、何が起きたか確認する為にティルを寄越した。
まあそういう訳だ。
当たり前だろう、美人のエルフがほいほい助けに来て仲間になるなんて、そんな展開あるはずがない!
ま、吸い取った力で何をするかは微妙だが、たぶんヴィルクォムの本体と連絡を付けたがるはずだと女神さまは言った。
さて、神さま同士の喧嘩が始まる前に解決しないとな。
なんたって、この宇宙が丸ごと消し飛ぶ危機なわけだから。
今回は炭で真っ黒に汚したユニコも連れて、大きく遠回りをしながら抜け殻の後を追う。
不安なのか、クルケットがぎゅっと俺の裾を握る。
「大丈夫だよ。目的の場所まで着いたら、ユニコと隠れててね」
そう言うと、クルケットは大きく頷いた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
豹の獣人騎士は鼬の魔法使いにご執心です。
yu-kie
ファンタジー
小さなお姫様は逃げてきた神殿に祭られたドラゴンの魔法で小さな鼬になってしまいました。
魔法を覚えて鼬の魔法使いになったお姫様は獣人との出会いで国の復興へ向けた冒険の旅にでたのでした。
獣人王子と滅びた国の王女の夫婦の冒険物語
物語の構想に時間がかかるため、不定期、のんびり更新ですm(__)m半年かかったらごめんなさい。
異世界ハニィ
ももくり
ファンタジー
ある日突然、異世界へ召喚されてしまった女子高生のモモ。「えっ、魔王退治はしなくていいんですか?!」あうあう言っているうちになぜか国境まで追いやられ、隙あらば迫ってくるイケメンどもをバッサバッサとなぎ倒す日々。なんか思ってたのと違う異世界でのスローライフが、いま始まる。※表紙は花岡かおろさんのイラストをお借りしています。※申し訳ありません、今更ですがジャンルを恋愛からファンタジーに変更しました。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ゴーレム使いの成り上がり
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移してしまった白久(しろく) 大成(たいせい)。
ゴーレムを作るスキルと操るスキルがある事が判明した。
元の世界の知識を使いながら、成り上がりに挑戦する。
ハーレム展開にはしません。
前半は成り上がり。
後半はものづくりの色が濃いです。
カクヨム、アルファポリスに掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる