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第二章
異世界は中世
しおりを挟む「ゆうたくんは、何でこんなお仕事してるの?」
エルフのティルが、素朴な疑問って顔をしながら聞いた。
疑問形の語尾に合わせてちょっと小首をかしげると、綺麗な髪が顔の端をさらっと流れる。
こ、この態度は……!
「いや、お仕事っていうか、お役目ですから」
無難な返事にとどめる。
「えー変なの。だってドゥジャルダ――クマのような怪物――とも戦えちゃうんでしょ? それって最強クラスの戦士ってことよ。もっと色んな事が出来ると思うな、わたし」
ティルの手が俺の肘に軽く触れ、俺はごくりとつばを飲む。
女神さまは、ユニコの上で寝ている、まるで犬小屋の上のビーグル犬のようにバランスをとって。
「ね、どうなの?」って感じでティルが見上げてくる。
これはあれだな、まさか異世界で遭遇するとは思わなかった。
飲み屋のお姉さん的な計算(ビジネス)。
モテたことのない俺は確信する、『うかつな返事をすると高い出費(ツケ)になる』と。
「いやーそう言われても、荷物持ちで付いてくって約束したんですよ」
一度勤めたら滅私奉公の遺伝子が俺にもある。
幸いなことに、環境は過酷だが俺の扱いは悪くない。
何といっても、同じ物を食べて同じ場所で寝て、雇い主と同じ待遇ってのは素晴らしい。
「ふーん、欲がないのねえ」
ティルはそっと手を離した。
「そろそろご飯の時間か?」
ユニコの上で、女神さまが目を覚ました。
旅は順調、大聖都トリプティクへの道だけあって、きっちり整備されていた。
泊まる所にも飯を食う場所にも困らない。
峠の飯屋で、昼飯を食った。
先々の道のりを尋ねると、おかみさんは渋い顔をして教えてくれた。
「この先の領主様は、あまりいい噂を聞かないねえ。この店にも、時々国を捨てて逃げてくる人がいるんだよ。あまり大きな声じゃ言えないけどさ」
とのことだ。
「通り過ぎるだけですから……」
「それなら、連れのお嬢ちゃん達を隠すことだね。領主様は、未だに初夜権を行使なさって気に入った娘を連れてくそうだよ。目に止まるとろくな事にならないよ」
それは酷い。
回り道も考えたが、その国、ヴィッテンハイムという国は街道を挟んで大きく広がっている。
女神さまとティルには、フード付きの服を着せた。
最初の街で貰った通行手形のお陰で、入国は問題なかった。
かなり厳しい警備だったけれど。
「逃走防止ですかね」
ティルがぽろりと感想をこぼした。
「たぶんね。入る人より、出る人の方を見張ってたものね」
こりゃ出国の時に苦労しそうだ、今から頭が痛い。
街道筋から見える畑は、よく手入れされてみんなせっせと働いている。
ただし女も子供も総動員、休む間もなく働かされてるって感じだ。
それでも、国の中央にある首都までは無事に着いた。
「どうします? 一泊しますか?」
色々と厳しい国なのだろう。
治安には問題なさそうで、夜の道を急いでも問題はなさそうだ。
「わたしはどっちでも良いぞ」
女神さまは関心がないご様子。
「わたしは早く抜けたいです。どうも空気が重くて」
ティルは、この国がお気に召さないようだ。
「なら、進みましょうか」
ユニコを引いて歩き出したが、そうもいかなかった。
「道を開けろ、端に寄れ」と先触れの騎馬が現れた。
領主か偉い人の行列が来るのか、目立たぬように二人のフードをぐいっと下げる。
やってきたのは行列でも、ゴブリンの行列。
ゴブリンといっても、黒い髪に小柄の体、別に角や牙があるわけでもない。
どう見てもせいぜい別人種にしか見えないが、この世界ではゴブリンなのだ。
両手と両足を鎖で繋がれたゴブリンは、みな傷だらけ。
目を潰されてる者までいる。
ひそひそと住人の声が聞こえる。
「今度はなに?」
「なんでも反乱だとか」
「まさかゴブリンが、あんな弱小種族がねえ」
「領主様の狩りの成果だろ。ま、ゴブリンで良かった」
街の人々は、同情はするが関係ないといった雰囲気だ。
目に前をゴブリンの群れが通り過ぎる。
体の傷は拷問の跡かな……あれで白状させられたのだろう、泣いてる者も居ればメスまで居る。
特に小柄な、一匹のゴブリンが躓いて倒れた。
周りの人々が一斉に避け、俺も思わず一歩下がってしまったが、一人だけその場を動かぬ人が居た。
「ん、どうした? 大丈夫かの、水でも飲むか?」
女神さまは、足元に転がった子供のゴブリンに手を貸すと、水筒を口に当てて顔も拭いてやる。
「酷い怪我をしておるの、ついでじゃ治してやろう」
反乱を企んだとされ、片目を潰されたメスの子ゴブリン。
それを介抱してしまうバカな旅人から、周りの人達はさらに距離を置く。
当然、兵士がやってくる。
もー女神さまったら、お力は温存してくださいねってあれほど言ったのに!
俺は走り出て、兵士の前に立った。
「お、お許し下さい! 旅の者で何も知らないんです! この通り手形もあります」
バシン! とムチが飛んだ。
思い切り痛がるふりをするが、問答無用ってどういうことだ。
あ、そっちは駄目だ!
女神さまを狙ったムチも俺が受ける。
兵士たちは、頭に来たのか俺を集中的に狙い始めた。
「ひえー! 許してください!」
なんてこった、また服がぼろぼろだ。
全力でムチを振るう兵士の向こうから、声がかかる。
「何事かね」
「はっ! 反乱分子どもに手を貸す者がいたので懲罰しておりました、領主様!」
見ると、奴隷の担ぐ輿に乗ったでっぷりとした男。
そいつの視線は、俺を通り越して後ろを見ている。
潰された目が治った子ゴブリンと女神さま。
それはまあ良いとして、女神さま……フードを取っちゃった……。
「ほう! これはこれは。よし、捕まえておけ。わしが直々に吟味、いや取り調べてくれるわ」
ヴィッテンハイムの領主とやらは、べろんと舌なめずりをした。
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