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第一章
忠実な下僕へ
しおりを挟む夜の街を、白い立派なユニコーンを連れて歩き回る。
『め、目立つなあ……灰で汚してくればよかった、こいつ』
ユニコーンは、迷いなく進んでくれた。
これで雌馬のとこにでも行かれたら、どうしてやろうかと。
とても大きな屋敷、いや教会だなこれ。
通り過ぎた街でも見たことがある、鐘楼にバツ十字を飾ったこの世界の宗教施設。
庭も驚くほど広い。
「ちょっと行ってくるから、背中貸してくれ」
乙女以外は拒否すると言われるユニコーンが、素直に背に立つことを許してくれた。
こいつは、あれが女神だと分かってるっぽい。
通りに面した塀を乗り越える。
どうせ、悪さしてるのは中の高位聖職者ってやつだろう。
昔から坊主ってのは、ろくな事をしないものだ。
『待ってても良いのだが』とも思う。
何といっても、女神様はとてもお強い。
しかし、賊徒をおびき寄せる為、自らを囮にした行動に俺はいたく感動した。
そして、役に立つところを見せたいと決意したのだ
最前線に立つ上官の為なら、一兵卒は死の恐怖も乗り越えるものですよと。
そこいらの木々の枝葉を体にくくりつけ、匍匐前進。
ちょっと輪郭をぼやかすだけで、人の目には付かないと漫画で読んだのだ。
……俺は、あっさりと見つかった。
「こいつ、どうしましょう?」
一度見た覆面に剣を突きつけられて、当然お手上げ。
こんな偽装してりゃ言い訳もきかない。
仕方がない戦うか、と思ったのだが。
「あっさり警戒網に引っかるし、探ってみても何の反応もねえな。素人だ」
手に水晶球を持った男が、勝手に評価してくれる。
しかも、水晶球には魔法陣が浮いている。
そういや、そういう世界だって忘れてた。
ならば、ここは。
「お、お許し下さい! わたしはただお嬢様が心配で、後を追ってきただけでげす!」
忠実な下僕になりきった。
「うるせえ! 大声出すんじゃねえ!」と一発殴られたが、風向きも変わった。
「お前も大声出すんじゃねえよ。見られても面倒だ、地下へ連れてけ。一緒に始末してやる」
頭目らしきのがペラペラと喋った。
無事に教会の地下施設へ潜り込めたが、階段を降りた途端に臭う。
『なんだこれ? 嗅いだことあるような、ないような……』
十数歩進んで理解する。
人の体臭を何百倍にも凝縮して、糞便の臭いが混ざった感じ。
ずらりと並んだ地下牢には、女神様以外にも大勢の女性が捕まっていた。
すすり泣きの聞こえる中で、空いた牢に放り込まれる。
また両手を縛られたが、速攻で外す。
「女神さまー女神さまー、いらっしゃいますかー?」
何の遠慮もせずに、大声で呼びかけた。
見張りが何か叫んでるが無視していると、直ぐに返事があった。
「おー、来たのか。えらいぞ!」
褒められてとても嬉しい。
「ヴィルクォム関連の物は、お前みたいなのが居ると便利なんだ」
良く分からんが、認められてとても嬉しい。
「ってめーら、こらっ! 舐めてんのか!?」
ガンガンと金属音がする。
痺れを切らした見張りが、女神様の牢屋の格子を剣か槍で殴ったか。
バカな奴め。
どーん! と派手な音がして何かが吹っ飛んだようだ。
もう見張りの声はしない。
異変が起きたのを察した女達も息を殺し、静まり返った地下牢を、女神様がゆっくりと歩いてくる。
ほんのひと睨みで、俺を閉じ込めていた鉄格子が崩れた。
ついでに女達も助け出し、魔法の警戒網を停止させて外へ逃がす。
地下へ戻ると、見張り役は生きていた。
「こういうのは放っておくんですか?」
「んー、わたしはわたしの世界の草花から星々まで、全て愛しているぞ?」
微妙によく分からん答え。
女神様は、もう一言付け加えた。
「目の前で死んでも、互いに殺し合ってもわたしは関与しない。ただ世界の中で循環するだけだ。ただし、わたしに殺されると世界から弾き出される。それは望むところではない」
優しいのか冷たいのか、良く分からんなあ。
「ま、似たようなことをする存在があるから、たまにお前らみたいなのを呼んで対処させるがな」
ふーん、異世界勇者は別会社からの派遣なのね。
「さあ、いこうか」
「へい!」
直接雇用になった俺は、女神様に付いて歩きだした。
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