神の血を引く姫を拾ったので子供に世界を救ってもらいます~戦闘力『5』から始める魔王退治

六倍酢

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五章

一つ目の卵

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 ミグは魔法使いである。
 灼熱の魔法を操る攻撃に特化したタイプは珍しい。

 普通の魔法使いは、もっと役立つ技術を身につける。
 代表的なものが、通信と運搬と強化。

 遠くと情報のやり取りをし、重量を減らし大量の荷物を運び、強化された道具は農業・鉱業・林業などを盛んにする。

「それが、これだ!」
 ユークは通信用の水晶球を取り出した。
 戦いの合間、暇があれば仲間達から文字を習っていた。
 その成果を見せる時が来たのだ。

 水晶に指で文章を書いて、送りの呪文を最後につけると、直ぐに返事が来た。
 大商人バルカの用意してくれた船からだ。
『了解した。西岸のパドウェに向かう。5日の予定』

「出来た!」
 ユークは自慢げに水晶を見せる。
 何時も文字を教えていたミグとラクレアが、揃ってユークの肩や頭をばんばん叩きながら褒める。

 ノンダスにとっても若者の成長は嬉しいが、寂しくもある。
 個々の戦闘に関しては、もう追い越されたと感じていた。

『底がない。いいえ、天井がないのね。この二人……』
 この世界で魔王と対峙して生きてるのは、ユークとミグだけだ。

「ユークちゃん、そろそろ指揮の勉強もした方がいいわね。テーバイに戻れば軍事関連の書物があるから読みましょう?」
「ええっ、勉強!?」

 そんなもの、森に暮らしてた頃も冒険者になってからも、無縁だと思っていた。

「そうよ、読み書きは士官の第一歩よ。これからコルキスを背負っていくのでしょ?」
「ええっ、俺が!?」
 
 ユークは思わずミグを見てしまう。
『俺は誰にも言ってないのに』という視線だったが、ミグはすっと目を逸らす。
 
 代わりにサラーシャが答えた。
「ミルグレッタ様の夫となられるには、それくらい当然でしょう。いずれは再建した全軍の先頭に立っていただかねば」
 
 ミグは女性陣と会話を共有し秘密なんてなかった。
 しかも、以前なら全力で否定するはずのミグが、軽く頬を染めてうつむくのみ。

 その様子を見て、ユークもいよいよ追い詰められたと感じた。
『もう決定事項なのかよ……』
 心の中で呟き、賢明にも口には出さなかったが。

「ユークさまも年貢の納め時ですかー。残念ですねえ」
 本気か冗談か分からぬ口調でラクレアが慰める。

 どうしたものか……とユークも悩む。
 ミグの境遇や容姿に惹かれて一緒に旅をしてきたのは事実だが、周りから囃されると逃げたくなる。
 彼はまだ若かった。


 ユーク達は、西から登ったアペニン山脈を東へ降りる。
 港で船に拾われ、海を渡ればテーバイに着く。
 そこからは陸路で1ヶ月余りでコルキス、旅は終盤かに思われた。

「あれは、なんだ?」
 海を見下ろせる山道、そこから海岸に異様な物体をユークは見つけた。
 黒い瘴気をまとった”魔王の卵”だった。

 リリンが確認して断定する。
「あらら、あれはヤバイね。もうすぐ羽化するよ」

「もうすぐってどれくらい?」
「一ヶ月もなさそう」

「そんな! コルキスの卵は5年前のものだろ?」
「知らないよー、同時に孵るように設定したんじゃない?」

 魔王の産んだ三つの卵、その一つを前にして作戦会議が行われた。
 数キロの距離を置いて数千の兵士が見張っているが、魔物の姿はない。

「さて、捨て置いて先を急ぐか手を出すかだけれど……」
 ノンダスは一応提案するが、ユークの顔を見れば答えは分かる。

「やろう。今なら全員が万全で、準備も整えられる。放っておけば西海岸は全滅だ」
 ユークが即答する。

 特に反対意見も出ない。
 ミグも大きく頷く、彼女はユークのこういうところが大好きだった。

 ユークの自信も根拠がない訳ではない。
 通常の戦場で使われる強化魔法、さらにエルフの守り、長い禁欲で貯め込んだ力、これらをかけ合わせてユークの戦闘力はおよそ6万。

 ミュールは4万5千、ラクレアとノンダスが1万5千。
 サラーシャは大きく離れもうミグの護衛しか務まらないが、そのミグが完全に集中すれば8万を超える一撃が出せる。

 これ程の好機は滅多になく、見張りの兵士に早速申し入れる。

「俺達が戦う。危ないから手を出すな」と、大上段な物言いだったが指揮官は素直に受け入れた。

 なんでも、「最近は夜毎に卵から咆哮が聞こえるんだ。何とかしないとと思っていたが、何も効果がない……」
 そう言って指揮官は、噂に聞く冒険者の一団に頼ると決めた。


「少し手伝うよ。卵はうちが割る。レアー様には内緒だよ?」
 大地母神の眷属が完熟する前に追い出してくれる事になった。

 ユークは、油断はして居なかったが、少し自信過剰になっていた。
 今なら、多少のモノが現れても”勝てる”と。

 装備は整い、幾重にも強化魔法をまとい、仲間達と迎え撃てば何とでもなるはずだった。

 リリンが羽化をうながし、巨大な卵を割って現れた”それ”は、周囲の瘴気を吸収し急速に力を上げる。

 ユークの右目に、久々に強い警戒信号が出た。
 見守る兵士の間から、悲鳴にも似た声が飛ぶ。

「竜だ……」
「ドラゴン!?」

 殻を割ってもたげた長い頭から、蒼い炎がほとばしる。
 ユークの頭上の大気を焼いた閃光は、兵士の一団を直撃して瞬時に二百人以上が蒸発する。

 <<弱者の物差 >>が弾き出した数字は、18万7千余だった。
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