神の血を引く姫を拾ったので子供に世界を救ってもらいます~戦闘力『5』から始める魔王退治

六倍酢

文字の大きさ
51 / 88
三章

決着

しおりを挟む

 三人が同時に見つけた、黒い影。
 アルゴの接近に気付いたのか、人ならぬ動きでくねる。

「……なんでしょうね?」
「警戒した方が良さそうね……」

 ユークには、正解が見えていた。
 きっちり捉えた右目の中で、『25』の数字が縦に並ぶ。

「あのー、なんか弱いみたいだけど、気を付けてね。魔法があるかも」
 一応、油断はしない。

 本体よりも、危険なのは右手に持った杖だと、距離があっても分かる。
 禍々しい気配が、魔力の弱いユークやラクレアにも伝わった。

「とりあえず、攻撃してみるわ」
 腰を振る黒フードに向かって、ミグが仕掛けた。
 アルゴの背の上で魔法を練り、同時に五本の槍を生み出して、タイミングをずらして投げつける。

「やったか!?」とは、誰も言わなかった。
 無造作に振ったように見えた杖が、全ての魔法を弾き飛ばす。

「なんて非常識!」
 ミグの攻撃魔法は、既に常識はずれのレベルに達していた。

 個体の素質、受け継いだ血筋と加護、ミスリルの武器。
 それぞれが掛け合わされ、魔王城に突入した時とは比べ物にならない。
 それを杖の一振りが易々と防いだ。

「俺がいく。ラクレア、寄せて!」
 次は、更に成長速度の速い剣士が挑む。
 アルゴが少し進路を変え、斜めから黒フードに近寄る。

『馬の上から飛んで斬りかかってやろう!』
 頭の足りない少年は、カッコ良い登場だけを考えていたが、ラクレアはきちんと減速した。

「あれ、止めるの?」
「走る馬から飛び降りたら、怪我ではすまないですよ」
 そこら辺は、しっかり理解していた。

「それじゃ、わたし達はあれを相手するから」
 ミグが指差した上空には、数体のキマイラが舞っていた。

「すぐに片付けて手伝うよ」
 未だ変化のない戦闘力『25』の二段重ねに、ユークの自信は揺らがない。

「へー、期待せずに待ってるわ」
 アルゴと共に、二人は援護に回る。

「さて……とっ!」
 何の口上も対話もなく、ユークはいきなり斬りかかった。
 防衛線が崩れてから既に半日、街の郊外では魔物の襲撃が始まっている。
 余計な時間はない。

「うおー! すげーべ! なんだこの杖!」
 黒フードの中では、ミグの魔法を防いでゴブリンのテンションが上がる。
 だが、直ぐに次が来た。

「や、奴だ! 奴がきたべ!」
 眼帯ゴブリンが叫ぶ。
「だから、何だってばよ! おらは外が見えねえんだぞ!」

「城の中でおらの右目を奪ったあいつだよ!」
「へー、生きてたべか。つーか、あいつは戦闘力『5』だったべ?」
「そうだが……なんか雰囲気が違うべ……って、うおい!?」

 足元の砂も意に介さず、一気に間合い詰めて『カウカソス』の抜き斬り。
 杖が自動でこれを受けた。
 白い骨のかけらが、ほんの薄くだが飛び散る。

「杖が勝手に動いただ! 流石は悪魔の尻尾! けど削れただ!?」
 眼帯ゴブリンは、やかましく解説する。
 逐一報告しないと、下のゴブリンは動けない。

 ユークは、受けられた事に驚いたが、構わずに本体を仕留めいく。
 素早く正確に剣を繰り出し、定石通りに黒フードの左手側に回り込む。
 動きに付いてゆけず、下になったゴブリンが転んだ。

『杖ごと貫く!』と、両手で突きの構えをとり、一歩踏み出したところで警戒反応が出た。

「下か!?」
 大きく跳ね退いたところで、砂を割ってサンドワームが現れ、ゴブリン達を上空へ押し上げる。
 頂点へ達したところで、キマイラがそれを捕まえた。

「バイバイだゴブ~!」
 大声で叫んだ眼帯ゴブリンの声で、ユークにも本体の正体が知れた。

「ミグ! 魔法で!」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
 別のキマイラを撃ち落としたミグの位置は遠く、ゴブリンを掴んだキマイラは速い。

「ミグさま、支えて下さい! いけ、アルゴ!」
 アルゴの腹を蹴ったラクレアが、鞍から腰を浮かす。

『全速で』の合図を受けたアルゴが、全ての筋肉を使い躍動する。
 ミグに支えられしっかりと立ったラクレアは、馬に取り付けていた盾を外し、無双の怪力を振り絞って投げた。

 回転しながら飛んだ盾が、キマイラの翼をへし折る。
 真っ逆さまに落ちてくる黒フードに向かって、ユークが駆けた。

「おい、力を貸してくれ!」
 頼んだユークは知らなかったが、剣は知っていた。
 今戦っている『物』が、前の主の命を奪ったことを。
 少しだけ、今の主が死なぬ程度に火神の剣が力を開放した――。

 急激な温度の上昇と、腕から伝わる振動。
 ユークの手と腕を焼き、神経に響いたが、それは頼もしくさえ感じた。

「うおおおおおおぉっ!」
 気合と共に、神と悪魔に由来する武器がぶつかる。
 凄まじい力のぶつかり合いは数瞬続き、再び剣が骨を断ち切った。

 その勢いのまま、ユークは黒フードの胴体を二つにするが。
「あっ!」
 布の手応えしかなく、上下に別れたゴブリンは、素早く砂に潜って消えた。

「くっそ、あいつら。何処だ!?」
 砂漠や乾燥地で、穴を掘って暮らすゴブリン族。
 大きな手足と細い体はその為に進化し、こうなると見つからない。

「まあ良いか……」と、二つに切れた杖に手を伸ばそうとしたとこで、「駄目よ!」とミグが叫んだ。

 二本並んで砂に突き立った悪魔の尾骨。
 操る者を失い、後方で要塞に群がっていた魔物も、それぞれの住処へ戻りだしていた。

 だが、数千年に渡って溜め込まれた悪魔力は健在だった。
「これは、ここで滅するわ。触っては駄目」
 ユークとラクレアに、もう一度警告した。

 この尻尾が兄アレクシスを殺したと、ミグは知らない。
 しかし、その力は邪悪で、ここで消さねばと確信した。

「全力全開でやるから、邪魔が入らないように守ってね」
 制御を失った魔物が、周りをうろつき始めている。

 ミグは、後を考えず全ての魔力を集中する。
 コルキスの王族が持つ”金羊の加護”が目に見える形になって現れる。
 黄金の糸が幾重にもミグを包み、その魔力を一気に跳ね上げる。

 三人の頭上に特大の<<シリウス>>が輝き、その色は白から青へと変わった。

「凄い……15000を超えた……」
 十分以上の時間を使い、存分に集めたマナは大気から稲妻を生み出し、それを見た魔物は本能から進路を変える。

 それから、青いシリウスはゆっくりと大地に刺さる骨に衝突した。
 先に周囲の砂が溶けて硝子に変わる。

 半径数十メートルが融解し、ようやく悪魔の骨が限界を超える。
 黒く焼け焦げ、灰になり、粉々になって砂漠の風に誘われ消え去った。
 後には、陽に光る 砂漠硝子リビアングラスだけが残った。

 三人は、アルゴに乗って最後に残った要塞へ帰る。
 また両手が使えなくなったユークを真ん中に、ミグが後ろから抱きしめるように支える。

「いてっ! いてっ! 痛い!」
 歩くアルゴに合わせてユークが悲鳴をあげる。

「我慢なさい、男の子でしょ?」
 前と後ろから、ラクレアとミグの声が揃った。

 目の前に迫った三角要塞では、六百人を超える冒険者が総出で迎えていた。
 戦いは終わった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...