神の血を引く姫を拾ったので子供に世界を救ってもらいます~戦闘力『5』から始める魔王退治

六倍酢

文字の大きさ
10 / 88
一章

王女の誇り

しおりを挟む
 
 ユークが娼婦に囲まれていた頃、ミグが案内された先では、トゥルスの王マデブが待っていた。

 配下の者が身分に気づかずに庶民の席を用意したことを、丁重に謝罪はしたが、目の奥にある欲望を隠そうともしなかった。

 社交辞令で応じながら、『またこれか』とミグは心の内で嘆息する。
 どうやら世の男どもは、落ちぶれた王女というものに、強く劣情を掻き立てられるものらしい。

 13歳の時に国を失ってからは、ゆく先々でマデブと同類の視線に晒されてきた。
 一時などは、奴隷狩りの集団――滅んだ国々の女子供を攫うために跋扈していた――に捕まり、その出自から大々的にオークションにかけられたことすらある。
 数百人の奴隷商人や買い手が集まった為にアレクシスの耳に届き、すんでのところで助け出されたが。
 
 兄で嫡男のアレクシスは強かった。
 魔王城とそれに続く魔物の侵入と戦い続け、多くの国民が逃げ出す時間を稼いだ。

 その後も、混乱する諸国に入り込んだならず者を次々と討伐して、何時しか魔王を倒すのは、かの者しかないと言われる程だった。

 だが最大にして唯一の後ろ盾を、ミグは失った。
 絶望しても良いのだが、瀕死の兄が最後に庇った命、軽々しく捨てる気にはなれなかった。

 『できれば……兄の仇を』と考えてはいたが、今の自分では無理だとも分かっていた。
 このとき何故か、兄の剣を持った唯一の仲間の事が頭に浮かんだ。

「ばかばかしい」
 アレクシスでさえ無理だった事を、あの少年に出来るはずもないと、ミグは小さく口に出して打ち消す。

「おや? 何かおっしゃいましたかな?」
 どうやらマデブは、自分が如何に優れて運の良い王であるか語っていたらしい。
 ミグはまったく聞いていなかったが。
「いえ。なんでもございません」と適当に誤魔化す。

 それからマデブは、両王家が仲良くするすることが重要だと説き始め、じりじりとミグに詰め寄ってくる。

 それでも超然とした態度を崩さぬ王女に、遂にしびれを切らして直接的な恫喝に出た。

 要求は単純明快。
『余の物にならねば、トゥルス国内に居るコルキスの難民は全て追い出すぞ』と。

 ここで泣き叫んだり、問答無用と魔法で吹き飛ばせれば簡単に解決するが、前者はミグの性格に合わない。
 後者も、津波のように押し寄せる魔物の大群から逃げのびた民の苦労を思うと、ミグにはとても出来ない。

 口ではもう王女ではないと言いながらも、彼女の本質はまだ為政者だった。
 そして王女の誇りと純潔を、民の安定との天秤にかけるなら、ミグに迷いはない。

「好きになさってください。その代り、避難民が飢えることなきよう、お願い申し上げます」

 この返答は、マデブにとって意外だった。
 彼の基準では、王族が民と引き換えになるなど、あり得ないものであったから。

 それでも、周辺諸国でもずば抜けた歴史を誇るコルキスの王女を、己の話術で陥落させたとあってマデブは上機嫌になった。

「おい、良いぞ」
 声に合わせて3人の女が姿を見せる。
 マデブの趣味、女に脱がされ愛撫される女の顔が、恥辱と快感に悶えるのを見る為に、特別な訓練を受けた女達。

 それからしばらくの間、ミグは全身を6本の手に弄ばれ、召し物を順番に取り上げられた。
 しかし、表情一つ変えず声一つ漏らさぬのは、マデブにとって少々期待外れだった。

『まあよい。これから調教すればよいのだ』
 そう己を納得させ、寝台に押し倒したミグに乗りかかる。

 王族に生まれた彼にとっても、亡国の王女を犯すというのは格別な興奮を覚えた。
 自然と鼻息が荒くなり、余りの醜悪さにミルグレッタ王女も耐えきれずに目を背ける。
 背けた視線の先には扉があり、頑丈に施錠されていた。
 
 マデブの手が白い肌に触れようとした時、扉に刃物が突き刺さるのがミグの眼に飛び込んできた。
 正確には、扉を剣で真っ二つにしようとして失敗したのだったが。

「あれ、おかしいな。いけると思ったのに。もう一度っ!」
 間抜けな声がして、次こそ扉は切り開かれた。

 薄く硬く輝く刃は、いとも簡単に分厚いオーク材と鉄製の鍵を断ち切った。
 乱暴に蹴り開くと、ユークは剣を左手に持ち替えながら、真っ直ぐ寝台まで走り、驚く王の顔を思い切り殴った。

 そして、堂々と名乗る。
「俺はアラルの民、ツガイ村のユークってもんだ。この女はもらっていく!」

 自分を助けるために飛び込んで、王を殴り、迷惑かからぬように棒読みの演技までして……それを見たミグは思わず笑ってしまう。

「な、なんだ、笑ってんじゃねえぞ。早くしろ!」
「演技、下手くそね」

 ユークにだけ聞こえるようにそっと囁くと、ミグは素早く寝台から飛び降り、奪われた服を着る。

 起きたものは仕方ないし、ユークの頑張りを無駄には出来ない。
 何よりも、舌を噛み切った方がマシと思えた状況から救い出された。

 ミグの視界の端に、王家の宝剣を持ったユークがちらりと映る。
 アレクシスとは似ても似つかない姿だったが、少しだけ頼りになる気がしてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...