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『人型』自律兵器3
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「は、ディーヴァぁ!?」
指揮者の間違いじゃないのか。
ムジカが問い返す前に、その硬い腕に強く抱き込まれた。
次いで金属の咆吼が響く。硬質なものが砕けるような、高く澄んだ音が断続的に聞こえた。
思わず身を縮めたムジカだったが、痛みはない。
翼の間から垣間見たのは、緑の獅子とそのたてがみから伸びる銀の帯。
それによってバターのように切り裂かれた床と機材のたぐいと、それを難なく防ぐ青年人形の翼だった。
「すごい……」
羽毛が散るようにエーテルの翼は砕けていくが、中にいるムジカにはそよ風しか届かない。まさか、ここまで堅牢なものだは思わなかった。
「歌姫へ要請します」
また、無機質な声が響いた刹那、ムジカは空中にいた。
反射的に身がすくみ、内臓が浮くような感覚を覚える。
眼下では、今までムジカたちがいた場所に緑の獅子が前肢を床へと突き立てていた。
白皙の美貌の人形は、間髪入れず迫る銀の帯をよけながら続ける。
「眼前の水銀獅子は敵勢力と判断。安全確保のために逃走、無力化、破壊いずれかの指示を求めます」
「破壊できるのか!?」
「可能です」
間髪入れない肯定に、ムジカは反射的にすがりつきかける。
だが探掘屋精神が寸前で待ったをかけた。
腹に回された腕も、抱えられた背に当たる体が硬いことも服越しに容易に感じられる。顔は人間と区別がつかずともこの青年は奇械で、同時に自律兵器なのだと理解した。
ならば、彼は自分の仕様に嘘は言わないはずだ。無力化ができれば、探掘屋として最高の利益が手に入る。そしてムジカには金が要る。
現金な思考だったが、できることならなるべくきれいに。それが探掘屋として正しい判断だとムジカは信じた。
「なるべく傷をつけないように機能停止させてくれ!」
「はい、俺の歌姫」
ムジカの言葉を、青年人形は平坦な声音で受け入れた。
刹那、青年人形は床へと着地し、ムジカを下ろしたかと思うと、今は一対となった光輝をまとう翼を広げて飛びたった。
緑の獅子は攻撃対象を青年人形に変更したらしく、咆吼ののちに迷わず一撃必殺の銀の帯をひらめかせる。
それは水銀と呼ばれる液状の鋼から生まれる流動兵器だ。
普段はたてがみとして保管されており、咆吼による音声操作によって銀の帯へと変化させる。黄金期には周囲の自律兵器を粉砕したという一撃必殺の兵器だった。
一斉に襲いかかってくる水銀の帯を、だが青年人形は1対の翼を羽ばたいて舞うようによけてゆく。
そして水銀の帯がすべて出し切られた緑の獅子へ、あっという間に肉薄した。
獅子は水銀を引き戻そうとしたが一足遅い。
人形の腕からエーテルの燐光を帯びた刃が飛び出しているのをムジカが見つけた時には、獅子の頸椎に差し込まれていた。
硬質さを帯びていた水銀のたてがみが、ばしゃりと液体に戻り床へと散らばる。
瞳から光をなくした獅子がその場に崩れ落ちた。
「制圧完了」
その言葉と共に背に負われていた翼が、燐光となって散っていく。
ムジカは祈る神を持たない。教会なんて滅多に行かない。
けれど、エーテルの燐光に照らされながら、銀の髪の美しい青年人形がたたずむその姿には。天使、という言葉がこれほど似合うものはないだろうと思ったのだった。
指揮者の間違いじゃないのか。
ムジカが問い返す前に、その硬い腕に強く抱き込まれた。
次いで金属の咆吼が響く。硬質なものが砕けるような、高く澄んだ音が断続的に聞こえた。
思わず身を縮めたムジカだったが、痛みはない。
翼の間から垣間見たのは、緑の獅子とそのたてがみから伸びる銀の帯。
それによってバターのように切り裂かれた床と機材のたぐいと、それを難なく防ぐ青年人形の翼だった。
「すごい……」
羽毛が散るようにエーテルの翼は砕けていくが、中にいるムジカにはそよ風しか届かない。まさか、ここまで堅牢なものだは思わなかった。
「歌姫へ要請します」
また、無機質な声が響いた刹那、ムジカは空中にいた。
反射的に身がすくみ、内臓が浮くような感覚を覚える。
眼下では、今までムジカたちがいた場所に緑の獅子が前肢を床へと突き立てていた。
白皙の美貌の人形は、間髪入れず迫る銀の帯をよけながら続ける。
「眼前の水銀獅子は敵勢力と判断。安全確保のために逃走、無力化、破壊いずれかの指示を求めます」
「破壊できるのか!?」
「可能です」
間髪入れない肯定に、ムジカは反射的にすがりつきかける。
だが探掘屋精神が寸前で待ったをかけた。
腹に回された腕も、抱えられた背に当たる体が硬いことも服越しに容易に感じられる。顔は人間と区別がつかずともこの青年は奇械で、同時に自律兵器なのだと理解した。
ならば、彼は自分の仕様に嘘は言わないはずだ。無力化ができれば、探掘屋として最高の利益が手に入る。そしてムジカには金が要る。
現金な思考だったが、できることならなるべくきれいに。それが探掘屋として正しい判断だとムジカは信じた。
「なるべく傷をつけないように機能停止させてくれ!」
「はい、俺の歌姫」
ムジカの言葉を、青年人形は平坦な声音で受け入れた。
刹那、青年人形は床へと着地し、ムジカを下ろしたかと思うと、今は一対となった光輝をまとう翼を広げて飛びたった。
緑の獅子は攻撃対象を青年人形に変更したらしく、咆吼ののちに迷わず一撃必殺の銀の帯をひらめかせる。
それは水銀と呼ばれる液状の鋼から生まれる流動兵器だ。
普段はたてがみとして保管されており、咆吼による音声操作によって銀の帯へと変化させる。黄金期には周囲の自律兵器を粉砕したという一撃必殺の兵器だった。
一斉に襲いかかってくる水銀の帯を、だが青年人形は1対の翼を羽ばたいて舞うようによけてゆく。
そして水銀の帯がすべて出し切られた緑の獅子へ、あっという間に肉薄した。
獅子は水銀を引き戻そうとしたが一足遅い。
人形の腕からエーテルの燐光を帯びた刃が飛び出しているのをムジカが見つけた時には、獅子の頸椎に差し込まれていた。
硬質さを帯びていた水銀のたてがみが、ばしゃりと液体に戻り床へと散らばる。
瞳から光をなくした獅子がその場に崩れ落ちた。
「制圧完了」
その言葉と共に背に負われていた翼が、燐光となって散っていく。
ムジカは祈る神を持たない。教会なんて滅多に行かない。
けれど、エーテルの燐光に照らされながら、銀の髪の美しい青年人形がたたずむその姿には。天使、という言葉がこれほど似合うものはないだろうと思ったのだった。
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