それは私の仕事ではありません

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困った新人騎士

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「アネット、お疲れ様。今日はもう終わり?」
「うん。これを提出したらね。」

男性社会の中にあって、女騎士の割合は国に寄るんだろうけれど、我が国では一割と少ない。アネット・ブラウザーは、伯爵令嬢でありながら騎士団に所属していた。

普通の訓練の他に書類仕事もしているのは、今年から騎士団長が変わり、不正ができなくなったから。

前の騎士団長の名誉のために釈明すると、彼は不正をしようと思ってしたわけではなく、書類仕事が壊滅的に苦手だっただけだ。

あまり内容を見ずに判子ばかりバンバン押していけば、中にはよからぬことを考えるものもいる、という訳。

不祥事には違いないから、更迭されて、新しい人事が発表されて、年若い騎士団長が赴任して来た。

彼は何度か学生の折、見かけた成績優秀者の一人で、確か侯爵家の次男か三男だったような……学年が違う為にあまり覚えていないが、甘いマスクも加わって女性達から人気があった。

むさ苦しい騎士団において、イケメンは目の保養になるので有り難い。彼は来るなり、前の騎士団長の残していった書類を睨みつけると、振り返り、にこやかに笑って、アネットと友人のニコルに、「手伝え」と言った。

それから騎士団長の命令で、書類仕事を手伝うようになったのだが、最近アネットは困っていることがある。

入りたての新人女騎士が自分の仕事を半ばで帰ってしまうのだ。最初に頼んでいた仕事が終わらないから手伝ってほしい、と言い、先輩方に手伝わせておいて、自分の分だけ終わると先に帰る。

新人だから、と大目にみていたが、何度もつづくと流石に腹が立ってくる。上司に相談するも、皆可愛い新人の肩を持ち、こちらを責めてくるのだ。

今日はその新人のエミリアがいないから早く帰れる日で、アネットだけでなく、友人のニコル、同僚のマリアも早く帰ると宣言していた。

提出書類に不備がないか最後に確認した後窓口に向かうと、聞き慣れた声がする。

忙しそうにしている彼女に何故か嫌な予感がして、声をかけずに通り過ぎようとしたのだが、見つかってしまった。

「あ、アネット!良いところに!」
彼女の良いところはアネットには悪いところ。逃げれば良かった、と薄情な思いを抱いて、アネットは諦めて話を聞いた。

「今日ってエミリアさん、休みだったわよね?」
「ええ、確か身内に不幸があったそうで。」
「エミリアさんに昨日までって頼んでおいた書類に不備があるの。わかる人居ないかな?」

念の為に見ると、不備があるどころか殆どが不備。作り直した方が良いレベル。誤字脱字も多いし、文法がなってない。

今からだと一時間もあれば終わるかしら。時計を見ると、まだ時間はある。エミリアはどうなっても良いが、他部署に迷惑がかかるのは、とアネットは引き受けた。

意気揚々と帰っていったアネットが戻って来たことで、ニコルは察したようだ。

「また?」
エミリアの家には最近特に不幸が続いている。彼女の言い分が本当なら、親戚の殆どが亡くなっていることになる。

皆はあまり気にしていないが、今回の休みも、ズル休みだと思っている。それはアネットだけではなく、他の人も薄々気がついていることだ。



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