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新しい人生
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最後の魔道具の納品を、イーサンは清々しい気分で終えた。あの日、王家に関わるのはこれが最後だと、王妃には伝えた。傀儡の王子、ジェイミーには新しい側近を付けた。
彼は生まれて間もなく、命の危機にあったところを、公爵家の影に助けられ、引き取られた。公爵はどこまで知っていたのか、王家の不穏な動きに敏感だった。王妃様の子を死産だと偽り、ジェイミーを差し出した侍女は詰めが甘かった。殺害を依頼した相手が誰を主としているのかきちんと確認しなかった。
「彼を見て、少しは元気になるといいけれど。」
王妃様には、何も伝えていない。自分の産んだ子供が死んだと伝えられて、確認すらもせずにそれを受け入れた愚かさをイーサンは許していないからだ。
「気づかないとかはないよなぁ。」
「ジェイミーと違い、あんなに二人の特徴を引き継いでいるのよ、母としてわからないはずはない、と言いたいところだけど……」
アイリスはうーん、と考えて、最終的には突き放す。
「気づかないならそれまでよ。あんなにお膳立てしてあげたのよ。あの方はそこまで愚かではないと思いたいわ。
それに、あの侍女は驚くでしょうね。始末したと思っていた本物が、自分の息子の側近として、傀儡の王子を操るのだから。」
どちらかと言うと見た目は父似、頭脳は母に似た彼は図らずもジェイドという名を公爵につけられていた。彼を育てていた背景には、ジェイミーがいつかやらかした時には、彼を暗殺し、ジェイドを代わりに王子として送り込む用意があったのかもしれない。
幼い頃からアイリスとも仲良くさせて、あわよくば、ジェイミーが駄目でも、ジェイドと結婚させる未来もあったのかもしれない。
けれど、アイリスが選んだのは、イーサンだった。ジェイドが選んだのも、アイリスではなかった。彼は学園を卒業後、イーサンの弟子の一人と結婚した。魔道具の製作について、何度か絡んでいるうちに恋が芽生えたと言う。
イーサンとアイリスはもう王家に関わりたくなくとも、公爵家やジェイドは違う。これから新しい船頭が舵を取り、あるべき姿に戻していかねばならない。
ジェイミーとリリスに付けられたピアス、首飾りは、教育終了後、新しい物に付け替えられた。二人とも、喚く気力さえなく、素直に応じたらしい。
侍女は、彼女の希望通りジェイミー付きになった。勿論、魔道具付きなので、勝手な真似はできない。仮にも王子を実験台にできないので、今後新しい魔道具の製作にあたり、実験したい時には彼女を使えるように誓約書を拵えておいた。
「ジェイミーの為に」と言う言葉に反応した彼女は、母として名乗れなくとも親子の時間を楽しんでくれていることだろう。
国王陛下は病気療養という名目の下、先に幽閉が決まった。特に普段からいてもいなくても変わらないらしいから、何の不都合もない。彼にはジェイドの生存は知らせないことにした。親子の情を訴え、近づいてこられることをジェイドが拒否したからだ。
彼は公爵を父と慕っている。理想と現実の乖離は大きいとは言え、あまりにも落差があると、見るのも嫌になる。
まあ、それはイーサンにも、思い当たる節はあるので、まあ、良いとしよう。
「これで、もう思い残すことはないわね。」
これが終わらない限り出来なかったことがある。
抱っこしていたアイリスをソファに座らせ、その前に跪く。何ごとも形は大事だ。
「憂いもなくなったし、俺と結婚してくれる?」
「する!」
正直、イーサンは内心では心配だった。いつ、「やっぱり嫌だ」と言われるのかと。アイリスは、これから新しい幸せが待っているのに、いつまでも自分が独り占めしていいのかと。
彼女をもう一度抱き上げて、次はベッドに運ぶ。結婚式までは最後まではできないが、アイリスの目が、期待に輝いた。
彼は生まれて間もなく、命の危機にあったところを、公爵家の影に助けられ、引き取られた。公爵はどこまで知っていたのか、王家の不穏な動きに敏感だった。王妃様の子を死産だと偽り、ジェイミーを差し出した侍女は詰めが甘かった。殺害を依頼した相手が誰を主としているのかきちんと確認しなかった。
「彼を見て、少しは元気になるといいけれど。」
王妃様には、何も伝えていない。自分の産んだ子供が死んだと伝えられて、確認すらもせずにそれを受け入れた愚かさをイーサンは許していないからだ。
「気づかないとかはないよなぁ。」
「ジェイミーと違い、あんなに二人の特徴を引き継いでいるのよ、母としてわからないはずはない、と言いたいところだけど……」
アイリスはうーん、と考えて、最終的には突き放す。
「気づかないならそれまでよ。あんなにお膳立てしてあげたのよ。あの方はそこまで愚かではないと思いたいわ。
それに、あの侍女は驚くでしょうね。始末したと思っていた本物が、自分の息子の側近として、傀儡の王子を操るのだから。」
どちらかと言うと見た目は父似、頭脳は母に似た彼は図らずもジェイドという名を公爵につけられていた。彼を育てていた背景には、ジェイミーがいつかやらかした時には、彼を暗殺し、ジェイドを代わりに王子として送り込む用意があったのかもしれない。
幼い頃からアイリスとも仲良くさせて、あわよくば、ジェイミーが駄目でも、ジェイドと結婚させる未来もあったのかもしれない。
けれど、アイリスが選んだのは、イーサンだった。ジェイドが選んだのも、アイリスではなかった。彼は学園を卒業後、イーサンの弟子の一人と結婚した。魔道具の製作について、何度か絡んでいるうちに恋が芽生えたと言う。
イーサンとアイリスはもう王家に関わりたくなくとも、公爵家やジェイドは違う。これから新しい船頭が舵を取り、あるべき姿に戻していかねばならない。
ジェイミーとリリスに付けられたピアス、首飾りは、教育終了後、新しい物に付け替えられた。二人とも、喚く気力さえなく、素直に応じたらしい。
侍女は、彼女の希望通りジェイミー付きになった。勿論、魔道具付きなので、勝手な真似はできない。仮にも王子を実験台にできないので、今後新しい魔道具の製作にあたり、実験したい時には彼女を使えるように誓約書を拵えておいた。
「ジェイミーの為に」と言う言葉に反応した彼女は、母として名乗れなくとも親子の時間を楽しんでくれていることだろう。
国王陛下は病気療養という名目の下、先に幽閉が決まった。特に普段からいてもいなくても変わらないらしいから、何の不都合もない。彼にはジェイドの生存は知らせないことにした。親子の情を訴え、近づいてこられることをジェイドが拒否したからだ。
彼は公爵を父と慕っている。理想と現実の乖離は大きいとは言え、あまりにも落差があると、見るのも嫌になる。
まあ、それはイーサンにも、思い当たる節はあるので、まあ、良いとしよう。
「これで、もう思い残すことはないわね。」
これが終わらない限り出来なかったことがある。
抱っこしていたアイリスをソファに座らせ、その前に跪く。何ごとも形は大事だ。
「憂いもなくなったし、俺と結婚してくれる?」
「する!」
正直、イーサンは内心では心配だった。いつ、「やっぱり嫌だ」と言われるのかと。アイリスは、これから新しい幸せが待っているのに、いつまでも自分が独り占めしていいのかと。
彼女をもう一度抱き上げて、次はベッドに運ぶ。結婚式までは最後まではできないが、アイリスの目が、期待に輝いた。
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