獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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第一章

【閑話】サミアン

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――――サミアン、決して憎んではなりません…… ここで私とお別れするのは運命だったのです。あなたはこれから沢山の出逢いを経験し、自分の力で新しい家族を築くのです…… 
憎しみは、新たな憎しみしか生みません。喜びは、新たな喜びを連れて来てくれるでしょう…… サミアン…… あなたの未来が喜びで満たされますように……



熊の獣人達が突然おうちにやって来て、みんなを斬りつけていった。
僕とお母様を守ろうとしたお父様も、執事のロアンも……

そしてお母様も……

僕は獣型になって、同じように獣型になったお母様の体の下で、騒ぎが収まるのを待っていた。
―――お母様は、何を言っているのだろう? 熊さん達がいなくなったら、一緒におやつ食べようよ。

お母様の声が聞こえなくなる頃には、辺りの喧騒も収まっていた。
「おかあたま?」
お母様が重くて外に出られない……
―――それに何だか、お母様の体、どんどん冷たくなってるよ?
僕はだんだん心細くなってきて、お母様の下から出ようとするのを止めた。
ここから出たら、もうお母様と一緒に居られない気がしたから……

どのくらいそうしていたのかは覚えていない。長い時間だった気もするし、短い時間だった気もする……

おうちの中がまた騒がしくなってきて、僕のいるお部屋の中にもたくさん人が入ってきた。
僕は、近づく足音に震えながらも、見つからないようにじっとしていた。
―――お母様は僕と同じ白狼だから、ここに居れば見つからない。大丈夫、きっとお母様が守ってくれる!

「ザハト!! ああ……リューシュもっ! 何故こんなことに……」

お父様とお母様の名を呼ぶ声が聞こえる。でも、また熊さんかもしれない……
お母様の下で必死に息を殺していた僕だけど、お母様の体が急に軽くなって、周りが明るくなった。

「サミアン? おい、サミアン!生きているのか!?」

恐る恐る声の主を確認すると、お母様を腕に抱いた、ガインおじ様だった。

「キューン」
―――あれ?おかしいな、人型に戻れない。上手く発声もできないし……

おじ様はそんな僕を悲しそうな瞳で見つめていた……



おじ様の住む狼族の館に連れて来られた僕は、僕専用のお部屋を貰った。乳母のお姉さんは、人型になってお話出来ない僕に手を焼いていたようで、だんだん話しかけてこなくなった。
朝起きると、ヒョイと乳母車に乗せられて、テラスに連れて行かれる。そして一日中、お庭やテラスで一人で過ごす。
毎日それの繰り返しだった。

ガインおじ様は、毎日僕の様子を見に来るけど、困ったような顔で見つめるだけだ。おじ様のことは嫌いじゃないけど、狼族の総長様だから、ちょっと怖いんだ。
お母様が「ガイン兄様は、凄く強いんだよ」って言ってたから、怒らせたら大変だ。

僕はいつになっても人型になれなかった。みんなに内緒で、一人でいる時に一生懸命試してみたけどダメだった。
―――僕……ずっとこのままなのかな? お母様に会いたい、熊さんさえ来なければ…… ダメだ!お母様が憎んではいけないと言っていた…… でも……



そんなある日、突然、一人の人間が現れた。
―――お母様よりちっちゃくて、とっても綺麗な男の人…… おじ様と何か言い合っているけど、おじ様が凄く強いって知らないのかな?

でもちょっとうるさくて、お昼寝出来ない……

木陰に移動しようと思ったら、突然体が浮き上がった。
そして、誰かが僕のお腹に顔を当ててスリスリしてくる。
―――やめてー。くすぐったいよー。
前足で一生懸命押し返すけど、降ろしてくれない。

「ふふっ、大丈夫、怖いことしないよ」

僕を抱き上げたのは、おじ様と言い合いしていた筈の人間だった……
にっこり優しいお顔で微笑むと、僕の背中をフワリと撫でた……

―――抱っこもナデナデも久しぶりー。ふふっ、あったかくて気持ちいい……それにこの人、とてもいい匂いがして安心する……

「キュン」と鼻が鳴り、眠気が訪れる。
―――お昼寝しようと思っていたけど、ここで寝ちゃってもいいのかな?
人間の腕の中は温かくて、眠気を我慢するのは無理だった。



―――さっきからユラユラ揺れて気持ちいい。ここどこだっけ?

まだユラユラしていたいけど、僕は薄目を開けて確認した。

「ふふっ、お目覚め?」

僕は驚いて、咄嗟に腕をガブリと噛んだ。
「うっ!」
人間が痛そうに顔をしかめて、腕の拘束が緩む。

―――あっ、落ちちゃう!

でも僕は落ちなかった。人間が痛いのを我慢して、僕を支えてくれたから……
―――ごめんなさい!痛くしたのに落とさないでくれてありがとう。

「クリス様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ……痛くない。ビックリさせちゃってごめんね」
「キュン」

―――僕が悪いのに…… 心配かけないように傷を隠したのも分かってるよ!ごめんなさい、ごめんなさい!

僕は傷を隠す方の手をペロッと舐めた。

そのあと、人間のお部屋で傷の手当てをした。
―――痛そう……あんなに血が出てる。
なのに僕を落とさないでくれた……

心配で眺めていると、乳母のお姉さんが乳母車を押してやって来た……

―――あ……また一人のお部屋に帰るのかー。でも今日はちょっと楽しかった。
そんな風に思っていたら、人間が予想外な事を言い出した。

「ねぇノイ、サミアンはこれから俺の部屋に置いては駄目かな?」
「何を仰います!狼の子は皆、一歳を過ぎたら、両親と別の部屋で寝起きするものです」

―――そうだよ。僕もお父様とお母様が亡くなる少し前から一人で寝る練習したんだよ!

「決めた!サミアンは今日からこの部屋で俺と一緒に暮らす!文句あるなら二人でこの家、出て行くから!」

「クリスさま~!困ります~!」

―――ええ?すごく強いガインおじ様に怒られちゃうかもしれないよ?
「クゥン」

「ふふっ、大丈夫、ガインが文句言ってきても、俺が守ってやるからな!」

―――あれ?なんで思ってること分かったんだろう?

顎の下を両手で包まれ、わしゃわしゃと撫でられる。
―――ふふっ、気持ちいい!

お母様が、自分の力で新しい家族を築けと言っていた……
それなら『お母様』はこの人がいい!
この人しかいない!

「お、おか、……おかあたま」
僕は勇気を出して呼んでみた。でも……

「お父様だよ?サミアン」
―――違うよー!!

「…………おかあたま」

「いい子だね、サミアン。ゆっくり覚えようね……」

―――分かって貰えない……でも自分の家族を作るためにがんばる!

「おかあたま……」

お母様は諦めたように、にこりと笑った。


それからは、ガインおじ様も、お父様がお母様や僕を見つめていた時のような目で、クリスお母様や僕を見守ってくれるようになった。
だからおじ様に『お父様』になって貰うことにした。


お母様……

喜びが喜びを連れてきてくれるって本当ですね……
クリスお母様が来てから僕は、喜びがたくさん増えました。

セレスティオにも選んで貰えたし、グランドルさんにはハーレムに誘われたし、しんたろさんとも友達になりました!
それからクリスお母様のお腹の中にも……


空にポッカリ浮いている真っ白な雲が、白い狼の形になった……

「おかあたま……タミアンは、ちあわてにちてまちゅ……」




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