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第一章
38 家路
しおりを挟む「ガインッ!!」
「おとうたまー!!」
俺達がガインの胸に飛び込むと、ガインは俺とサミアンに、たくさんキスをし、ギュッと抱き締めた。
「クリス……よくサミアンを守ってくれた。サミアンも、よくお母様を守ったな」
「うぅぅ、うんっ!」
「はゎゎ、はいっ!」
俺達にとって最高の褒め言葉だった。でも俺は、サミアンの頑張りはそんなもんじゃないと、ガインに伝えたかった。
「サミアンが付いて来てくれたから、上空で凍死しないで済んだんだよ! サミアン、怖いのに頑張ったんだ!! 王子からも守ってくれて、ケガまでして!!」
「ああ……分かった。サミアン、いい子だ。流石狼族の男だな」
「おとうたま……」
サミアンの大きな目からボロボロと涙が溢れた。大好きなガインに認めて貰えて嬉しいのだろう。
サミアン本当に本当に頑張ったんだよ……
いっぱい誉めてあげて!
王様に他の人間達の解放と賠償を約束させて王宮を出た俺達は、ライヒアの家で一晩休み、帰路に就いた。
「いやぁ、快適だね~!」
俺達はレパーダの背中に乗って、ガレニアへ向かっている。
飛行機並の速度で飛行するレパーダの背中は、何故か暖かく、そよ風のような微風が吹いていて、快適だった。
ライヒアが酒盛りしたくなる気持ちも理解できる……
この長い道程をサミアンと二人、宙吊りで渡って来たのかと思うと、身の毛もよだつ思いだ。
「本当に俺も付いてきてよかったのだろうか?」
「何言ってるのササキさん! 俺達もう仲間だよ!」
「なかまでちゅ!たたきたん」
ササキさんは正座をして、畏まっている。流石、日本人だ。
「足崩しなよ、先は長いよ。それよりササキさん、どこで剣の扱い覚えたの?」
「剣道をやっていたんだ。日本一になったこともある」
「えっ!?凄い人なんだね!」
「滝川クリス程じゃないけどな……」
ササキさんはあっちでは35歳だったらしく、同世代で話し易い、あっちの世界で出逢ってもいい友達になれたような気がした。
「本当に驚いたぜ!こんな華奢な美人がアルファ相手に、一歩も引かねぇとはな!俺のハーレムに入れてやろうか?」
ササキの勇姿を目撃したグランドルが口を挟んで来た。
「ハーレム?」
ササキさんは大きな瞳をパチクリさせて、首を傾げた。
「……ああ、気にしないで、この人の口癖だから……」
「ひどいな、誰にでも言ってる訳じゃないんだぜ」
「タミアンにもいいまちた」
「うぅっ」
逃げ場の無い空の上で、全員の冷たい視線がグランドルに突き刺さる……
流石にサミアンは、人としてアウトだろう。一夫一妻制の狼達には、あり得ない下半身のだらしなさだ。
「ササキさん下の名前は、なんて云うの?」
「えっ?ああ……『シンタロウ』だ『シン』でいい」
「シン、改めて宜しく!俺の事はクリスでいいよ」
「ああ、宜しく、クリス」
「よろちく、ちんたろたん」
「誰が『ちんたろたん』だ……」
そう言って笑いながら、シンはサミアンを撫でた。本当に子供が好きらしく、サミアンもすっかり心を開いている。
俺も正直、命懸けで守ってくれるとは思っていなかった。こんなに真面目な男なら、俺を殺した事を、夜も眠れない程悔やんでいたと云うのも本当なのだろう。
「シン、俺とサミアンはシンに命を救われた…… 本当に感謝しているよ」
「ありがとうごぢゃいまちゅ ちんたろたん」
俺達はお互いに罪悪感を抱いていたけど、これからはこの異世界で一緒に頑張って行こうと、微笑み合った。
「三人で、なにやらニコニコしてるぞ! 可愛いな、おいっ!!」
「グランドル落ち着け、お前のハーレムには誰も入らん!」
楽しそうに談笑する可愛らしい三人を眺めながら、むさ苦しい男三人は、ほんのり癒されていた。
「俺も狼族になろうかな?」
「ネコ科の狼族なんているか!大体総長が抜けたら獅子族はどうなる!?」
ライヒアはグランドルとはあまり面識はなかったが、ネコ科特有の柔軟性なのだろうか? 破天荒な発言の連続に面食らっていた。
「ライヒアはこれからどうするんだ? ルーシアには居辛いんじゃないのか?」
「そうだな……レパーダもクリスの傍にいたそうだしなぁ……」
――――三日前、ライヒアが空の散歩を楽しんでいると、レパーダが突然ガレニアの方角に向きを換え、速度を上げた。
何事かと思ったが、緊急事態だという事は分かった。
ガレニアに着くと、クリスとサミアンを追って、ルーシアへ旅立とうとしていたガインとグランドルに遭遇し、二人を乗せてとんぼ返りする羽目になった。
おそらくレパーダは、ガインを迎えに行ったのだろう……
レパーダには、未来が見えているのかもしれない…… 数年前に狼族に使役したことも、クリスの召喚と関係があったのだろうか?
「クリス様ー!!!」
館の近くの丘に着くと、馬車を引いたノイとミゲルが迎えに来た。
「よくぞ、ご無事でー!サミアン様もー!」
俺とサミアンが、黒竜に連れて行かれる所を目撃していたノイは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で迎えてくれた。よほど心配していたのだろう。
「本当に生きた心地がしませんでしたよ」
「ああ、ミゲル。長く不在にしてすまなかったな……」
館の責任者として残らざるをえなかったミゲルも、気が気じゃ無かったようだ。
シンが、こちらの生活に慣れるまで、ノイにお世話を頼もうと思ったら、当の本人が「仕事がしたい」と言い出した。
ブラック企業に勤めていたシンは、働いていないと落ち着かないらしい……
狼族の館はガインとミゲル以外は基本ホワイトだ。働き方改革には丁度いいだろう。
結局シンは、ノイと一緒に俺とサミアンのお世話係をする事になった。慣れてきたら、サミアン専属になると聞いたサミアンは、なぜかテレテレしながら、シンに言った。
「ちんたろたんはタミアンのおてわがかりだから、とくべつにテレチュティオにも、たわらててあげまちゅ」
「…………えっ?」
…………シンがサミアン語をマスターするのが早いか、サミアンが「サ行」を言えるようになるのが早いかは、まだ分からない……
やっと帰って来られた……
たった5日ぶりなのに、帰って来られる保証が無かったせいで、もっとずっと、長く感じられた……
ガインは元首になると云うし、この数日の間に、色んな状況が変わってしまったせいもあるだろう。
――――そして、俺の中でもガインに対する想いに少し変化があった……
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