獣人の子育ては経験がありません

三国華子

文字の大きさ
37 / 67
第一章

37 ガインの優しさ

しおりを挟む

「誰だお前は!! いや待て、黒い狼…… お前がガインか!!」

レパーダから飛び降りたガインは、サミアンを抱く俺を庇うように、王子の前に立ちはだかった。
(足、ジーンッてしてないかな?十メートル位あったけど……)

レパーダから縄梯子が降ろされ、あと二人降りてくる。
ライヒアと……グランドルッ!?
なんか濃い~メンバーだな……

ガインは剣先を向けられたままだが、怯む様子も無く毅然と王子に言い放つ。

「我が伴侶と、息子を取り戻しに来た」

「どういうつもりだ! ここは後宮だぞ!! 他国の後宮に乗り込むなど、我が国に戦でも仕掛けるつもりかっ!?」

「そんなことは知らん。先に私の館から、伴侶と息子を連れ去ったのはお前達のほうだ。俺は取り戻しに来たまでだ」

ライヒアとグランドルも地上に降り立つとレパーダは、上空を旋回し始めた。流石にあの巨体を静止して浮かせるのは長くは持たないみたいだ。

異変を感じた兵士や、後宮の女達も集まって来て、庭園は一気に賑やかになった。

「王子! これは一体!?」
後宮の外で待たされていたのであろうグリードも、いち早く駆け付けたようだ。

「見て分からんのか!侵入者だ!早く捕らえろ!!」

王子の命令で、駆け付けた兵士達が一斉にガイン達に挑みかかる。
ガインは一歩も引かず、寧ろ後に居る俺達から距離をとるように前進し、剣を抜いた。
「ライヒア、グランドル、後々問題になる。面倒だが、刀背打ちにしてくれ!!」
「分かった!!」
ライヒアが答え、グランドルも頷いた。

後宮の外から続々と兵が増員され、敵の数はおそらく三百人を越えている。
だがその場に三つの竜巻が発生したかのように、三人の周りの兵士達が、次々となぎ倒されて行った………

(ショボくないアルファってすげぇ!!)

三人の勇姿に見惚れていた俺は、いつの間にか、後ろから近づいた王子に気が付かなかった。
だが、王子が俺を捕らえようと襲いかかった瞬間、何者かに阻止される。

「ササキ!?」

そこには、拾った長剣を手にした、ササキがいた。
「貴様、オメガの分際で!!」

王子は、ササキに斬りかかる。
ショボくてもアルファだ。力の差は歴然の筈だ。しかし、防戦一方ではあるが、ササキは意外と健闘している。
(ササキかっこいい!!)
「おい、大丈夫か!?」
「あ、グランドル! ササキを助けて!!」
「たちゅけて!!」
「ササキ?」
聞きなれない名前の響きに、首を傾げるグランドルだが、俺の視線の先に、アルファの王子と戦う、可憐なオメガの姿を確認すると、ササキの救出に向かってくれた。

「き、貴様は、バランドル元首の息子!」
「久しぶりだなルイ王子、我がガレニアの国民を連れ去って只で済むと思うなよ」

「くっ……」


「皆の者、静まれ!王のお成りである!!」
(王様? どんどん大物出てくるけど、俺の誘拐どんどん大事おおごとになってない?)

「グリード……これはどう云うことだ? ルイがこの者たちをガレニアより攫って参ったと云うのは事実か?」
「はっ……それは……」
「父上!それは違います。私共の召喚した神子をこの狼が奪ったのです」
「ルイ、お前には聞いておらん。口を挟むな!グリード、包み隠さず申せ!」
「はっ……」
(ざまあ、怒られてやんの!)

「おそれながら……召喚の儀式を行ったのは事実です。しかし現れたのは神子とは別の人間でした。一緒に召喚された筈の神子はどういうわけか王宮に現れず……ですが、神子の身柄は召喚した私共のものです!」

「そうだ!クリリンは俺の妃になるために、召喚されたのだ!!」
黙ってろって言われたのに王子は口を挟んだ。

「おい……『クリリン』って誰だ?」
いつの間にか、隣に来ていたガインが小声で尋ねてくる。
「俺の偽名……」

王子とグリードはつらつらと言い訳を続けたが、男達の言い争いを遮るように、優しく美しいエリザベートの声が響いた。

「陛下……神子の召喚は、陛下の代で禁じた筈ですわ…… 白竜様は狼族を選び、狼族の元へ神子をお遣わしになったのです。私達ルーシアの国民は黄金竜の恩恵を充分に受け取りました。なのに今、国内は荒れています。私達王家の人間が権力に胡座をかいて私欲に走った結果、貧富の差が生まれたのです。私に使役してくれているニーノも憂いています。ルイ……あなたの愚かな心掛けが、あなたの元に神子が現れない原因です」

辺りは静まり返っていた。
エリザベートの言葉は、ルーシアの人間に深く突き刺さったのだろう。
周りの兵士達もエリザベートに向け深々と頭を垂れた。

 王様は、ガインではなくグランドルに向け口を開いた。
「グランドル殿、この件はお父上のバランドル元首にも後日正式な謝罪を……」

俺は王様の態度が気に入らなかった。国同士の付き合いの方が大事なのは分かるけど、ガインに失礼だ。だが、グランドルの次の一言で王様は青ざめた。

「その必要はございません。ここにおわすお方はガレニア共和国次期元首ガイン様であらせられます。元首の奥方とご子息を攫った罪は、この場で誠意をお見せ下さい」

(次期元首!? どういう事?)
目を見開きガインに確認すると、困ったように片側だけ口角を上げた。

族長の家族と元首の家族では重みが違う。ルーシアの行為は一国を敵に回しかねないのだ。

王様は観念したように目を瞑り、ガインに一礼すると、ルイ達に向き直り、裁きを言い渡した。

「……首謀者ルイと幇助したグリードは、身分剥奪の上、国外追放を言い渡す」

「バカ王子」が只の「バカ」になっちゃうの? しかも国外追放って……

それを黙って聞いていたガインは、なぜかルイとグリードに向かい歩き出し……

バキッ!! ゴキッ!!

突然二人を殴り倒した……

(うーわ、絶対鼻折れてる……頬骨まで行ってるかも!?)

「失礼、こちらもご子息に怪我を負わせてしまったようだ……国外追放まではしなくてもよいでしょう……」

「い、いや、それでは……」
言葉とは裏腹に、王様は少しホッとして見えた。

あ、そうか、これはガインの優しさだ。王様や王妃様にとっては、どんなバカでも可愛い息子だもんね……

国のトップとしては甘いのかもしれないけど、ガインはこれだからみんなに慕われる……
上空でも、レパーダが、満足そうに旋回を速めた。

「おとうたま、かっこいいでちゅ」

俺の腕に抱かれたサミアンも鼻の穴を膨らまし、目をキラキラさせた。
(そうだね……ガインはカッコイイね!)

ガインは俺達に向き直り、手を差し出すと、眉間のシワを緩めて優しく微笑んだ。


「さあ、お前たち、館に帰るぞ!」

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

処理中です...