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2 年下わんこな王子様
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「……これを、こうして。うん、なんとかなるかな」
「へぇ、それが変身薬?」
突然うしろから耳元で囁かれて、ネフィリアはびくりと身体を震わせた。
「これを飲めば、散髪屋に変身できるって?きみの魔法薬の効力はよく知っているけど、あんな男に変身するきみの姿は見たくないなぁ」
ネフィリアの身体を囲うようにして、調合台についた手が、ゆっくりと調合したばかりの薬瓶に伸ばされる。
「……クロヴィス、様」
震える声で、ネフィリアは恐る恐る振り返る。
思った以上にすぐそばにある顔に、思わず息をのむと、さらりとした金の髪が頬に触れ、深い紫の瞳がゆっくりと細められた。
「ネフィリア、僕を頼ってよ。きみのためなら、兄上の髪の一房や二房、僕がすぐに手に入れてあげるのに」
なんなら全部剃り落としてこようか、と恐ろしいことを言いながら、クロヴィスはネフィリアの漆黒の髪を掬い上げると、唇に当てた。
彼は、この国の第三王子。精悍な顔つきの兄二人とは違い、美女と名高い王妃によく似た優しげな面差しと柔らかな物腰のためか、アイドル的人気を誇っている。
まわりにいくらでも可愛い子や美人がいるはずなのに、彼は何故かいつもネフィリアのもとにやってくる。
まっすぐに好意を向けてくれる気持ちはそれなりに嬉しく思うものの、所詮それは今だけのことだとネフィリアは知っている。今までネフィリアに好意を寄せてくれた男たちは、いつだって気づけば他の女の子のもとに去っていったから。
長い時を生きる魔女が、人間と本気の恋をすることなどない。
「でも、好きな人の髪が欲しいという人魚の気持ちも分からなくはないな。僕も、ネフィリアの髪が欲しいもの。もちろん、欲しいのは髪の毛だけじゃないけどね」
にっこりと笑うクロヴィスから少しでも距離をとろうと身体をのけぞらせて、ネフィリアは引き攣った笑みを浮かべた。
「何か……、御用ですか、クロヴィス殿下」
「よそよそしいなぁ。僕ときみの仲じゃない、そんなに距離をおかれたら僕、傷ついちゃう」
「私たちの間には、何もないと思いますけど?」
「えぇー、つい三日前にも跪いてプロポーズしたと思うんだけどなぁ」
もう一度しようか?と笑いながら、クロヴィスがネフィリアの身体を抱き寄せた。細身に見えてたくましい腕は、ネフィリアの抵抗を許してくれない。
「それは、お断りしたはずだし、あの指輪……っ」
言い募ろうとしたネフィリアの唇は、クロヴィスのものに塞がれた。強く抱き込まれて身動きできない上に、ぬるりと舌まで入り込んでくる。
「……ん、んんっ」
必死に身体をよじり、クロヴィスの胸を押してみるものの、全く解放してもらえない。
結局、クロヴィスが満足するまで離してもらえず、ネフィリアは涙目になりながら荒くなった息を整える。
「私に……、惚れ薬は効きませんよ、クロヴィス様」
「あ、バレた?無味無臭でってお願いしたのになぁ」
悪びれた様子もなく、ぺろりと舌を出してクロヴィスは明るく笑う。濃厚なキスをすると見せかけて、こっそり惚れ薬を飲ませようとしてくるなんて、可愛い顔をして本当に油断も隙もない男だ。
「当たり前でしょう、私は魔女ですよ。この薬……、森の魔女、シルフィに作らせましたね」
「うん。魔女シルフィに、すごい金額ふっかけられたのになぁ。全然効かないなんて。それとも実は密かに今、僕にドキドキしてたりしない?」
深い紫の瞳が、ネフィリアをうかがうようにじっと見つめる。その美しい色に胸の奥が一瞬ざわめくのを押し殺して、ネフィリアはにっこりと笑ってみせる。
「残念ながら、これっぽっちも。シルフィは私の弟子ですもの、頼った相手が間違ってましたね」
「うーん、残念。少しくらい絆されてくれるかなぁって思ったんだけど」
残念と言いつつも、楽しそうに笑いながら、クロヴィスはネフィリアの左手をとった。いつの間にかそこには紫の石のついた指輪がはめられていて、天井の灯りを反射してきらりと輝いている。そのことに気づいたネフィリアは、一気に青褪めた。
「へぇ、それが変身薬?」
突然うしろから耳元で囁かれて、ネフィリアはびくりと身体を震わせた。
「これを飲めば、散髪屋に変身できるって?きみの魔法薬の効力はよく知っているけど、あんな男に変身するきみの姿は見たくないなぁ」
ネフィリアの身体を囲うようにして、調合台についた手が、ゆっくりと調合したばかりの薬瓶に伸ばされる。
「……クロヴィス、様」
震える声で、ネフィリアは恐る恐る振り返る。
思った以上にすぐそばにある顔に、思わず息をのむと、さらりとした金の髪が頬に触れ、深い紫の瞳がゆっくりと細められた。
「ネフィリア、僕を頼ってよ。きみのためなら、兄上の髪の一房や二房、僕がすぐに手に入れてあげるのに」
なんなら全部剃り落としてこようか、と恐ろしいことを言いながら、クロヴィスはネフィリアの漆黒の髪を掬い上げると、唇に当てた。
彼は、この国の第三王子。精悍な顔つきの兄二人とは違い、美女と名高い王妃によく似た優しげな面差しと柔らかな物腰のためか、アイドル的人気を誇っている。
まわりにいくらでも可愛い子や美人がいるはずなのに、彼は何故かいつもネフィリアのもとにやってくる。
まっすぐに好意を向けてくれる気持ちはそれなりに嬉しく思うものの、所詮それは今だけのことだとネフィリアは知っている。今までネフィリアに好意を寄せてくれた男たちは、いつだって気づけば他の女の子のもとに去っていったから。
長い時を生きる魔女が、人間と本気の恋をすることなどない。
「でも、好きな人の髪が欲しいという人魚の気持ちも分からなくはないな。僕も、ネフィリアの髪が欲しいもの。もちろん、欲しいのは髪の毛だけじゃないけどね」
にっこりと笑うクロヴィスから少しでも距離をとろうと身体をのけぞらせて、ネフィリアは引き攣った笑みを浮かべた。
「何か……、御用ですか、クロヴィス殿下」
「よそよそしいなぁ。僕ときみの仲じゃない、そんなに距離をおかれたら僕、傷ついちゃう」
「私たちの間には、何もないと思いますけど?」
「えぇー、つい三日前にも跪いてプロポーズしたと思うんだけどなぁ」
もう一度しようか?と笑いながら、クロヴィスがネフィリアの身体を抱き寄せた。細身に見えてたくましい腕は、ネフィリアの抵抗を許してくれない。
「それは、お断りしたはずだし、あの指輪……っ」
言い募ろうとしたネフィリアの唇は、クロヴィスのものに塞がれた。強く抱き込まれて身動きできない上に、ぬるりと舌まで入り込んでくる。
「……ん、んんっ」
必死に身体をよじり、クロヴィスの胸を押してみるものの、全く解放してもらえない。
結局、クロヴィスが満足するまで離してもらえず、ネフィリアは涙目になりながら荒くなった息を整える。
「私に……、惚れ薬は効きませんよ、クロヴィス様」
「あ、バレた?無味無臭でってお願いしたのになぁ」
悪びれた様子もなく、ぺろりと舌を出してクロヴィスは明るく笑う。濃厚なキスをすると見せかけて、こっそり惚れ薬を飲ませようとしてくるなんて、可愛い顔をして本当に油断も隙もない男だ。
「当たり前でしょう、私は魔女ですよ。この薬……、森の魔女、シルフィに作らせましたね」
「うん。魔女シルフィに、すごい金額ふっかけられたのになぁ。全然効かないなんて。それとも実は密かに今、僕にドキドキしてたりしない?」
深い紫の瞳が、ネフィリアをうかがうようにじっと見つめる。その美しい色に胸の奥が一瞬ざわめくのを押し殺して、ネフィリアはにっこりと笑ってみせる。
「残念ながら、これっぽっちも。シルフィは私の弟子ですもの、頼った相手が間違ってましたね」
「うーん、残念。少しくらい絆されてくれるかなぁって思ったんだけど」
残念と言いつつも、楽しそうに笑いながら、クロヴィスはネフィリアの左手をとった。いつの間にかそこには紫の石のついた指輪がはめられていて、天井の灯りを反射してきらりと輝いている。そのことに気づいたネフィリアは、一気に青褪めた。
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