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真実の表側

18 今が幸せ

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そいつがシフトに入っている時はギルド内はガラガラになると言われるくらい、本当に嫌なギルド職員がいて、素材を売りに来たヤツにさり気なく間違った計算の金額を渡そうとする。

そいつは頭脳系のギフトを持ち、知識と計算では手も足も出ないためペラペラとよく分からない知識を披露されてしまうと、皆口を閉ざすしかなくなってしまう。


その日も大量の魔力核を持ち込み、俺は何となくこれくらい?くらいの知識を持ってそいつの言う通りの金を受け取ろうとしたが────それにサンは静かに待ったを掛けた。


「 何だ?奴隷ごときが邪魔するな。ほらっ、合計6792ゴールドだ。

終わったらとっとと消えろ、ゴミが。 」


< ゴールド >

この世界のお金の単位

大体100ゴールドでパンが一つ買えるくらいの価値がある


俺の見立てではだいたい5000~6000ゴールドだったので、まぁまぁだな!と特に気にしなかったのだが、サンはその職員に言い返す。


「 合計で12500ゴールドでしょう?

一匹辺り相場が260ゴールドでしたが、最近魔力核の相場が変わったので、その合計では計算がおかしい。

もう一度計算し直して頂けますか? 」


「 ────なっ!!!なんだとっ!!!この俺の計算が間違っているとでもいいたいのかっ!!奴隷如きがっ!! 」


カッ!としたギルド職員が立ち上がってサンを怒鳴りつけたが、サンは微動だにせず、それどころかフッ……と挑発する様に鼻で笑う。


「 えぇ、間違ってます。

認めてくださらないなら、他の頭脳系のギフト持ちの方に後日来て計算し直してもらいますので、本日は結構です。

グラン様、素材の売買は明日でよろしいでしょうか? 」


「 ……えっ??……あ……う、うん。 」


あまりにも自信満々で言うのでコクコクとお人形の様に頷いてしまったが、ギルド職員はそれに焦った様子を見せた。


「 な、何を言っているんだ!!

いいからさっさと換金していけっ!! 

俺は頭脳系のギフト持ちだぞ!!?奴隷や小汚いおっさんに文句言う権利なんざねぇんだよっ!! 」


「 ギルド規則第78条 ” 素材の売買は売り主の希望が尊重される ”

更にギルド規則第103条 ” ギルドと売り主の立場は平等であり、そこに身分や力による関係性はない完全中立関係である事 ”

今ので二つも規則違反をしておいでだ。

組織に属する者として、それなりの覚悟はおありで? 」


まるで法律で人を裁く裁判官の様な淡々とした言い方に、俺やそのギルド職員は勿論、周りで見ていた奴らも全員目を見開いてサンを見つめる。

そしてそのギルド職員は不利を悟ったのか、青ざめながら俺達に頭を下げ「 すみませんでした……。 」と謝ってきた。


そしてサンの言う通りの金を持ってきて、そのまま狐につままれた様な顔の俺とご機嫌なサンが出ていくまで頭を下げたままであった。

その後聞いた話によると、なんとサンは一度目を通しただけのギルドの規則を全て覚えていたから、その記憶力にびっくり仰天してしまう。


本当に一体何のギフトなんだろう???


今、目の前で魚の骨と身を一瞬で切り分けてしまったサンを見て、謎は深まるばかりだ。


病気にさえ罹ってなかったら、本当に全てを持つ神様の様な存在になれただろうに……。


なのに現在は、こんな何にも取り柄のない小汚いおっさんの奴隷になってあくせく働かされている……運命は本当に残酷だ。


「 ……サンはもし新しい人生を歩めるって言われたら、どんな人生がいい? 」


何となくそんな事を聞いてしまい、すぐに傷つけてしまったか?と口を閉ざした。


” そんな意味のない事を聞くなんて嫌味かなにかですか? ”


そんな言葉を予想したのだが、それはあっさりと破られ、サンは突然グワッ!と顔を熟れたトマトの様に真っ赤に染める。


「 俺は……今のままがいいです……。

今が一番……幸せだから……。 」


ボソボソと呟いた言葉に……俺の目は点になった。


こんなクソみたいな生活が幸せなんて……サンはちょっとドMかなにかか??


ヒュードに揃ってワインをぶち撒けられた思い出や、笑いながら寒い外に出されてしまい、二人で大きな葉っぱに包まって夜を過ごしたりとか……そんな不幸続きの思い出がフワワ~と浮かび上がり、遠い目をして微笑んだ。


「 そうか……。サンは今が幸せなのか~……。 」


可哀想なヤツを見る目で見つめてやると、サンはモジモジと身体を揺らしながら嬉しそうに笑う。

そしてサッサと俺の一晩掛かる様な下ごしらえを一瞬で終えてしまうと、サンは俺に向かって頭を差し出してきたので、条件反射の様にその頭を撫で撫でしてやった。


これはあまりにも手際よくサンが作業を終わらせてしまったため、感動した俺が頭を撫でてやって以来続いている儀式みたいなモン。

サンはその感触が大のお気に入りになった様で、毎回作業が終わると頭を差し出す様になってしまった。


犬みたいだ……。

髪はゴワゴワしているけど……。


皮膚が腐っているせいで栄養がこないのか、サンの髪の毛はゴワゴワしていて触り心地が悪いというのに、俺は拒む事無く毎回サンを撫でる。


ま、まぁ、奴隷を気分良く働かせるのだって主人の務めだし~!


誰に言われた訳でもないのに、心の中で盛大に言い訳を始めた。

そして何度も止めよう!と思ったのだが……。


────チラッ……。


目線をサンに向けると、そこには幸せそうに目を閉じるサンの顔がある。


なんだかこの顔を壊すのは気が進まなくて……今日も俺はサンを撫で、そしてきっと明日も撫でるんだろうな~……と思った。

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