【完結】いくら溺愛されても、顔がいいから結婚したいと言う男は信用できません!

大森 樹

文字の大きさ
上 下
31 / 37

30 顔合わせ①

しおりを挟む
「どうして、前から私のことを知っていたと早く教えてくださらないのですか?」
「両想いになった時に話そうと思ってたから。それに『いい顔』で俺の好きな気持ちが伝わってると思っていた」
「では……ずっとあなたの事を誤解をしていたのですね。長い間、私が婚約をお断りしていたのはなんだったのでしょうか」

 アイラがはぁとため息をつくと、オスカーはすまないと小声で謝った。

「アイラ、俺が隊長になって不安だった時に君が救ってくれたんだ。ありがとう」
「いえ、私は何も……」
「アイラの生き生きと一生懸命頑張っている姿に、勇気がもらえた。こんな風に俺も生きたいなと思えたんだ」

 アイラは自分がしたことで、オスカーに影響を与えていたことに驚いたが……素直に嬉しく思った。

「それに……ああ、やっぱり……その……」
「なんですか?」
「男が発言を覆して……格好悪いんだが」

 オスカーは気まずそうに、眉を下げた。アイラは首を捻って不思議そうな顔をした。

「顔に惚れたのではないと言ったが、やはり一目惚れの要素も少しはあるのかもしれない。少女だった君にはこんな気持ちにはならなかったし……その……舞踏会で再会して、生まれて初めて女性に胸がドキドキしたから」
「え?」
「だって、アイラはとびきり可愛かった」

 ストレートな褒め言葉にアイラは顔が真っ赤に染まった。

「一番好きなのは性格だ。だけど、ぱっちりした黄金に輝く瞳も、ストロベリーブロンドの柔らかい髪も、小さく柔らかい唇も……全部好きだ」

 オスカーはアイラの頬を包み、蕩けるような表情でジッと見つめた。

「そ、そんなに見つめないでくださいませ」
「どうして? やっと両想いになれたんだ。もっと見せてくれ」
「恥ずかしいですから」

 アイラが手で目元を隠すと、オスカーはその手にちゅっとキスをした。

「ひゃあっ!」

 驚いてアイラが手を離した隙に、オスカーは色っぽく目を細めて今度は唇にキスをした。

「愛してる」
「……っ!」
「もう何回もしてるのに、照れてて可愛い」

 へにゃりと眉を下げてデレデレしているオスカーを見て、アイラはプイッとそっぽを向いた。

「もう今日はキスは禁止です」
「……え? なぜだ」

 焦りだしたオスカーに、アイラは赤くなった頬を自分の手で隠した。

「これ以上キスしたら、恥ずかしくて……まともに顔が見れません」

 容姿を褒められることは苦手なはずなのに、アイラはオスカーに『顔も好き』と言われて素直に嬉しかった。

 後にオスカーは、この時の照れながらもじもじするアイラは『この世の者とは思えない程可愛らしかった』と何百回もエイベルに惚気て『その話は飽きた』とキレられることになるのだった。


♢♢♢

「オスカー様、私変じゃありませんか?」
「いつも通り可愛いぞ」
「お義父様は、私を気に入って下さるかしら」

 今日はオスカーの父親が、ロッシュ子爵家にくる日だった。結婚前の正式な挨拶のためだ。

 婚約の承諾は手紙のやり取りだけで終わった。オスカーの家は、かなりおおらかなようで『愚息に嫁いでくれて感謝する』と書かれてあった。

「大丈夫だ。アイラを嫌うなんてあり得ない」
「そうでしょうか?」
「ああ。手紙で報告した時も、嬉しそうだったからな」

 オスカーの生家はかなり田舎にあるため、馬車だと一週間……馬を飛ばしても四、五日はかかる。移動が大変なので、今日は父親だけが来てくれるらしい。

 結婚式当日は、オスカーの兄が領地で留守番をしてくれるので両親と妹が参加予定になっていた。

「お義父様、お待ちしておりました。私はオスカー様の婚約者、アイラ・ロッシュと申します。お会いできて嬉しく思いますわ」

 アイラはニコリと微笑み、丁寧に挨拶をした。父親は、まるでオスカーの生き写しかのようにそっくりだった。

「長旅お疲れになられたでしょう。さあ、こちらへ」

 オスカーの父グレンは、ロッシュ子爵家に着いて驚いた。見たこともない程の美少女が、自分を出迎えたからである。

「父上! お久しぶりです」
「オスカー……この子が俺のことを『お義父様』と呼んでくるのだが……」
「そりゃ義理の父だから当然でしょう。父上はまだ結婚してないから父親じゃないとか細かいこと言う性格じゃないでしょう?」

 オスカーは眉を顰め、アイラはいきなり義父と呼ぶのは失礼だったのかと心配していた。

「オスカー、ちょっと来い!」
「うわっ、何ですか」
「いいから。話したいことがある」

 そう言って、オスカーはグレンに首根っこを掴まれて玄関の外に出された。

「どうされたのかしら」

 アイラがオロオロしていると、外からオスカーの大きな声が聞こえてきた。

「そんなわけないだろ! 何言ってんだよ」
「いや、お前にあんな子……あり得ないだろ」
「それがあり得たんです。俺は高い壺なんか買ってませんから! 俺たちはちゃんと愛し合って結婚するんですよ!」

 二人とも声が大きいので、丸聞こえだった。

「高い壺……?」
「お嬢様、オスカー様のお父上は結婚詐欺だと思われていますね」

 その会話を聞いて、アイラと侍女のリラは顔を見合わせてくすくすと笑い出した。

「お父様、どうしましょう?」
「はは、私から説明するよ。さあ、アイラは客間にお茶の準備でもしておいで」
「お願いします」

 アイラの父親は、玄関を開けてグレンとオスカーを呼びに向かった。

「いやー……すみません。息子があなたのような女性と結婚するのが、どうも信じられなくて」

 グレンはガバリと頭を下げてアイラたちに謝った。正直なところもオスカーそっくりだ。

「事前に手紙で知らせておいたでしょう? アイラはとんでもなく可愛いから驚かないでほしいって」
「そ、そんなことを手紙に書いたのですかっ!?」
「ああ、だって事実だからな」

 オスカーはニカッと笑ったが、アイラは信じられなかった。まさかオスカーが家族にそんなことを伝えていたなんて。アイラは恥ずかしくて、真っ赤になって俯いていた。

「それは……その話半分に思っていたから」
「話半分だって?」
「ああ、お前がただ惚気ているだけだと思ってみんなで笑っていた」

 苦笑いしたグレンは、オスカーに手紙が届いた時の様子を話してくれた。


『オスカーが結婚すると言っているぞ!』
『まあ、あの子が? それはおめでたいわね』
『剣術ばかりしていて、気の利いたことも言えねぇし女心もわからねぇから結婚できないかと心配していたが安心したぜ』
『強くて優しい子だとわかってくれる人ができたのよ。良かったわ』

 いい年齢になっても婚約者がいなかった息子の結婚報告に、両親はかなり喜んでいたらしい。

『しかも、これ見てみろ!』
『妻になるアイラはとんでもなく可愛い……ふふっ、あの子ったら相当婚約者に熱をあげているのね』
『ははは、あいつもそんな惚気言うんだな!』
『それだけ好きなのよ』
『そりゃあ、好きな女が自分にとってとびきり可愛く見えるのは当たり前だからな』

 ゲラゲラと笑いながらグレンは息子が『惚れた欲目』からそんな風に手紙に書いているのだと思っていた。

 だから本当に『とびきり可愛い』とは想像もしていなかったと説明をした。

「オスカーは俺の自慢の息子です。力が強いのに弱い者には優しい。でも……無骨な騎士があなたのような可憐で若い女性とは釣り合わないから、てっきり息子が騙されているのではと不安になったんです」

 グレンは真面目な顔で、そう話し始めた。

「お義父様、私はオスカー様のことをお慕いしております。私は辛い時に何度も彼に助けてもらいました。彼の優しさや誠実さに惹かれたのです」
「アイラ……!」
「だから安心してください。私はオスカー様のことが好きです」

 アイラがそう宣言すると、グレンはフッと目を細めて嬉しそうに笑った。

「そうか。息子を好きになってくれて、ありがとうう」

 グレンとアイラはお互い微笑みあって、握手をした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

悪女は愛より老後を望む

きゃる
恋愛
 ――悪女の夢は、縁側でひなたぼっこをしながらお茶をすすること!  もう何度目だろう? いろんな国や時代に転生を繰り返す私は、今は伯爵令嬢のミレディアとして生きている。でも、どの世界にいてもいつも若いうちに亡くなってしまって、老後がおくれない。その理由は、一番初めの人生のせいだ。貧乏だった私は、言葉巧みに何人もの男性を騙していた。たぶんその中の一人……もしくは全員の恨みを買ったため、転生を続けているんだと思う。生まれ変わっても心からの愛を告げられると、その夜に心臓が止まってしまうのがお約束。  だから私は今度こそ、恋愛とは縁のない生活をしようと心に決めていた。行き遅れまであと一年! 領地の片隅で、隠居生活をするのもいいわね?  そう考えて屋敷に引きこもっていたのに、ある日双子の王子の誕生を祝う舞踏会の招待状が届く。参加が義務付けられているけれど、地味な姿で壁に貼り付いているから……大丈夫よね? *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

処理中です...