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30 顔合わせ①
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「どうして、前から私のことを知っていたと早く教えてくださらないのですか?」
「両想いになった時に話そうと思ってたから。それに『いい顔』で俺の好きな気持ちが伝わってると思っていた」
「では……ずっとあなたの事を誤解をしていたのですね。長い間、私が婚約をお断りしていたのはなんだったのでしょうか」
アイラがはぁとため息をつくと、オスカーはすまないと小声で謝った。
「アイラ、俺が隊長になって不安だった時に君が救ってくれたんだ。ありがとう」
「いえ、私は何も……」
「アイラの生き生きと一生懸命頑張っている姿に、勇気がもらえた。こんな風に俺も生きたいなと思えたんだ」
アイラは自分がしたことで、オスカーに影響を与えていたことに驚いたが……素直に嬉しく思った。
「それに……ああ、やっぱり……その……」
「なんですか?」
「男が発言を覆して……格好悪いんだが」
オスカーは気まずそうに、眉を下げた。アイラは首を捻って不思議そうな顔をした。
「顔に惚れたのではないと言ったが、やはり一目惚れの要素も少しはあるのかもしれない。少女だった君にはこんな気持ちにはならなかったし……その……舞踏会で再会して、生まれて初めて女性に胸がドキドキしたから」
「え?」
「だって、アイラはとびきり可愛かった」
ストレートな褒め言葉にアイラは顔が真っ赤に染まった。
「一番好きなのは性格だ。だけど、ぱっちりした黄金に輝く瞳も、ストロベリーブロンドの柔らかい髪も、小さく柔らかい唇も……全部好きだ」
オスカーはアイラの頬を包み、蕩けるような表情でジッと見つめた。
「そ、そんなに見つめないでくださいませ」
「どうして? やっと両想いになれたんだ。もっと見せてくれ」
「恥ずかしいですから」
アイラが手で目元を隠すと、オスカーはその手にちゅっとキスをした。
「ひゃあっ!」
驚いてアイラが手を離した隙に、オスカーは色っぽく目を細めて今度は唇にキスをした。
「愛してる」
「……っ!」
「もう何回もしてるのに、照れてて可愛い」
へにゃりと眉を下げてデレデレしているオスカーを見て、アイラはプイッとそっぽを向いた。
「もう今日はキスは禁止です」
「……え? なぜだ」
焦りだしたオスカーに、アイラは赤くなった頬を自分の手で隠した。
「これ以上キスしたら、恥ずかしくて……まともに顔が見れません」
容姿を褒められることは苦手なはずなのに、アイラはオスカーに『顔も好き』と言われて素直に嬉しかった。
後にオスカーは、この時の照れながらもじもじするアイラは『この世の者とは思えない程可愛らしかった』と何百回もエイベルに惚気て『その話は飽きた』とキレられることになるのだった。
♢♢♢
「オスカー様、私変じゃありませんか?」
「いつも通り可愛いぞ」
「お義父様は、私を気に入って下さるかしら」
今日はオスカーの父親が、ロッシュ子爵家にくる日だった。結婚前の正式な挨拶のためだ。
婚約の承諾は手紙のやり取りだけで終わった。オスカーの家は、かなりおおらかなようで『愚息に嫁いでくれて感謝する』と書かれてあった。
「大丈夫だ。アイラを嫌うなんてあり得ない」
「そうでしょうか?」
「ああ。手紙で報告した時も、嬉しそうだったからな」
オスカーの生家はかなり田舎にあるため、馬車だと一週間……馬を飛ばしても四、五日はかかる。移動が大変なので、今日は父親だけが来てくれるらしい。
結婚式当日は、オスカーの兄が領地で留守番をしてくれるので両親と妹が参加予定になっていた。
「お義父様、お待ちしておりました。私はオスカー様の婚約者、アイラ・ロッシュと申します。お会いできて嬉しく思いますわ」
アイラはニコリと微笑み、丁寧に挨拶をした。父親は、まるでオスカーの生き写しかのようにそっくりだった。
「長旅お疲れになられたでしょう。さあ、こちらへ」
オスカーの父グレンは、ロッシュ子爵家に着いて驚いた。見たこともない程の美少女が、自分を出迎えたからである。
「父上! お久しぶりです」
「オスカー……この子が俺のことを『お義父様』と呼んでくるのだが……」
「そりゃ義理の父だから当然でしょう。父上はまだ結婚してないから父親じゃないとか細かいこと言う性格じゃないでしょう?」
オスカーは眉を顰め、アイラはいきなり義父と呼ぶのは失礼だったのかと心配していた。
「オスカー、ちょっと来い!」
「うわっ、何ですか」
「いいから。話したいことがある」
そう言って、オスカーはグレンに首根っこを掴まれて玄関の外に出された。
「どうされたのかしら」
アイラがオロオロしていると、外からオスカーの大きな声が聞こえてきた。
「そんなわけないだろ! 何言ってんだよ」
「いや、お前にあんな子……あり得ないだろ」
「それがあり得たんです。俺は高い壺なんか買ってませんから! 俺たちはちゃんと愛し合って結婚するんですよ!」
二人とも声が大きいので、丸聞こえだった。
「高い壺……?」
「お嬢様、オスカー様のお父上は結婚詐欺だと思われていますね」
その会話を聞いて、アイラと侍女のリラは顔を見合わせてくすくすと笑い出した。
「お父様、どうしましょう?」
「はは、私から説明するよ。さあ、アイラは客間にお茶の準備でもしておいで」
「お願いします」
アイラの父親は、玄関を開けてグレンとオスカーを呼びに向かった。
「いやー……すみません。息子があなたのような女性と結婚するのが、どうも信じられなくて」
グレンはガバリと頭を下げてアイラたちに謝った。正直なところもオスカーそっくりだ。
「事前に手紙で知らせておいたでしょう? アイラはとんでもなく可愛いから驚かないでほしいって」
「そ、そんなことを手紙に書いたのですかっ!?」
「ああ、だって事実だからな」
オスカーはニカッと笑ったが、アイラは信じられなかった。まさかオスカーが家族にそんなことを伝えていたなんて。アイラは恥ずかしくて、真っ赤になって俯いていた。
「それは……その話半分に思っていたから」
「話半分だって?」
「ああ、お前がただ惚気ているだけだと思ってみんなで笑っていた」
苦笑いしたグレンは、オスカーに手紙が届いた時の様子を話してくれた。
『オスカーが結婚すると言っているぞ!』
『まあ、あの子が? それはおめでたいわね』
『剣術ばかりしていて、気の利いたことも言えねぇし女心もわからねぇから結婚できないかと心配していたが安心したぜ』
『強くて優しい子だとわかってくれる人ができたのよ。良かったわ』
いい年齢になっても婚約者がいなかった息子の結婚報告に、両親はかなり喜んでいたらしい。
『しかも、これ見てみろ!』
『妻になるアイラはとんでもなく可愛い……ふふっ、あの子ったら相当婚約者に熱をあげているのね』
『ははは、あいつもそんな惚気言うんだな!』
『それだけ好きなのよ』
『そりゃあ、好きな女が自分にとってとびきり可愛く見えるのは当たり前だからな』
ゲラゲラと笑いながらグレンは息子が『惚れた欲目』からそんな風に手紙に書いているのだと思っていた。
だから本当に『とびきり可愛い』とは想像もしていなかったと説明をした。
「オスカーは俺の自慢の息子です。力が強いのに弱い者には優しい。でも……無骨な騎士があなたのような可憐で若い女性とは釣り合わないから、てっきり息子が騙されているのではと不安になったんです」
グレンは真面目な顔で、そう話し始めた。
「お義父様、私はオスカー様のことをお慕いしております。私は辛い時に何度も彼に助けてもらいました。彼の優しさや誠実さに惹かれたのです」
「アイラ……!」
「だから安心してください。私はオスカー様のことが好きです」
アイラがそう宣言すると、グレンはフッと目を細めて嬉しそうに笑った。
「そうか。息子を好きになってくれて、ありがとうう」
グレンとアイラはお互い微笑みあって、握手をした。
「両想いになった時に話そうと思ってたから。それに『いい顔』で俺の好きな気持ちが伝わってると思っていた」
「では……ずっとあなたの事を誤解をしていたのですね。長い間、私が婚約をお断りしていたのはなんだったのでしょうか」
アイラがはぁとため息をつくと、オスカーはすまないと小声で謝った。
「アイラ、俺が隊長になって不安だった時に君が救ってくれたんだ。ありがとう」
「いえ、私は何も……」
「アイラの生き生きと一生懸命頑張っている姿に、勇気がもらえた。こんな風に俺も生きたいなと思えたんだ」
アイラは自分がしたことで、オスカーに影響を与えていたことに驚いたが……素直に嬉しく思った。
「それに……ああ、やっぱり……その……」
「なんですか?」
「男が発言を覆して……格好悪いんだが」
オスカーは気まずそうに、眉を下げた。アイラは首を捻って不思議そうな顔をした。
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「え?」
「だって、アイラはとびきり可愛かった」
ストレートな褒め言葉にアイラは顔が真っ赤に染まった。
「一番好きなのは性格だ。だけど、ぱっちりした黄金に輝く瞳も、ストロベリーブロンドの柔らかい髪も、小さく柔らかい唇も……全部好きだ」
オスカーはアイラの頬を包み、蕩けるような表情でジッと見つめた。
「そ、そんなに見つめないでくださいませ」
「どうして? やっと両想いになれたんだ。もっと見せてくれ」
「恥ずかしいですから」
アイラが手で目元を隠すと、オスカーはその手にちゅっとキスをした。
「ひゃあっ!」
驚いてアイラが手を離した隙に、オスカーは色っぽく目を細めて今度は唇にキスをした。
「愛してる」
「……っ!」
「もう何回もしてるのに、照れてて可愛い」
へにゃりと眉を下げてデレデレしているオスカーを見て、アイラはプイッとそっぽを向いた。
「もう今日はキスは禁止です」
「……え? なぜだ」
焦りだしたオスカーに、アイラは赤くなった頬を自分の手で隠した。
「これ以上キスしたら、恥ずかしくて……まともに顔が見れません」
容姿を褒められることは苦手なはずなのに、アイラはオスカーに『顔も好き』と言われて素直に嬉しかった。
後にオスカーは、この時の照れながらもじもじするアイラは『この世の者とは思えない程可愛らしかった』と何百回もエイベルに惚気て『その話は飽きた』とキレられることになるのだった。
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「オスカー様、私変じゃありませんか?」
「いつも通り可愛いぞ」
「お義父様は、私を気に入って下さるかしら」
今日はオスカーの父親が、ロッシュ子爵家にくる日だった。結婚前の正式な挨拶のためだ。
婚約の承諾は手紙のやり取りだけで終わった。オスカーの家は、かなりおおらかなようで『愚息に嫁いでくれて感謝する』と書かれてあった。
「大丈夫だ。アイラを嫌うなんてあり得ない」
「そうでしょうか?」
「ああ。手紙で報告した時も、嬉しそうだったからな」
オスカーの生家はかなり田舎にあるため、馬車だと一週間……馬を飛ばしても四、五日はかかる。移動が大変なので、今日は父親だけが来てくれるらしい。
結婚式当日は、オスカーの兄が領地で留守番をしてくれるので両親と妹が参加予定になっていた。
「お義父様、お待ちしておりました。私はオスカー様の婚約者、アイラ・ロッシュと申します。お会いできて嬉しく思いますわ」
アイラはニコリと微笑み、丁寧に挨拶をした。父親は、まるでオスカーの生き写しかのようにそっくりだった。
「長旅お疲れになられたでしょう。さあ、こちらへ」
オスカーの父グレンは、ロッシュ子爵家に着いて驚いた。見たこともない程の美少女が、自分を出迎えたからである。
「父上! お久しぶりです」
「オスカー……この子が俺のことを『お義父様』と呼んでくるのだが……」
「そりゃ義理の父だから当然でしょう。父上はまだ結婚してないから父親じゃないとか細かいこと言う性格じゃないでしょう?」
オスカーは眉を顰め、アイラはいきなり義父と呼ぶのは失礼だったのかと心配していた。
「オスカー、ちょっと来い!」
「うわっ、何ですか」
「いいから。話したいことがある」
そう言って、オスカーはグレンに首根っこを掴まれて玄関の外に出された。
「どうされたのかしら」
アイラがオロオロしていると、外からオスカーの大きな声が聞こえてきた。
「そんなわけないだろ! 何言ってんだよ」
「いや、お前にあんな子……あり得ないだろ」
「それがあり得たんです。俺は高い壺なんか買ってませんから! 俺たちはちゃんと愛し合って結婚するんですよ!」
二人とも声が大きいので、丸聞こえだった。
「高い壺……?」
「お嬢様、オスカー様のお父上は結婚詐欺だと思われていますね」
その会話を聞いて、アイラと侍女のリラは顔を見合わせてくすくすと笑い出した。
「お父様、どうしましょう?」
「はは、私から説明するよ。さあ、アイラは客間にお茶の準備でもしておいで」
「お願いします」
アイラの父親は、玄関を開けてグレンとオスカーを呼びに向かった。
「いやー……すみません。息子があなたのような女性と結婚するのが、どうも信じられなくて」
グレンはガバリと頭を下げてアイラたちに謝った。正直なところもオスカーそっくりだ。
「事前に手紙で知らせておいたでしょう? アイラはとんでもなく可愛いから驚かないでほしいって」
「そ、そんなことを手紙に書いたのですかっ!?」
「ああ、だって事実だからな」
オスカーはニカッと笑ったが、アイラは信じられなかった。まさかオスカーが家族にそんなことを伝えていたなんて。アイラは恥ずかしくて、真っ赤になって俯いていた。
「それは……その話半分に思っていたから」
「話半分だって?」
「ああ、お前がただ惚気ているだけだと思ってみんなで笑っていた」
苦笑いしたグレンは、オスカーに手紙が届いた時の様子を話してくれた。
『オスカーが結婚すると言っているぞ!』
『まあ、あの子が? それはおめでたいわね』
『剣術ばかりしていて、気の利いたことも言えねぇし女心もわからねぇから結婚できないかと心配していたが安心したぜ』
『強くて優しい子だとわかってくれる人ができたのよ。良かったわ』
いい年齢になっても婚約者がいなかった息子の結婚報告に、両親はかなり喜んでいたらしい。
『しかも、これ見てみろ!』
『妻になるアイラはとんでもなく可愛い……ふふっ、あの子ったら相当婚約者に熱をあげているのね』
『ははは、あいつもそんな惚気言うんだな!』
『それだけ好きなのよ』
『そりゃあ、好きな女が自分にとってとびきり可愛く見えるのは当たり前だからな』
ゲラゲラと笑いながらグレンは息子が『惚れた欲目』からそんな風に手紙に書いているのだと思っていた。
だから本当に『とびきり可愛い』とは想像もしていなかったと説明をした。
「オスカーは俺の自慢の息子です。力が強いのに弱い者には優しい。でも……無骨な騎士があなたのような可憐で若い女性とは釣り合わないから、てっきり息子が騙されているのではと不安になったんです」
グレンは真面目な顔で、そう話し始めた。
「お義父様、私はオスカー様のことをお慕いしております。私は辛い時に何度も彼に助けてもらいました。彼の優しさや誠実さに惹かれたのです」
「アイラ……!」
「だから安心してください。私はオスカー様のことが好きです」
アイラがそう宣言すると、グレンはフッと目を細めて嬉しそうに笑った。
「そうか。息子を好きになってくれて、ありがとうう」
グレンとアイラはお互い微笑みあって、握手をした。
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