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18 似合わないドレス
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「アイラ……私、何度も何度も手紙を送ったわよね?」
「ええ、心配してくれてありがとう。ちゃんと返事を返したでしょう?」
「来たわ。手紙には『領地は大丈夫』だといつも書いてあった。それなのに……この、嘘つき!」
あの火事があってからというもの、リーゼは何度も手紙をくれ、お見舞いに行きたいと申し出てくれていた。
リーゼの生家であるヴェーデル伯爵家や、婚約者のロベルトと協力して支援もしたいと言ってくれて本当に有り難かった。
だけど、アイラは唯一の親友にそんな迷惑をかけたくなかったのでファビアンとの結婚を選んだ。
リーゼは目に涙を溜めながら、キッと眉を吊り上げた。怒った顔も美しいな、なんてどうでもいいことをアイラは思っていた。
「そんなドレス似合わないわ!」
「……そう? 豪華で素敵でしょう!」
アイラはわざと微笑んで、ドレスの裾をそっと広げてリーゼに見せた。
「可愛いあなたに、そんなたくさんの装飾なんていらないわ」
「……」
「いつものシンプルなドレスの方が似合ってる。それに、全然アイラらしくないわ。好きでもない相手と一緒になるなんて」
リーゼの怒りはもっともだ。婚約を知られたら反対されることはわかっていたので、アイラはあえて今まで黙っていた。
「あなたはオスカー様が好きじゃない。どうして、それがファビアン様と婚約なんて話になるの?」
「……よくある政略結婚よ」
「資金援助の話を聞いたわ。でも、こんなの金をちらつかせて、あなたを買ったのと同じじゃない」
「支援して下さってるって言って。向こうにはメリットなんてないのに、我が家にとってはありがたいことなんだから」
アイラは自分を説得するように、そう言った。
「それよ。それも不思議なの。例えファビアン様があなたを気に入っていたとしても、あの有力なアンブロス公爵家がメリットのないアイラを嫁にもらうなんてことあるかしら?」
「それは……そうだけれど」
アイラもそれは不思議だった。高位貴族になればなるほど『愛してるから』なんて綺麗事だけでは、結婚相手は決まらない。
条件だけで見ると、ロッシュ子爵家にとっては願ってもない縁談だったが……アンブロス公爵家にとってロッシュ子爵家の娘との結婚になんの意味があるのかわからない。
本来、政略結婚というのは双方がメリットを感じないといけないのだから。
例えばファビアンがものすごく年上とか、全然モテなくて結婚してもらえないというのであれば納得できる。
だが、ファビアンは御令嬢方の王子様と呼ばれるほどの人気者だ。結婚相手に困っているはずがない。
「でも、ファビアン様は私の中身も好きだと……言ってくださったの。だから、いいのよ」
アイラはそう自分に言い聞かせた。
「それ本当にそう思ってる?」
「……」
「そんなに派手に着飾らせて、他の人たちに見せつけるようにダンスしたり肩を抱いて……一番あなたの『見た目』に固執してるように見えるけれど」
本当はアイラもそのことには気が付いていた。だが、今更婚約を辞めるわけにはいかない。
「でも、私が結婚すれば全て上手くいくの」
「その考えは立派かもしれないけど、私は嫌よ。親友が、そんな辛い思いをするのを見ていられないわ! もっと頼ってよ。オスカー様だってきっとあなたのことを助け……」
「やめて。もう決めたことだから」
リーゼの言葉を遮るように、アイラは大きな声を出した。
「心配してくれてありがとう。でも、好きな人に迷惑はかけたくないの」
それだけ言うと、アイラはリーゼに背を向けた。
「アイラっ! 待って」
名前を呼ぶ声が聞こえていたが、アイラはそれを無視をしてその場を走り去った。
♢♢♢
「約束と違うではありませんか」
「一体何の話かな?」
「アイラなんかと婚約とはどういうことですか!? 何のために私が……あんな偽装をしたとお思いですか!」
公爵令嬢のテレージアに呼び出されたファビアンは、にっこりと笑顔を作った。
「君のおかげで、本当に助かったよ」
「……え?」
「彼女が突拍子もないことを言いだしたから、どうしようかと思っていたんだ。でも落ちたなら、無かったことと一緒だからね」
「落ちるということは、優秀ではないという証明だと仰っていたではありませんか。公爵家には……相応しくなくなると……」
青ざめたテレージアは、震えた声を出した。
「君の勘違いじゃないか?」
「そんなはずは……っ!」
「私は妻は大人しくて従順な方がいいんだ。感謝するよ、協力してくれて」
ニコリと笑ったファビアンの腕を、テレージアは掴んだ。
「わ、私を騙したのですね!」
「人聞きが悪いね。君が自らしたことだ」
「酷いです。私と結婚してくださると仰ったのに」
泣き出したテレージアを、ファビアンは冷たい目で見下ろし腕を乱暴に振り払った。
「思い上がらないでくれないか」
「……っ!」
「君みたいな女と結婚するわけがないだろう。完璧な私の隣に並ぶのは、見目の整った人でないと。一度鏡で自分の顔を見てみるといい」
鼻で笑いながら、ファビアンはテレージアを馬鹿にした。
「許せません。こんなこと……全て公表しますわっ!」
「はは、君は何もわかってないね。公文書偽造は大罪だよ? アイラを虐めていた君が、私と婚約した彼女に嫉妬して罪をおかした……みんなそう思うだろうさ。捕まりたくなければ、黙っておくことだな」
「……待ってくださいませ!」
必死にファビアンを引き止めようとしたが、相手にされなかった。
「おい、この女をどうにかしろ」
ファビアンは自分の執事にそう命令し、テレージアは引き剥がされた。
「うっ……うう、そんな。酷いわ」
ショックで立ち上がれないテレージアは、その場でしゃがみ込んで泣き続けていた。
「ええ、心配してくれてありがとう。ちゃんと返事を返したでしょう?」
「来たわ。手紙には『領地は大丈夫』だといつも書いてあった。それなのに……この、嘘つき!」
あの火事があってからというもの、リーゼは何度も手紙をくれ、お見舞いに行きたいと申し出てくれていた。
リーゼの生家であるヴェーデル伯爵家や、婚約者のロベルトと協力して支援もしたいと言ってくれて本当に有り難かった。
だけど、アイラは唯一の親友にそんな迷惑をかけたくなかったのでファビアンとの結婚を選んだ。
リーゼは目に涙を溜めながら、キッと眉を吊り上げた。怒った顔も美しいな、なんてどうでもいいことをアイラは思っていた。
「そんなドレス似合わないわ!」
「……そう? 豪華で素敵でしょう!」
アイラはわざと微笑んで、ドレスの裾をそっと広げてリーゼに見せた。
「可愛いあなたに、そんなたくさんの装飾なんていらないわ」
「……」
「いつものシンプルなドレスの方が似合ってる。それに、全然アイラらしくないわ。好きでもない相手と一緒になるなんて」
リーゼの怒りはもっともだ。婚約を知られたら反対されることはわかっていたので、アイラはあえて今まで黙っていた。
「あなたはオスカー様が好きじゃない。どうして、それがファビアン様と婚約なんて話になるの?」
「……よくある政略結婚よ」
「資金援助の話を聞いたわ。でも、こんなの金をちらつかせて、あなたを買ったのと同じじゃない」
「支援して下さってるって言って。向こうにはメリットなんてないのに、我が家にとってはありがたいことなんだから」
アイラは自分を説得するように、そう言った。
「それよ。それも不思議なの。例えファビアン様があなたを気に入っていたとしても、あの有力なアンブロス公爵家がメリットのないアイラを嫁にもらうなんてことあるかしら?」
「それは……そうだけれど」
アイラもそれは不思議だった。高位貴族になればなるほど『愛してるから』なんて綺麗事だけでは、結婚相手は決まらない。
条件だけで見ると、ロッシュ子爵家にとっては願ってもない縁談だったが……アンブロス公爵家にとってロッシュ子爵家の娘との結婚になんの意味があるのかわからない。
本来、政略結婚というのは双方がメリットを感じないといけないのだから。
例えばファビアンがものすごく年上とか、全然モテなくて結婚してもらえないというのであれば納得できる。
だが、ファビアンは御令嬢方の王子様と呼ばれるほどの人気者だ。結婚相手に困っているはずがない。
「でも、ファビアン様は私の中身も好きだと……言ってくださったの。だから、いいのよ」
アイラはそう自分に言い聞かせた。
「それ本当にそう思ってる?」
「……」
「そんなに派手に着飾らせて、他の人たちに見せつけるようにダンスしたり肩を抱いて……一番あなたの『見た目』に固執してるように見えるけれど」
本当はアイラもそのことには気が付いていた。だが、今更婚約を辞めるわけにはいかない。
「でも、私が結婚すれば全て上手くいくの」
「その考えは立派かもしれないけど、私は嫌よ。親友が、そんな辛い思いをするのを見ていられないわ! もっと頼ってよ。オスカー様だってきっとあなたのことを助け……」
「やめて。もう決めたことだから」
リーゼの言葉を遮るように、アイラは大きな声を出した。
「心配してくれてありがとう。でも、好きな人に迷惑はかけたくないの」
それだけ言うと、アイラはリーゼに背を向けた。
「アイラっ! 待って」
名前を呼ぶ声が聞こえていたが、アイラはそれを無視をしてその場を走り去った。
♢♢♢
「約束と違うではありませんか」
「一体何の話かな?」
「アイラなんかと婚約とはどういうことですか!? 何のために私が……あんな偽装をしたとお思いですか!」
公爵令嬢のテレージアに呼び出されたファビアンは、にっこりと笑顔を作った。
「君のおかげで、本当に助かったよ」
「……え?」
「彼女が突拍子もないことを言いだしたから、どうしようかと思っていたんだ。でも落ちたなら、無かったことと一緒だからね」
「落ちるということは、優秀ではないという証明だと仰っていたではありませんか。公爵家には……相応しくなくなると……」
青ざめたテレージアは、震えた声を出した。
「君の勘違いじゃないか?」
「そんなはずは……っ!」
「私は妻は大人しくて従順な方がいいんだ。感謝するよ、協力してくれて」
ニコリと笑ったファビアンの腕を、テレージアは掴んだ。
「わ、私を騙したのですね!」
「人聞きが悪いね。君が自らしたことだ」
「酷いです。私と結婚してくださると仰ったのに」
泣き出したテレージアを、ファビアンは冷たい目で見下ろし腕を乱暴に振り払った。
「思い上がらないでくれないか」
「……っ!」
「君みたいな女と結婚するわけがないだろう。完璧な私の隣に並ぶのは、見目の整った人でないと。一度鏡で自分の顔を見てみるといい」
鼻で笑いながら、ファビアンはテレージアを馬鹿にした。
「許せません。こんなこと……全て公表しますわっ!」
「はは、君は何もわかってないね。公文書偽造は大罪だよ? アイラを虐めていた君が、私と婚約した彼女に嫉妬して罪をおかした……みんなそう思うだろうさ。捕まりたくなければ、黙っておくことだな」
「……待ってくださいませ!」
必死にファビアンを引き止めようとしたが、相手にされなかった。
「おい、この女をどうにかしろ」
ファビアンは自分の執事にそう命令し、テレージアは引き剥がされた。
「うっ……うう、そんな。酷いわ」
ショックで立ち上がれないテレージアは、その場でしゃがみ込んで泣き続けていた。
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