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本編
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「アーサー殿下、一曲お相手いただけませんか?」
ぼんやりしていると、有力な公爵家の末娘ローザリンデにするりと腕を取られてしまった。
派手に美しく着飾り、自信満々なその様子は自分が断られるとは思っていないようだ。
しかし、彼女にアーサーは全く興味がなかった。
「美しいレディに誘っていただけるなんて光栄ですね。だが、すまないが少し疲れてしまったようだ。休んでくるよ」
社交辞令を交えながら、断りを入れてその場を後にした。
バルコニーに出て風に当たっていると、会場内から視線を感じて振り返った。
アーサーはある一人の御令嬢と目が合った。
こんなところにいてもまだ追いかけられるのか、とげんなりしていたがその御令嬢は慌てて姿を隠した。しかし、こちらからは少しだけ見えている。
追いかけて来ないので、そのまま放っておくことにした。
アーサーもこれ一回きりなら特に気を留めなかったが、舞踏会の度に同じような姿を目撃した。
「また遠くから見つめられている」
しかし向こうから話しかけられることもなく、こちらが近付くと逃げて行く。他に被害は何もない。
「あれはいつかの舞踏会で噴水に落とされていたレディだ。確か……ジュリア嬢という名前だっただろうか?」
アーサーが歩くとぴょこぴょことついてきて、アーサーが振り向くとものすごく慌てて急いで隠れる。
そしてしばらくアーサーを見つめた後、ジュリアはキョロキョロと周囲を見渡した後にお皿に食事を山盛り取り『うっとり』した表情でもぐもぐと美味しそうに食べていた。
アーサーはその姿がなんだか気になり、とても可愛らしく思えてきた。
「くくっ……あんなに頬を膨らませて。あれはそんなに美味しいのだろうか?」
いつも舞踏会では食事をしないアーサーだったが、ジュリアがあまりに美味しそうに食べているのを見て自分も後で同じメニューを食べられるようにしてもらった。
「確かに美味い」
口に入れた途端にジュリアのもぐもぐと嬉しそうに食べている様子を思い出し、なんだか温かい気持ちになった。
王宮の料理は全て絶品のはずなのだが、アーサーは最近の忙しさと疲れからか何を食べても味気なく感じていた。だから、食事を美味しいと思えたのは久しぶりだった。
そしてアーサーはある日の舞踏会、いつも自分の後ろをついてくるジュリアがいないことに気がついた。
そうなるとどこにいるのか気になってくるのが人間の心理だろう。アーサーは人波を上手く避けながら、ジュリアを探すことにした。
そしてやっと彼女を見つけたが、ジュリアは王宮の庭で沢山の御令嬢に囲まれていた。
「まさか……また虐められているのか!」
早く止めてあげなければと思い、アーサーは急いで会場を出た。
「殿下っ! どちらに」
「ちょっと野暮用だ。お前達はついて来なくていい」
護衛を振り切り、アーサーは階段を駆け降りた。ここは警備の行き届いた王宮内。しかもアーサーはかなり強いので、護衛もそこまで本気で追いかけては来ないことを知っていた。
アーサーはなぜ自分がこんなに必死に走っているのかわからない。
わからないが、ジュリアを助けなければと強く思っていた。
「よく毎回同じドレスで舞踏会に来れますわね?」
「恥ずかしくて私なら辞退しますわ」
「まあ、そんなこと言ってはいけませんわ。ジュリア様はこれしかお持ちじゃないのですから」
扇子で顔を隠しながら派手に着飾った御令嬢達がケラケラと大声で笑い合っている。ジュリアを取り囲み、その中心にいるのは公爵令嬢のローザリンデだった。
「……」
「最近、アーサー殿下の周りをちょろちょろしてるらしいじゃない」
「あんたみたいな貧乏人相手にされるわけありませんわ」
「分不相応って言葉ご存知ないのかしら?」
庭についたアーサーは、すぐにジュリアを助けようとしたが自分の名前が話に出ていることに一瞬怯んでしまった。
そうしている内に、ローザリンデはドンとジュリアを強く押した。
危ない! そう思った瞬間、ザパンッという大きな水音が響いた。
「きゃあっ!」
その大きな悲鳴を聞いて、はっと我に返ると……目の前にはなぜか噴水の中に突き落とされたローザリンデがいた。
「ど、ど、どうして私がこんな事に!」
先程突き飛ばされたのは間違いなくジュリアだった。
だが、目の前にはびしょ濡れのローザリンデがいる。
「どういうことだ……?」
意味がわからず、混乱したままアーサーはその場を動けなかった。
「毎回同じ手を使うとは芸がありませんわね」
ジュリアは小声でそう呟いた後、ニコリと微笑み「ご機嫌よう」と何事もなかったかのようにその場を去って行った。
びしょ濡れのローザリンデと取り巻き達は、いまだにギャーギャーと騒いでいる。
アーサーは目の前で起きた事が信じられなかった。
「まさか今のはジュリア嬢が……何かをしたのか?」
何が起こったのか全くわからない。だが、その不思議な感覚は、アーサーが目覚めたらリントヴルムが倒れていた時と類似していた。
しかしその後、いくら探してもジュリアの姿は見つからなかった。
ぼんやりしていると、有力な公爵家の末娘ローザリンデにするりと腕を取られてしまった。
派手に美しく着飾り、自信満々なその様子は自分が断られるとは思っていないようだ。
しかし、彼女にアーサーは全く興味がなかった。
「美しいレディに誘っていただけるなんて光栄ですね。だが、すまないが少し疲れてしまったようだ。休んでくるよ」
社交辞令を交えながら、断りを入れてその場を後にした。
バルコニーに出て風に当たっていると、会場内から視線を感じて振り返った。
アーサーはある一人の御令嬢と目が合った。
こんなところにいてもまだ追いかけられるのか、とげんなりしていたがその御令嬢は慌てて姿を隠した。しかし、こちらからは少しだけ見えている。
追いかけて来ないので、そのまま放っておくことにした。
アーサーもこれ一回きりなら特に気を留めなかったが、舞踏会の度に同じような姿を目撃した。
「また遠くから見つめられている」
しかし向こうから話しかけられることもなく、こちらが近付くと逃げて行く。他に被害は何もない。
「あれはいつかの舞踏会で噴水に落とされていたレディだ。確か……ジュリア嬢という名前だっただろうか?」
アーサーが歩くとぴょこぴょことついてきて、アーサーが振り向くとものすごく慌てて急いで隠れる。
そしてしばらくアーサーを見つめた後、ジュリアはキョロキョロと周囲を見渡した後にお皿に食事を山盛り取り『うっとり』した表情でもぐもぐと美味しそうに食べていた。
アーサーはその姿がなんだか気になり、とても可愛らしく思えてきた。
「くくっ……あんなに頬を膨らませて。あれはそんなに美味しいのだろうか?」
いつも舞踏会では食事をしないアーサーだったが、ジュリアがあまりに美味しそうに食べているのを見て自分も後で同じメニューを食べられるようにしてもらった。
「確かに美味い」
口に入れた途端にジュリアのもぐもぐと嬉しそうに食べている様子を思い出し、なんだか温かい気持ちになった。
王宮の料理は全て絶品のはずなのだが、アーサーは最近の忙しさと疲れからか何を食べても味気なく感じていた。だから、食事を美味しいと思えたのは久しぶりだった。
そしてアーサーはある日の舞踏会、いつも自分の後ろをついてくるジュリアがいないことに気がついた。
そうなるとどこにいるのか気になってくるのが人間の心理だろう。アーサーは人波を上手く避けながら、ジュリアを探すことにした。
そしてやっと彼女を見つけたが、ジュリアは王宮の庭で沢山の御令嬢に囲まれていた。
「まさか……また虐められているのか!」
早く止めてあげなければと思い、アーサーは急いで会場を出た。
「殿下っ! どちらに」
「ちょっと野暮用だ。お前達はついて来なくていい」
護衛を振り切り、アーサーは階段を駆け降りた。ここは警備の行き届いた王宮内。しかもアーサーはかなり強いので、護衛もそこまで本気で追いかけては来ないことを知っていた。
アーサーはなぜ自分がこんなに必死に走っているのかわからない。
わからないが、ジュリアを助けなければと強く思っていた。
「よく毎回同じドレスで舞踏会に来れますわね?」
「恥ずかしくて私なら辞退しますわ」
「まあ、そんなこと言ってはいけませんわ。ジュリア様はこれしかお持ちじゃないのですから」
扇子で顔を隠しながら派手に着飾った御令嬢達がケラケラと大声で笑い合っている。ジュリアを取り囲み、その中心にいるのは公爵令嬢のローザリンデだった。
「……」
「最近、アーサー殿下の周りをちょろちょろしてるらしいじゃない」
「あんたみたいな貧乏人相手にされるわけありませんわ」
「分不相応って言葉ご存知ないのかしら?」
庭についたアーサーは、すぐにジュリアを助けようとしたが自分の名前が話に出ていることに一瞬怯んでしまった。
そうしている内に、ローザリンデはドンとジュリアを強く押した。
危ない! そう思った瞬間、ザパンッという大きな水音が響いた。
「きゃあっ!」
その大きな悲鳴を聞いて、はっと我に返ると……目の前にはなぜか噴水の中に突き落とされたローザリンデがいた。
「ど、ど、どうして私がこんな事に!」
先程突き飛ばされたのは間違いなくジュリアだった。
だが、目の前にはびしょ濡れのローザリンデがいる。
「どういうことだ……?」
意味がわからず、混乱したままアーサーはその場を動けなかった。
「毎回同じ手を使うとは芸がありませんわね」
ジュリアは小声でそう呟いた後、ニコリと微笑み「ご機嫌よう」と何事もなかったかのようにその場を去って行った。
びしょ濡れのローザリンデと取り巻き達は、いまだにギャーギャーと騒いでいる。
アーサーは目の前で起きた事が信じられなかった。
「まさか今のはジュリア嬢が……何かをしたのか?」
何が起こったのか全くわからない。だが、その不思議な感覚は、アーサーが目覚めたらリントヴルムが倒れていた時と類似していた。
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