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本編
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「今日は英雄様のご帰還だ!」
「あの人食いドラゴンのリントヴルム相手に全員無事らしいぞ」
「さすがはアーサー殿下だな。素晴らしい」
王都はわいわいお祭り騒ぎ。ずっとこの国の国民を怖がらせていたリントヴルムを倒した英雄・アーサーが帰ってくる日だからだ。
リントヴルムは、腹が減ったら人間を襲って食べるという悪行を繰り返していた。
これまでも沢山の騎士達が何度も討伐に出掛けたが、失敗に終わっていた。
「アーサー殿下は強くて優しくて素晴らしいお方だな」
国民達は皆が皆、第四王子のアーサーを褒め称えた。
美しく凛々しい容姿に加え、素晴らしい剣術の腕と穏やかで優しい性格の彼は元々人気が高かった。
それが、この討伐でさらに評判が上がり『アーサーこそ次期国王だ』との声が大きくなった。
「アーサー、よくやった! さすがは私の息子だ。我が国を悩ませていた最強のドラゴン・リントヴルムを倒すとは」
「父上、その件ですが私はリントヴルムを倒してなどいません」
アーサーは、父親である国王陛下から呼び出されていた。周りには兄弟達やボーデン王国の重役達が揃っている。
アーサーの『倒していない』発言に周囲は一気に騒ついた。
「あの状況でお前以外に誰が倒すというのだ? 他の兄弟に気を遣う必要ない。慎ましい性格は美徳だが、せっかくの自分の手柄を偽る必要はないぞ」
ハッハッハ、とご機嫌に笑う父親を見てアーサーはこれ以上何を言っても無駄だと感じた。
「アーサーは国の英雄だ。次期王になるのはお前だ」
国王が後継を明言するのは初めてのことだった。
「ちょっと待ってください。私の王位継承権は第四位ですよ?」
「関係ないな。私が実力主義なことを知っているだろう? 例え今回の件がなかったとしても私はアーサーを高く評価していた」
父親のその褒め言葉は正直嬉しかったが、アーサーは側室の子であり第四子。普通なら次期国王になんてなれるはずもない。
「異論のある者は今すぐ申し出よ!」
国王陛下が決めたことをあからさまに否定できる者など誰もいなかった。それに第四子ということ以外で、アーサーが次期王になる問題点は無かったというのも事実だった。
その後臣下達の証言でアーサーが第一王子に騙されたという事実が明るみになり、彼の兄は王位継承権を剥奪され幽閉されることになった。
これでもうアーサーに何かあったとしても、第一王子が国王になることはなくなった。
アーサーは複雑な心境だったが、自分だけではなく大事な臣下まで殺されそうになったことを許すわけにはいかなかった。
第二、第三王子は素直にアーサーの臣下につくと宣言し……ボーデン王国の後継問題は幕を下ろした。
♢♢♢
「きゃあ! アーサー様よ」
「素敵ねぇ。さすが英雄様だわ」
「婚約者が決まっていらっしゃらないそうよ」
「それならまだチャンスがあるわね」
アーサーは次期王だと決まってから、舞踏会で繰り広げられる光景にうんざりしていた。
元々人気のあったアーサーだが、ここまであからさまに御令嬢方に囲まれキャーキャーと騒がれたことはなかった。
それに今まで第一王子にべったりくっ付いていた御令嬢が、手のひらを返したように自分に擦り寄ってくるのも恐ろしかった。
「結局は王妃になりたいだけということか」
誰もアーサー本人を好きなわけではない。次に『国王になる男』がいいだけだ。
「私はリントヴルムを倒してなどいないのにな」
アーサーはあの時、リントヴルムに向かって行ったところまでは覚えていた。
そして目が覚めた時にはもうリントヴルムが倒れていて、リントヴルムの腹には何故かアーサーの剣が刺さっていた。
しかしそれは、絶対にドラゴンを斬れるはずがないという素人な刺し方だった。
一目見て、これは後からわざと刺したものだとわかるものだった。
「なんだ……これは。誰がリントヴルムを……」
アーサーが戸惑っていると、周りに倒れていた臣下達が次々によろよろと起き上がってきた。
「殿下、ご無事ですか」
「ああ、大事ない。皆も生きていてくれてよかった」
「あの状況でよくリントヴルムを倒されましたね」
臣下達からは賞賛の声が上がったが、アーサーは否定した。
「いや、私ではない。気が付いたら、もうリントヴルムは息絶えていた」
「しかし、私達と殿下以外誰もいませんでしたよ」
「そうなのだが……」
「きっと気が動転していらっしゃる中で、必死に戦ってくださったから記憶が曖昧なのではありませんか」
いくら否定をしても、状況証拠からアーサーがリントヴルムを倒したということを疑う者はいなかった。
確かにアーサーはボーデン王国一強い騎士だった。元々もしリントヴルムを倒せる人物がいるとしたら、アーサーしかいないだろうと言われていた。
ただし、それは十分準備をして戦いに臨んだ時の場合。
ただの視察として、ろくな装備もせず数名だけの側近や臣下を連れているだけの状態では絶対に無理だった。
「一体誰なのだろうか?」
アーサーは助けてくれた人物にお礼を言いたかった。例え自分が次期王から外されたとしても、本当の英雄はリントヴルムを倒した人だと国中に伝えたかった。
しかし、あの凶暴なドラゴンを倒せるような実力のある者の名を思いつかなかった。
「あの人食いドラゴンのリントヴルム相手に全員無事らしいぞ」
「さすがはアーサー殿下だな。素晴らしい」
王都はわいわいお祭り騒ぎ。ずっとこの国の国民を怖がらせていたリントヴルムを倒した英雄・アーサーが帰ってくる日だからだ。
リントヴルムは、腹が減ったら人間を襲って食べるという悪行を繰り返していた。
これまでも沢山の騎士達が何度も討伐に出掛けたが、失敗に終わっていた。
「アーサー殿下は強くて優しくて素晴らしいお方だな」
国民達は皆が皆、第四王子のアーサーを褒め称えた。
美しく凛々しい容姿に加え、素晴らしい剣術の腕と穏やかで優しい性格の彼は元々人気が高かった。
それが、この討伐でさらに評判が上がり『アーサーこそ次期国王だ』との声が大きくなった。
「アーサー、よくやった! さすがは私の息子だ。我が国を悩ませていた最強のドラゴン・リントヴルムを倒すとは」
「父上、その件ですが私はリントヴルムを倒してなどいません」
アーサーは、父親である国王陛下から呼び出されていた。周りには兄弟達やボーデン王国の重役達が揃っている。
アーサーの『倒していない』発言に周囲は一気に騒ついた。
「あの状況でお前以外に誰が倒すというのだ? 他の兄弟に気を遣う必要ない。慎ましい性格は美徳だが、せっかくの自分の手柄を偽る必要はないぞ」
ハッハッハ、とご機嫌に笑う父親を見てアーサーはこれ以上何を言っても無駄だと感じた。
「アーサーは国の英雄だ。次期王になるのはお前だ」
国王が後継を明言するのは初めてのことだった。
「ちょっと待ってください。私の王位継承権は第四位ですよ?」
「関係ないな。私が実力主義なことを知っているだろう? 例え今回の件がなかったとしても私はアーサーを高く評価していた」
父親のその褒め言葉は正直嬉しかったが、アーサーは側室の子であり第四子。普通なら次期国王になんてなれるはずもない。
「異論のある者は今すぐ申し出よ!」
国王陛下が決めたことをあからさまに否定できる者など誰もいなかった。それに第四子ということ以外で、アーサーが次期王になる問題点は無かったというのも事実だった。
その後臣下達の証言でアーサーが第一王子に騙されたという事実が明るみになり、彼の兄は王位継承権を剥奪され幽閉されることになった。
これでもうアーサーに何かあったとしても、第一王子が国王になることはなくなった。
アーサーは複雑な心境だったが、自分だけではなく大事な臣下まで殺されそうになったことを許すわけにはいかなかった。
第二、第三王子は素直にアーサーの臣下につくと宣言し……ボーデン王国の後継問題は幕を下ろした。
♢♢♢
「きゃあ! アーサー様よ」
「素敵ねぇ。さすが英雄様だわ」
「婚約者が決まっていらっしゃらないそうよ」
「それならまだチャンスがあるわね」
アーサーは次期王だと決まってから、舞踏会で繰り広げられる光景にうんざりしていた。
元々人気のあったアーサーだが、ここまであからさまに御令嬢方に囲まれキャーキャーと騒がれたことはなかった。
それに今まで第一王子にべったりくっ付いていた御令嬢が、手のひらを返したように自分に擦り寄ってくるのも恐ろしかった。
「結局は王妃になりたいだけということか」
誰もアーサー本人を好きなわけではない。次に『国王になる男』がいいだけだ。
「私はリントヴルムを倒してなどいないのにな」
アーサーはあの時、リントヴルムに向かって行ったところまでは覚えていた。
そして目が覚めた時にはもうリントヴルムが倒れていて、リントヴルムの腹には何故かアーサーの剣が刺さっていた。
しかしそれは、絶対にドラゴンを斬れるはずがないという素人な刺し方だった。
一目見て、これは後からわざと刺したものだとわかるものだった。
「なんだ……これは。誰がリントヴルムを……」
アーサーが戸惑っていると、周りに倒れていた臣下達が次々によろよろと起き上がってきた。
「殿下、ご無事ですか」
「ああ、大事ない。皆も生きていてくれてよかった」
「あの状況でよくリントヴルムを倒されましたね」
臣下達からは賞賛の声が上がったが、アーサーは否定した。
「いや、私ではない。気が付いたら、もうリントヴルムは息絶えていた」
「しかし、私達と殿下以外誰もいませんでしたよ」
「そうなのだが……」
「きっと気が動転していらっしゃる中で、必死に戦ってくださったから記憶が曖昧なのではありませんか」
いくら否定をしても、状況証拠からアーサーがリントヴルムを倒したということを疑う者はいなかった。
確かにアーサーはボーデン王国一強い騎士だった。元々もしリントヴルムを倒せる人物がいるとしたら、アーサーしかいないだろうと言われていた。
ただし、それは十分準備をして戦いに臨んだ時の場合。
ただの視察として、ろくな装備もせず数名だけの側近や臣下を連れているだけの状態では絶対に無理だった。
「一体誰なのだろうか?」
アーサーは助けてくれた人物にお礼を言いたかった。例え自分が次期王から外されたとしても、本当の英雄はリントヴルムを倒した人だと国中に伝えたかった。
しかし、あの凶暴なドラゴンを倒せるような実力のある者の名を思いつかなかった。
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