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第52話 〜えっ?そやったん?〜

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 「おかぁちゃーん!」

 ゆうと君は女性……金子さんの姿を見て嬉しそうに手を振ってる。あぁ名前で気付くべきやったんかも知れんけど、金子いう苗字は決して珍しくないので全く気にしてへんかった。

 「ゴメンな侑斗ゆうと、遅うなってしもて……えっ!?」

 彼女もまた俺と同じような反応をして目を丸うしとる。

 「先日はお邪魔しました」

 「いえ、こちらこそ変なお声掛けしてしまいまして」

 彼女親にあんな言われ方してちょっと気にしてしもうとるらしい。どう考えてもその類の声掛けではなかったのに。

 「僕はそんな風に受け取ってません、余り気に病まんといてください」

 むしろ名前まで憶えとってくれて嬉しかったくらいや。

 「あれ?おかあちゃんとてっぺいちゃんおともだちなん?」

 侑斗君は俺らを不思議そうに見上げてる。今ここであの話する時間無いし……。

 「お友達いうよりはお知り合いやね」

 金子さんなかなか上手い事言うたな。

 「ほないまからおともだちになったらええやん」

 「「えっ……?」」

 侑斗君の意外な言葉に俺らは思わず顔を見合わせてしまう。幸い嫌われんかったんは良かったけどホンマにええんやろか?

 「侑斗、そんなんご迷惑やないの。ゴメンなさい、急におかしな事言いまして」

 金子さんは俺に頭を下げてくる。

 「いえいえそんな……」

 全然迷惑やない、むしろ光栄や。けど何かこそばゆくて俺の気持ちはワタワタしとる。

 「ええ大人が何しとんねん、この子がええ言うてるんやからさっさと友達になったらええ」

 先生に窘められた俺は改めて金子さんの顔を見つめてしまう。ええの?俺こんな美人の友達になってええの?男三十日常に彩り無しの俺は思春期の心を今更ながら再実感しております、中二病とか言わんといて。

 「……こんなおっさんで良ければ宜しくお願いします」

 俺は気恥ずかしくなって頭を掻く。金子さんはそれがツボやったんかクスクスと笑い出した。

 「おっさん言うても歳下よね?こちらこそこんなおばさんで良ければ宜しくお願いします」

 金子さんは綺麗な笑顔を見せてからペコリと頭を下げてくれた。

 「てっぺいちゃん、ぼくもおともだちー!」

 侑斗君は右手で俺の手を、左手で金子さんの手を握る。今から家に行こうと誘ってくれたが俺もうじき仕事に戻らなあかんねん。

 「ゴメンな、仕事まだ残ってんねん」

 「ホンマかぁ、ざんねん。ほなどようびは?」

 かつては休みだったが今は隔週でシフトを組んでいる(他の町でどうしてるんかまでは知らんけど)、因みに今週は出勤。

 「今日みたいにお昼食べる時間なら空いとるよ」

 「ほなそうしよ、やくそくやで」

 俺は侑斗君と指切りげんまんをした、そう言えば最後にしたんいつやったかいなぁ……?
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