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第44話 〜そんなサプライズ要りません〜

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 翌日、俺とおかんは八杉氏に伴われて地区最大都市にある大型ホテルのレストランに居る。とは言うても人口十万人もおらん田舎町に変わりはなく、都会らしさは微塵も感じられない。
 ‎今回のお見合い相手はこの辺りで展開しているスーパーマーケットの経営者のお嬢様だそうで……で思い当たる同級生が一人居るんでこれまた嫌な予感しかせん。それが当たりであれば高校時代に付き合ってた元カノで、『優しいだけじゃ物足らん』と振ってからすぐさま同じ野球部の主将であった松田司まつだつかさに猛アプローチを掛けとったというしょっぱい思い出しかない相手である(結論から言えば松田には振られとる)。それが十二年経った今になって何で?俺変なとこ男っぽくないんではっきり言うて意味が分からん。

 「そない固うならんでええ、多分話も合う」

 いや俺はむしろこの場から逃げてしまいたい……それも叶わず予想通りの女が着物姿でそれなりに綺麗にしてご家族と共に現れた。

 「久し振り徹平君、高校卒業以来やね」

 その神経の太さ見習いたいわ。俺は元カノ倉橋亜美くらはしあみの顔を見る、お前何企んどんねん?

 「……ご無沙汰してます倉橋さん」

 「何や君ら知り合いやったんか、いやぁそれなら話が早い」

 ……一体何の?

 「自己紹介の必要もありませんし、もう若い二人にお任せして……」

 「ほな私わざわざ来る必要ありませんでしたがな」

 おかんは勝手に上機嫌になっとる八杉氏に釘を刺す。

 「私もそう思いますわ、このまま帰るんもアレですし母親同士どこかでお茶でもしませんか?」

 良いですね。母親同士変な気の合い方でさっさと席を立つ。

 「いやぁめでたい報告も近そうですなぁ」

 倉橋父と八杉氏は呑気そうに笑うとるけどそれ外れやで。

 「「めでたいんはあんたらの脳みそや」」

 母親同士はおっさん二人を放置し、さっさとレストランを出て行ってしまう。残されたおっさん二人は再び席に着くが今度は倉橋に邪険にされる。

 「すみません、二人きりにしてください」

 「……そうか、分かった」

 おっさん二人もそそくさと退席し、気まずいながらも二人になったんはむしろ好都合やった。
 倉橋は何か言いたげに俺の顔を見る。用があるんならさっさと言え、大体分かるけど見合いいう形を利用すなと言いたいわ。

 「……何か大人になったね」

 「いやそうでもない」

 この女の企みが読めてしまってるせいかはっきり言うて興醒めである。それ前提でここに居る女にまで優しくするほど俺は人間出来てない。
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