上 下
45 / 131

第43話 〜あんたが決める事やない〜

しおりを挟む
 「あぁお帰り陣ちゃん、ハニーミルク飲むか?」

 おかんは呑気そうにあの人にハニーミルクを勧めてる。

 「アレルギーの人に牛乳勧めなや」

 俺の一言であぁせやったとようやく思い出したおかん、普通に忘れとったらしいわ。

 「こんばんは、お邪魔してます」

 ルミちゃんはあの人にペコリと頭を下げるが軽く一瞥するだけでまともな返事もせん。彼女は不思議そうにコダマを見上げ、二人は顔を見合わせている。

 「……遼生の領域を侵すな」

 「「はぁ?」」

 俺とおかんは思わず声を揃えてしまう。それを決めるんは家主のおかんであってあんたではない。

 「陣殿、何か勘違いしておらぬか?」

 コダマも眉を顰めとる、コイツのこういう顔ってあんま見ぃひんな。

 「……あたし何かおかしな事したん?」

 ルミちゃんはこの展開の意味すら分からん言う感じの顔しとる。小さい頃から馴染みのある兄貴の部屋を、大した知り合いでもない男に使うな言われとるんやからな。

 「あんた自分の厚かましさが分からんのか?」

 「厚かましいんはむしろあなたです、ルミちゃんは何も悪うありません」

 コダマも大概やけど基本他人の行いに文句は言わん、それに勝手に出てって勝手に戻ってって勝手に転がり込んで来たあんたの方がよっぽど厚かましいわ。

 「……陣ちゃん、ここの家長は私や」

 「けどおばちゃん、あの部屋は聖域や」

 「何意味の分からん事言うてんの?あくまで息子の遺品を置いてるだけの部屋や、誰も入らんようになったらそれそのものが腐敗する」

 おかんはその言葉の通り度々兄貴の部屋を掃除し、時には思い切って捨てる事もあるくらいや。物によってはそれでもカビたりする事もあり、保存という名の放置をするとかえって事態が悪くなるんも経験済みや。

 「私かてっぺがええ言うたら遼生もええ言うてるんや、あの子はそないなケチ臭い子やない」

 「……」

 おかんはキッパリとそう言い切り、あの人に反撃の余地を与えんかった。

 「……おばちゃん、大丈夫?」

 「当たり前やろ、あんたは遠慮のう使うてくれてええの。気が変わらんうちにさっさと上がろ」

 おかんはコダマとルミちゃんを連れてさっさと二階に上がっていく。牛乳はすぐに温まり、四等分に分けて蜂蜜を絡ませたスプーンをドボンとはめる。

 「てっぺ、お前なら俺の言いたい事……」

 その話はもう終わった、俺はおかんの考えを支持する。

 「いえ全く分かりません。風呂入るんでしたら最後湯だけ落としといてください」

 俺は出来立てのハニーミルクを四人分トレーに乗せ、二階の兄貴の部屋に持って上がった。
しおりを挟む

処理中です...