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第十章 下北線路外空き地

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 それから私たちはいつも通り衣装に着替えた。私は紫セーラー服に、美鈴さんはチャイナドレスにそれぞれ着替える。香澄さんは……。まだ抵抗があるのか私たちの着替えを黙って眺めていた。気持ちは分かる。私だって最初はそうだったのだ。一六歳でこんな服を着るのは……。傍から見たら結構イタいことだと思う。
 でも……。今となっては私もすっかりこの衣装を着るのに抵抗をなくしてしまった気がする。紫の袖無しセーラー服にブーツ。そして透明な刃の付いた錨型のステッキ。そんな一見するとかなりアレな格好も慣れればどうってことはないのだ。お金を貰う。子供たちに夢を与える。そして私の夢を叶えるためならこの程度の恥なんて恥でも何でもないと思う。まぁ流石に高校の同級生にこのことがバレるのは少し嫌だけれど。
 そうやって私が着替えている横で美鈴さんはあっという間に変身を終えた。チャイナドレス姿の魔法少女。役名はマジカルメイリン。武器は火属性のハルバート……。諏訪さん曰く、そんな設定らしい。
 ちなみに私の設定はセーラー服姿の風属性の魔法少女らしい。役名はマジカルセーナ。武器は治癒能力を持った聖剣……。という設定のようだ。なかなかファンタジックな設定だと思う。(ちなみにちなみに私たちの武器にはそれぞれちゃんと名前まで付いているとか。まぁたぶん誰も興味がないとは思うけれど)
「おっし! んじゃ鹿島ちゃんも着替えちゃおっか! 手伝うからさ」
 美鈴さんはそう言うと香澄さんの肩を優しくポンと叩いた。香澄さんは小声で「うん」とだけ答えた――。

 そうこうしていると更衣スペースに弥生さんが入ってきた。
「ごめん。遅くなっちゃって……」
 弥生さんはそう言うと深々と頭を下げた。その様子から察するに彼女は自分のワガママで迷惑を掛けたと思っているようだ。
「大丈夫だよー。……それより篠田さんとはちゃんと話せた?」
「うん。お陰様で。……もう思い残すことはないくらいだよ」
 弥生さんはそう言うと何とも言えない表情を浮かべた。それは満足だとか感動だとか、そういった類いの顔ではないように見えた。あえて言うなら……。それは諦めが付いたときの表情に似ている気がする。
「弥生ちゃーん。お疲れ様ー」
 不意に香澄さんがそう言って弥生さんに声を掛けた。香澄さんは窮屈そうに帯を締められ少し息苦しそうだ。
「お疲れ様。香澄ちゃん今日はよろしくね」
 弥生さんはそう言うと無理な笑顔を作った。まるで生きる意味を見失ってしまったみたいな。そんな笑顔を。 
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