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第三章 神戸1992
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最初のバンドはロックバンドだった。メンバー構成はヴォーカル・ギター・ベース・ドラム・キーボードというテンプレート通りのメンツだ。
正直な話、彼らの演奏はあまり上手くなかった。
あくまで学内の軽音部が、部活の延長線でやっているだけのように感じる。
「なんや……。あんまうまないね……」
「お前はほんまに失礼な奴やなー。聞こえたらどうすんねん?」
健次は怪訝な顔で私を諭した。幸い、ドラムとギターの音で私の声など彼らには届かないだろう。
「でも……。楽しそうだよね!」
「せやな、趣味レベルやったら楽しいかもしれへんね」
我ながら辛辣だ。偉そうに聞こえるかもしれない。
それでもそれは素直で率直な感想だった。
彼らの演奏が終わると次のバンドに移る。
どのバンドの曲も聞き慣れたメロディが多かった。
どうやらコピーバンドらしい。
「コピーやね」
「まぁアマチュアやからな。俺も練習は基本コピーやで?」
「オリジナルって難しいんかなぁ?」
そこにいる多くのバンドはコピーバンドだった。彼らは自分たちが憧れているバンドの曲を必死に練習しているのだろう。
そんなコピーバンド二組が演奏を終えた。会場は熱を帯び、六月の嫌な湿気がライブハウス内に満ちていた。
「なぁ月子? お前の知り合いが出とるバンドなんちゅう名前なんや?」
「ああ、たしか『レイズ』ゆう名前やったで! 佐藤君の話やとロックバンドらしい」
佐藤亨一のバンドは『レイズ』という名前だった。
珍しい構成のバンドでヴォーカルとドラムは女性らしい。
「たしかに変わっとるな。あ、次のバンド始まるみたいやで」
少しすると次のバンドがステージに現れた。
「あ、このバンドやで!」
そこに登場したのは『レイズ』だった。話に聞いていた通り、男子二人、女子二人のフォーピースバンドだ。
「どうも皆さん! 初めまして! 『レイズ』です!」
ヴォーカルの女の子が挨拶すると会場から歓声が上がる。
「人気なんやな」
「せやね」
彼らが登場すると、会場は今日一番の盛り上がりを見せる。
どうやら彼ら目当ての客は多いようだ。
「すごいねー。『レイズ』さん人気者なんだね」
「ほんまやな。あ、あの左側におるんが佐藤君やで!」
佐藤亨一はステージに向かって左側でベースを構えている。
その様子はまるで熟練のベーシストのようで堂々としていた。
「では聴いて下さい! 『DAY&NIGHT』」
ヴォーカルが曲紹介すると会場内に激しいドラム音が鳴り響いた。
エフェクターの色に染まったフライングVの音色がドラムのリズムと混ざり合い、イントロが豪雨のように押し寄せてきた。
ヴォーカルの女の子の歌声は、話す声とはまるで違った。彼女の声は芯のある強い声で、自由自在に変化する高い技術もあった。好みはあるだろうけれど歌唱力はかなり高いと思う。
そして……。何より驚いたのベースだ。ロックバンドに詳しくない私から見ても、このバンドの要がベースであることは明白だった。
佐藤亨一のベースは、『完璧』という言葉が似合うと思う。彼が作り出す独特のノリは『レイズ』全体に行き渡り一つの生き物のようにも見えた。
私は完全に彼らに飲まれていた。他のコピーバンドとは明らかに質が違う。
単純にオリジナル楽曲を演奏しているからではない。
おそらく彼らは互いが互いを高め合える存在なのだろう。
駆け抜けるように演奏する彼らを見ていると、自分が夢見ていた場所がそこであるような気がした。
私は心の奥底から「ウチもああなりたい」と思った――。
正直な話、彼らの演奏はあまり上手くなかった。
あくまで学内の軽音部が、部活の延長線でやっているだけのように感じる。
「なんや……。あんまうまないね……」
「お前はほんまに失礼な奴やなー。聞こえたらどうすんねん?」
健次は怪訝な顔で私を諭した。幸い、ドラムとギターの音で私の声など彼らには届かないだろう。
「でも……。楽しそうだよね!」
「せやな、趣味レベルやったら楽しいかもしれへんね」
我ながら辛辣だ。偉そうに聞こえるかもしれない。
それでもそれは素直で率直な感想だった。
彼らの演奏が終わると次のバンドに移る。
どのバンドの曲も聞き慣れたメロディが多かった。
どうやらコピーバンドらしい。
「コピーやね」
「まぁアマチュアやからな。俺も練習は基本コピーやで?」
「オリジナルって難しいんかなぁ?」
そこにいる多くのバンドはコピーバンドだった。彼らは自分たちが憧れているバンドの曲を必死に練習しているのだろう。
そんなコピーバンド二組が演奏を終えた。会場は熱を帯び、六月の嫌な湿気がライブハウス内に満ちていた。
「なぁ月子? お前の知り合いが出とるバンドなんちゅう名前なんや?」
「ああ、たしか『レイズ』ゆう名前やったで! 佐藤君の話やとロックバンドらしい」
佐藤亨一のバンドは『レイズ』という名前だった。
珍しい構成のバンドでヴォーカルとドラムは女性らしい。
「たしかに変わっとるな。あ、次のバンド始まるみたいやで」
少しすると次のバンドがステージに現れた。
「あ、このバンドやで!」
そこに登場したのは『レイズ』だった。話に聞いていた通り、男子二人、女子二人のフォーピースバンドだ。
「どうも皆さん! 初めまして! 『レイズ』です!」
ヴォーカルの女の子が挨拶すると会場から歓声が上がる。
「人気なんやな」
「せやね」
彼らが登場すると、会場は今日一番の盛り上がりを見せる。
どうやら彼ら目当ての客は多いようだ。
「すごいねー。『レイズ』さん人気者なんだね」
「ほんまやな。あ、あの左側におるんが佐藤君やで!」
佐藤亨一はステージに向かって左側でベースを構えている。
その様子はまるで熟練のベーシストのようで堂々としていた。
「では聴いて下さい! 『DAY&NIGHT』」
ヴォーカルが曲紹介すると会場内に激しいドラム音が鳴り響いた。
エフェクターの色に染まったフライングVの音色がドラムのリズムと混ざり合い、イントロが豪雨のように押し寄せてきた。
ヴォーカルの女の子の歌声は、話す声とはまるで違った。彼女の声は芯のある強い声で、自由自在に変化する高い技術もあった。好みはあるだろうけれど歌唱力はかなり高いと思う。
そして……。何より驚いたのベースだ。ロックバンドに詳しくない私から見ても、このバンドの要がベースであることは明白だった。
佐藤亨一のベースは、『完璧』という言葉が似合うと思う。彼が作り出す独特のノリは『レイズ』全体に行き渡り一つの生き物のようにも見えた。
私は完全に彼らに飲まれていた。他のコピーバンドとは明らかに質が違う。
単純にオリジナル楽曲を演奏しているからではない。
おそらく彼らは互いが互いを高め合える存在なのだろう。
駆け抜けるように演奏する彼らを見ていると、自分が夢見ていた場所がそこであるような気がした。
私は心の奥底から「ウチもああなりたい」と思った――。
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