29 / 29
第29話 姉貴
しおりを挟むよかった皆いた。
わたしは、事情を説明する。
ミケのこと。イヴさんのこと。シロアリのこと。
すると、頷きながら聞いていたエマが手をあげた。
「そのイヴさんに、ちゃんと危ないって説明できればいいんじゃない?」
「でも、シロアリを見せてもダメだったんだよ?」
スージーも手をあげる。
「だからさ。ちゃんと第三者に調べてもらうとか……」
うーん。建物に詳しい第三者……。
お母さんはずっと黙って聞いてたが、椅子から腰を浮かせると、口を開けて何か言いたそうにしている。
わたしはビシッとお母さんを指差して指名した。
「ソフィアちゃん、この前、不動産屋さんの依頼うけてたよね? その人にお願いしてみたら?」
そっか。デルさんなら、詳しい人を紹介してくれたりするかも知れない。だけれど、デルさんがいるのって、ロゼルの街だよ。
手紙を書いても何日もかかるかもしれないし。
ロゼルまでの道は治安が良くないから、わたしがいけるとも思えない。
すると、スージーが元気に手をあげる、何かを閃いたようだ。
「ソフィア。デルさんって白髪混じりで小太りのおじさん? だったら、学校の寮も斡旋しているから、よく学校に出入りしているよ」
『ええっ、そうなんだ』
スージーは続ける。
「アタシ、明日学校で聞いてみるよ」
よかった。今はお友達が手伝ってくれる。
前のわたしだったら、1人で考えちゃって何もできなかったと思う。
それから数日後。
スージーから話を聞いたデルさんが尋ねてきてくれた。
「……スージーさんから話は聞きました。是非、お手伝いさせてください。そのかわり、また何かあったら宜しくお願いしますね」
デルさんと一緒に、ミケの家に行く。
トントン。
ノックすると、イヴさんが扉の中から低めの声をあげる。
「……だれ?」
「わたしです。ソフィアです」
伏せ目がちにでてきたイヴさんは、わたしと目が合うと眉をあげ声のトーンを上げた。
「この前はごめんね~。あれから、ミケに怒られちゃってさ~」
よかった。今回は話を聞いてくれそうだ。
わたしは、デルさんを紹介してさっそく問題の柱を見てもらう。
デルさんは顎を右手で押さえると、目を細めて柱の周りをぐるりとする。
「私は設計もするんですが、とても良くないですね。現状では。暴風などでいつ倒壊してもおかしくないです。早急に対策なさった方がいいですよ」
イヴさんが聞き返す。
「対策って?」
すると、デルさんは咳払いをして、柱を指差しながら答えた。
「柱の補強か、建て替えですね。補強なさるなら、他の柱も食われないように虫対策もした方がいいですよ」
イヴさんは、数秒考え込んだ。
そして、肩を落として答える。
「柱を直すようなお金はないです。建て替えるにしても、わたしはこの家から離れたくない……」
やはり、家から離れるのはイヤみたいだ。
デルさんには、お礼を言って先に帰ってもらった。
わたしはイヴさんともう少し話すことにした。
ミケは……、お行儀よく前足を揃えてちょこんと座っている。こちらを見ている目は、こころなしか寂しげに見えた。
猫って、表情が豊かだなと思った。
わたしは思い切ってイヴさんに聞いてみる。
「ご家族との思い出の家ということは分かるんですが、しばらく他で住むとか。もし、行くところがなければ、わたしの家に来てください」
イヴさんは笑顔を作る。
「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ。でも、わたしが居なくなったら、この家はきっと、あいつらに乗っ取られてしまう。それに補修するとしても、お金を貯めるのに何ヶ月かかるやら」
たしかに家を離れたら、ここを狙っている人の思う壺なのかもしれない。でも、なにか腑に落ちない。
イヴさんがこの家に執着する理由が他にもある気がする。前にイヴさんが濁したことをやはり聞かないとか。
途端に唇が重く感じる。フードの端をいじっていた手を止めて、質問する。
「あの。お姉さんは、どうして亡くなってしまったんですか? ……ごめんなさい」
イヴさんは、顔を伏せて呼吸が荒くなる。
息遣いで肩が震えているように見えた。
「姉貴は……、街で貴族の爺さんに一方的に見染められてね。きっと、わたしのためにかな。メイドとして働きに出たんだ」
なんだか嫌な予感がして、わたしは両肘を抱える。イヴさんは声のトーンをさらに落とすと、眉間に皺を寄せる。
「今だからわかる。ていのいい愛人だよね。姉貴は日に日にやつれていった。でも、わたしが心配すると、笑顔で『大切にされている』って答えるんだ」
なんだか聞いていられない。
「うん……」
「でもさ、きっと酷い扱いを受けてたんだと思う。あの爺さんが姉貴の肌に触れたのかと思うと、吐き気がするよ。んで、ある時、姉貴は亡くなってしまった。その時の状況は。ごめん、話したくない」
わたしは話を聞いているうちに気持ち悪くなった。ひどいよ。世の中には、そんなひどい人がいるのか。
イヴさんは続ける。
「姉貴がなくなったあと、幾ばくかのお見舞金だけが送られてきてそれっきり。労いの言葉すらなかった。でも、わたしはお見舞金をみて思ったね。ああ、やっばぱりそういうことなんだって」
身体中がそぞっとして、毛が逆立つのを感じる。わたしは前ボタンを握る。そして、質問した。
「……そのお爺さんに復讐したいですか?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる