ねこ耳娘の異世界なんでも屋♪

おもち

文字の大きさ
28 / 29

第28話 思い出を抱えた家

しおりを挟む

 いっそのこと、『猫の依頼で家を修理するか引っ越して欲しい』と言ってしまいたいけれど……。

 だけれど、依頼自体がわたしの思い込みかもしれない。

 とにかく、まずは、この女性に話を聞いてみよう。

 わたしは、心の中で右往左往している自分が漏れ出さないように、努めて落ち着いた声色で答えた。

 「勝手に入ってすみません。わたしは、池の近くで何でも屋をしているソフィアといいます。この猫ちゃんはあなたが飼ってるんですか?」

 女性は腕を組んで、わたしに近づくと、上から見下ろすような体勢になった。

 「ほんと、勝手に人の家に入るって非常識だと思うよ? まぁ、この家には盗るものなんてないけどね。わたしはイヴっていうよ」

 なんだか怖い。
 肺の空気が抜けてしまったようだ。息苦しい。

 ほんとうにわたしは……。

 勝手に家に入ってしまったことに引け目を感じ、いつのまにか、わたしはうつむいてしまっていた。
 
 「はい。すみません……。実はこの猫ちゃんに大切なものを取られてしまいまして。後を追ってこの家の中に入ってしまったんです」

 そういって、わたしは、ポケットから、ブラを少しだけ引き出して見せる。

 すると、イヴさんは、少しわたしから離れると、気まずそうに右手のひらで額から頬にかけて撫で回しながら、こちらを見た。

 「ちょ。ごめん~。ミケ、あ、この子の名前ね。非常識なのはこっちだったね。ごめん。それにしても、この子、何故か赤いものが大好きでさ。それで取っちゃったんだと思う。赤いものに目がないって、姉貴そっくりだよ」

 え。
 この人、姉妹いるんだ。
 
 「姉貴? お姉さんがいるんですか?」

 すると、イヴさんは表情をこわばらせ、声のトーンを下げた。

 「……うん。今はもういないんだけれどね。まぁ、そんなこんなで、わたしは天涯孤独ってわけ。ん?、あ、お前がいたね」

 ミケの方を見る。

 ミケは「ゔー」と言いながら、目を吊り上げイヴさんのズボンの裾を引っ張っている。イヴさんは、ミケの頭をなでた。

 「ボロだけど、家族との思い出が詰まってるからね。わたしは絶対に売ったりするつもりはないんだ」

 イヴさんは口調こそ穏やかだけれど。
 ここで見ず知らずのわたしが引っ越して欲しいと言ったって聞いてくれるわけがない。何かしらの根拠を示さないと。

 わたしはイヴさんを柱の裏に連れていく。そして、ちょっとだけ声を明るくして、柱を指差した。

 「ここ見てください。シロアリで脆くなってるんですよ」

 イヴさんは覗き込むように前屈みになると、髪をかき上げ顎に手を添える。

 「うーん。たしかにね。でも、わたし引っ越すつもりないから」

 やはり、全然聞く耳をもってくれない。それどこか、気づけば、不審者をみるような目でわたしをジロジロと見ているぞ。

 何をこんなに警戒しているのだろう。イヴさんは、声を硬くしてわたしに聞いた。

 「もしかして、あんた、あいつらの仲間?」

 あいつらって誰だよ。

 しまった、今、わたし不機嫌な顔してたかも。
 イヴさんは、床のどこかの一点を見つめている。そんなわたしの心配を気にかける様子はなかった。

 「実は最近、この家を売って欲しいとしつこい人がいてね。そいつらの仲間かと思ったんだ」

 なるほど。わたしは、心の中で拳で手のひらを打った。

 
 うーん。どうしていいかわからない。
 当人のミケは話せないし。

 「ちょっと失礼します。あとで、また来ます」

 そう言い残し、逃げるようにミケの家をでた。

 わたしは自分の家に走る。
 そろそろ、お母さんが帰ってきてる時間だし、エマかスージーがいるかも知れない。


 お願い誰かいて。
 

 家の扉の前にたつ。
 毎日通ってる扉なのに、なんだか心細くて胸を押さえたくなる。

 一息つくと、ゆっくり扉をあけた。
 

 すると、お母さん、エマ、スージーが一斉にわたしを振り返った。

 「おかえり~」

 よかった。みんないてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...