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第二章 宝玉とわがままな神子
32 治癒魔法
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「カイリ、治癒魔法使えるか?。」
テントの中央の支柱に縛られたまま、優君とティアちゃんと一緒に気を紛らわせようと話をしていると、アッシュがテントに入って来た。
「優君の時は、砂の宮のじーちゃんが仲立ちしてくれていたから使えたんだけどね。それからは試してないから、どうなんだろうな。」
俺が答えている間に、アッシュは優君の拘束を外してくれた。
「アッシュさん、ありがとうございます。」
優君は律儀にお礼を言う。本当に良い子だなぁ。
「ふ、縛ったのは俺だ。礼には及ばんさ。まぁ、さっきツヴァイルから知らせが入ってな。三人とも帰って来るからもう縛りつけとかなくても無茶はしないだろう?。ただユージーンの奴が意識がなくて火傷しているって言うからよ、回復薬飲めなかったらカイリに頼もうかと…。」
ーーーは?
「ぼぼぼぼぼくっ、あのっ、そのっ。ユージーンどこですかっ?」
優君が青い顔でアッシュの言葉を遮りながら詰め寄る。
「ああ、こっちに向かっているって言ってたから、じきに帰って来ると思うぜ。」
「ばっかアッシュ、そんな大事なこともっと先に言えよ。早く俺のも解いて。治癒試してみるからっ。」
「バカとはなんだ。ほら暴れるな、紐がキツくなるだろうが。」
後ろでごそごそ紐を解いてくれているんだろうけれど、ちっともほどけない。
「もーっ、アッシュのぶきっちょ。早く早く。」
「ぶきっちょって、おまえさん俺の扱い酷くないか?。まぁ、特別扱いされるのは悪くないがな。だが、もっと色っぽい誘い方をしてくれれば、俺ももっとやる気が出るってもんだな。」
「なに言ってんだよ。アッシュなんかこれで十分だし。てか、くっつき過ぎ。このセクハラ大王!。」
アッシュが俺の前に回り込んできて、にやにやと笑う。
ダメだ。完全に俺をからかうスイッチが入っている。
「ほれ、もう一回、早くって言ってみ。」
「言わないっ。馬鹿アッシュ。」
アッシュがクックッと笑う。そんなことしている場合じゃないだろう??。
俺がもがいていると、アッシュは肩凝りを解すように自分の肩に手を置くと、肩をコキコキと慣らす。
「あーー、そう言えば、昨日は一晩寝ずに警備して、今日も緊張を強いられて、俺の体力も随分と減っちまったなぁ。それに対しての労いのひとつもあって良いんじゃあないかなぁ。なぁ、カイリさん?。」
「か、回復薬飲めば良いじゃんか。」
「これから戦いで必要になる薬は節約しないとだな。唾液で負けといてやるぜ。」
「や、やだしっ。なに言ってんだよ。優君とティアちゃんの前だぞっ。」
「あのっ、僕ちょっと外迎えに行ってきますっ。」
「私は構わなくてよ。」
優君が外に出ようとして、ティアちゃんは通常運転…。ティアちゃん…。
「待て待て、すぐ済むから。ユウ、外に出るな。」
「すぐ済むってなんだ。絶対嫌だ。それに蒼士がやたらとキスしちゃダメだって言ってたしっ。」
「キスじゃねぇよ。治癒だ。ち、ゆ。ほら、外野に構うな。頭空っぽにして、俺の声だけ聞けよ。」
アッシュが俺の顎を捕まえて持ち上げられた。ダメだ、アッシュの奴、止めてくれそうにない。俺は思わず目と唇をぎゅっと閉じて身構えた。
アッシュの大きな体が更に密着して来て、こ、怖いっ。
顔に熱が集まると感じた瞬間、目尻に熱く濡れた感触があり、反対の目尻も熱いものでゆっくりと拭われた。その後もう一度繰り返され、目尻に少しだけ入ったそれが俺の目の粘膜を優しく擦っていく。
ーーーーえ?。
「わははっ、どうだ、悪口の罰だぜ。」
「なななな。」
「あん? 期待したか?。なんならその期待に答えても良いぜ?。」
「おおおおお断りだからっ。断固拒否するっ。」
「そこ、ちちくり合っている中、悪いのだけれど。ユージーンの怪我ならば私が治せますわよ。」
ティアちゃんは優雅に紅茶を飲み、優君は顔を真っ赤にしておろおろしていた。
ちちくり合うって…。お、俺のメンタルゲージが急激に下がって行くような気がする。
が! しかし、違うぞ俺。今はそんなことを気にしている場合ではないんだ。
「あ、ありがとう。ティアちゃんに治癒魔法をかけて貰うのが一番確実だね。」
「ええ。きっと体力、魔力共に切れかけていると思うの。回復薬もあれば準備して欲しい。」
「僕、やっぱり迎えに行ってきますね。」
「待て待てって。いっぺんにしゃべらないでくれ。てか、ユウは行くな。テントから出んな。もう一回縛るぞ。」
「でもっ。」
2回も止められたうえ、また縛ると言われて、さすがの優くんもちょっと涙目だ。ユージーンさんの怪我のことが心配なんだろうな。
怪我…。あの時暴走したユージーンさんを止めようとしたのは銀様だった。銀様も何かしらダメージを負っているかも知れない。俺にできる応急処置は…。思いを巡らすと冷静になれる自分がいる。
「優君、俺達が外にいてもなにもできないから、ここで受け入れの準備をしよう。治癒はティアちゃんの魔法の方が確実に治せるから安心して。それよりもユージーンさんを治療する場所を作るよ。アッシュ、俺の紐はあとで良いから、先にここに寝具運んで。三人とも水分補給必要だろうから、飲料水の他に洗面器とタオルなんかも用意して。回復薬とか足りているかも確認して」
「おう。分かった。」
アッシュはおもしろそうに俺を見ると、テントから出て行った。それを見送りながら、俺はティアちゃんに問いかける。
「ティアちゃん、治療に必要なものってなにかな?。浄化の魔法とかも使える?。あと、魔力回復とか体力回復とかも魔法でできるの?。」
「ふふふ、私は治療も浄化もお手のものよ。回復もできないことはないけれど、そこは薬の方が即効性と効率が高いのよ。」
「前に俺が魔力切れ起こした時は魔力を注いで貰ったんだ。体力も注げるの?」
「魔力回復は、相手に魔力を譲渡すれば良いのだけれど、例えばコップ一杯分の魔力をあげようと思うと、バケツ一杯分の魔力が必要だから、魔力消費が激しくて効率が悪いのよ。その点、薬はひとつ飲むとバケツ5杯分溜まる感じ。
まぁ、回復薬がないときは、体液治療も有効だから、血液や唾液、涙なんかに魔力を混ぜて薬の代用をする場合もあるわね。
体力の回復は、治癒魔法で代用できるけれど、やっぱり薬の方が即効性が高いわね。」
体液…。お、思い出すな、俺。今は思い出すときではない…。
テントの中央の支柱に縛られたまま、優君とティアちゃんと一緒に気を紛らわせようと話をしていると、アッシュがテントに入って来た。
「優君の時は、砂の宮のじーちゃんが仲立ちしてくれていたから使えたんだけどね。それからは試してないから、どうなんだろうな。」
俺が答えている間に、アッシュは優君の拘束を外してくれた。
「アッシュさん、ありがとうございます。」
優君は律儀にお礼を言う。本当に良い子だなぁ。
「ふ、縛ったのは俺だ。礼には及ばんさ。まぁ、さっきツヴァイルから知らせが入ってな。三人とも帰って来るからもう縛りつけとかなくても無茶はしないだろう?。ただユージーンの奴が意識がなくて火傷しているって言うからよ、回復薬飲めなかったらカイリに頼もうかと…。」
ーーーは?
「ぼぼぼぼぼくっ、あのっ、そのっ。ユージーンどこですかっ?」
優君が青い顔でアッシュの言葉を遮りながら詰め寄る。
「ああ、こっちに向かっているって言ってたから、じきに帰って来ると思うぜ。」
「ばっかアッシュ、そんな大事なこともっと先に言えよ。早く俺のも解いて。治癒試してみるからっ。」
「バカとはなんだ。ほら暴れるな、紐がキツくなるだろうが。」
後ろでごそごそ紐を解いてくれているんだろうけれど、ちっともほどけない。
「もーっ、アッシュのぶきっちょ。早く早く。」
「ぶきっちょって、おまえさん俺の扱い酷くないか?。まぁ、特別扱いされるのは悪くないがな。だが、もっと色っぽい誘い方をしてくれれば、俺ももっとやる気が出るってもんだな。」
「なに言ってんだよ。アッシュなんかこれで十分だし。てか、くっつき過ぎ。このセクハラ大王!。」
アッシュが俺の前に回り込んできて、にやにやと笑う。
ダメだ。完全に俺をからかうスイッチが入っている。
「ほれ、もう一回、早くって言ってみ。」
「言わないっ。馬鹿アッシュ。」
アッシュがクックッと笑う。そんなことしている場合じゃないだろう??。
俺がもがいていると、アッシュは肩凝りを解すように自分の肩に手を置くと、肩をコキコキと慣らす。
「あーー、そう言えば、昨日は一晩寝ずに警備して、今日も緊張を強いられて、俺の体力も随分と減っちまったなぁ。それに対しての労いのひとつもあって良いんじゃあないかなぁ。なぁ、カイリさん?。」
「か、回復薬飲めば良いじゃんか。」
「これから戦いで必要になる薬は節約しないとだな。唾液で負けといてやるぜ。」
「や、やだしっ。なに言ってんだよ。優君とティアちゃんの前だぞっ。」
「あのっ、僕ちょっと外迎えに行ってきますっ。」
「私は構わなくてよ。」
優君が外に出ようとして、ティアちゃんは通常運転…。ティアちゃん…。
「待て待て、すぐ済むから。ユウ、外に出るな。」
「すぐ済むってなんだ。絶対嫌だ。それに蒼士がやたらとキスしちゃダメだって言ってたしっ。」
「キスじゃねぇよ。治癒だ。ち、ゆ。ほら、外野に構うな。頭空っぽにして、俺の声だけ聞けよ。」
アッシュが俺の顎を捕まえて持ち上げられた。ダメだ、アッシュの奴、止めてくれそうにない。俺は思わず目と唇をぎゅっと閉じて身構えた。
アッシュの大きな体が更に密着して来て、こ、怖いっ。
顔に熱が集まると感じた瞬間、目尻に熱く濡れた感触があり、反対の目尻も熱いものでゆっくりと拭われた。その後もう一度繰り返され、目尻に少しだけ入ったそれが俺の目の粘膜を優しく擦っていく。
ーーーーえ?。
「わははっ、どうだ、悪口の罰だぜ。」
「なななな。」
「あん? 期待したか?。なんならその期待に答えても良いぜ?。」
「おおおおお断りだからっ。断固拒否するっ。」
「そこ、ちちくり合っている中、悪いのだけれど。ユージーンの怪我ならば私が治せますわよ。」
ティアちゃんは優雅に紅茶を飲み、優君は顔を真っ赤にしておろおろしていた。
ちちくり合うって…。お、俺のメンタルゲージが急激に下がって行くような気がする。
が! しかし、違うぞ俺。今はそんなことを気にしている場合ではないんだ。
「あ、ありがとう。ティアちゃんに治癒魔法をかけて貰うのが一番確実だね。」
「ええ。きっと体力、魔力共に切れかけていると思うの。回復薬もあれば準備して欲しい。」
「僕、やっぱり迎えに行ってきますね。」
「待て待てって。いっぺんにしゃべらないでくれ。てか、ユウは行くな。テントから出んな。もう一回縛るぞ。」
「でもっ。」
2回も止められたうえ、また縛ると言われて、さすがの優くんもちょっと涙目だ。ユージーンさんの怪我のことが心配なんだろうな。
怪我…。あの時暴走したユージーンさんを止めようとしたのは銀様だった。銀様も何かしらダメージを負っているかも知れない。俺にできる応急処置は…。思いを巡らすと冷静になれる自分がいる。
「優君、俺達が外にいてもなにもできないから、ここで受け入れの準備をしよう。治癒はティアちゃんの魔法の方が確実に治せるから安心して。それよりもユージーンさんを治療する場所を作るよ。アッシュ、俺の紐はあとで良いから、先にここに寝具運んで。三人とも水分補給必要だろうから、飲料水の他に洗面器とタオルなんかも用意して。回復薬とか足りているかも確認して」
「おう。分かった。」
アッシュはおもしろそうに俺を見ると、テントから出て行った。それを見送りながら、俺はティアちゃんに問いかける。
「ティアちゃん、治療に必要なものってなにかな?。浄化の魔法とかも使える?。あと、魔力回復とか体力回復とかも魔法でできるの?。」
「ふふふ、私は治療も浄化もお手のものよ。回復もできないことはないけれど、そこは薬の方が即効性と効率が高いのよ。」
「前に俺が魔力切れ起こした時は魔力を注いで貰ったんだ。体力も注げるの?」
「魔力回復は、相手に魔力を譲渡すれば良いのだけれど、例えばコップ一杯分の魔力をあげようと思うと、バケツ一杯分の魔力が必要だから、魔力消費が激しくて効率が悪いのよ。その点、薬はひとつ飲むとバケツ5杯分溜まる感じ。
まぁ、回復薬がないときは、体液治療も有効だから、血液や唾液、涙なんかに魔力を混ぜて薬の代用をする場合もあるわね。
体力の回復は、治癒魔法で代用できるけれど、やっぱり薬の方が即効性が高いわね。」
体液…。お、思い出すな、俺。今は思い出すときではない…。
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