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第二章 宝玉とわがままな神子
22 暁の宮様
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「……と、言うわけで、今、俺達は砂の宮の入り口に向かっているんだ。」
俺は南の国での、今までの経緯をティアちゃんにかいつまんで話した。
ティアちゃんは不思議な女の子だ。一見お遊戯会に登場するような服装をした仮装好きな小学三年生に見えるけれど、意思の強そうな赤い瞳とその言動から、見た目の年齢と反比例する落ち着きとオーラがある。
「なるほど、あなた達の事情は分かりましたわ。
ですが、それならば、あなた達は砂の宮のお爺様のところにいなくてはいけないのではないかしら?。こんな所にいたら、それこそユージーンと銀様とやらが心配するのではないかしら?。」
「それが、じーちゃんのところに翠子様って言う女神様が来るらしくって、じーちゃんが、地下水路の道を教えてくれたんだ。俺と銀様はその女神様とはちょっと因縁があるから、会わない方が良いだろうって。俺も、銀様と翠子様が鉢合わせしないようにしたいし、テドールの進行も、動き出す前に止めたいと思っていたから、丁度いいんだ。」
「そう言うことなのね。分かったわ。」
ティアちゃんは立ち止まると、優君の方に向き直って、静かに話し始めた。
「ユウ、まずは謝らせてください。召喚したあとの神子への干渉はしないのが原則です。ですがあなたに起こってしまったことに対して、アースに生きる者として、本当に申し訳なく思います。辛い想いをたくさんさせてしまいましたわね。」
「いえ、その、僕はユージーンに出会うことができたから。海里さんにも会えたし。あっちの世界にいても、絶望と悲しみしかなかったけれど、今はユージーンって言う、その…、生きる希望があるから。」
うつ向くティアちゃんに、優君はふわりと笑う。ティアちゃんはしばらくうつ向いていたけれど、優君の柔らかな雰囲気を感じ取ったのか、顔をあげて優君を見るとその顔に笑みを浮かべた。
「やっぱりティアちゃんは、どこかの宮様なんですか?。」
「そうです。察しが良いですね。私は、東の国にある暁の宮のティアラよ。」
優君は目を見開いて、驚いた様子ではあるけれど、召喚した女神に対して怒ったり怯えたりすることはなかった。
俺なら文句の一つや二つや五つくらい言ってしまうかもしれない。優君、君って奴は本当に優しい。
ティアちゃんもそれを感じたのか、もう一度優君に微笑みかけて、俺の方に向き合った。
「ふふふ、で?、災厄の神子はどうやってこの事態を収めようとしているのかしら?」
ティアちゃんが、挑発的な目で俺を見つめる。
「そ、それは、えっと…。」
「ここで聞いたことは、私のプライドにかけて他言しないし、阻止もしないわ。」
「ありがとう。
俺は、優君とテドールの番契約を解消させようと思う。契約がなければ、テドールもこれ以上堂々と優君に構う理由がなくなるだろう?。あとは、きっと優君とユージーンさんなら乗り越えていけるんじゃないかと思うし。」
「海里さん…。ありがとう。」
「カイリは番契約を解消できる力があるって言うことね。そんなことが知れたら、世界中がパニックよ。まさに災厄ね。」
「う……。
俺だって、みんなをへたに不安がらせたくないよ。でも、俺ができることで救われる人もいると分かったら、やっぱりがんばりたいんだ。」
「海里さん…。」
「せめて事態が動く前に止めたい。でも、優君とテドールを会わせないといけないから、君にはまた辛い思いさせちゃうけれど。」
この事は、翠子さんが来る前に、じーちゃんと優君と話していたことでもあったから、優君は握りこぶしを作って、決意を新たにしているようだった。
「ううん、海里さんの葛藤に比べたら、僕の気持ちなんて。その、僕もがんばりたいです。」
「優君…。お互いがんばろうな。」
「はいっ。」
「くっ、なんて尊いのあなた達。さすが、私が召喚した神子だわ。」
ティアちゃんが、納得している様子でうんうんとうなずいていた。
「そう言えば、召喚って依頼されてするんですよね?。ティアちゃんは、テドールに依頼されて優君を召喚したの?。」
「違うに決まってるじゃない。
そもそも、異世界から神子を召喚するって、大変なことなのよ。その人とその近しい人達の人生を大きく変えてしまうんだから。
依頼した番候補者の望みと相性を加味して、こちらの世界に来ても良いって思ってくれそうな人材にヒットするように、魔力を練り合わせるのよ。誰も彼も転移して順応するわけではないし。」
ご、ごもっとも……。
ティアちゃんのしゃべりが止まらない。そんなにムキになって言わなくても…。
「で、召喚した後は、番候補者がいかに神子を説得したり口説いたりするかは本人次第。そこはもう干渉しないのよ。でも、召喚直後に他の番候補者や住民と出会って、その相手と契約する事例がここ数100年増えてきているのよ。まぁ、高魔力と召喚スキルがあれば、別に五大神でなくても召喚できるから、召喚事例が増えた分、トラブルも増えたと見ていたのですけれど。
神子に逃げられたらまた別の神子を召喚すればいいから、ユージーンみたいに奪われた神子に執着する番候補者は珍しいのかも。あら、失礼…。」
「い、いえ。」
優君がうつ向いてしまった。
優君はユージーンさんが支えてくれるから良いとして、今の話。奪われた神子や転移されて不本意な神子の末路はどうなんだろう。みんな、優君のように辛い想いをしているんじゃないだろうか…。
「神子をもとの世界に戻す方法はないの?。」
「お願いされたことがないから分からないけれど、理論上は可能だと思うわ。けれど、実現できるかどうかは、召喚者の能力に大きく作用されるんじゃないかしら。
そもそも、さっきも言ったけれど、召喚って難しいのよ。とても魔力を使うし。あ…話が長くなってきたわね。
そんなことよりも、そろそろ急いだ方がよろしくてよ。」
ティアちゃんの言う通りだ。今は、契約を解除することに集中しよう。
俺はティアちゃんをおんぶして、優君にバックパックを背負ってもらい、走る準備を整えた。
俺は南の国での、今までの経緯をティアちゃんにかいつまんで話した。
ティアちゃんは不思議な女の子だ。一見お遊戯会に登場するような服装をした仮装好きな小学三年生に見えるけれど、意思の強そうな赤い瞳とその言動から、見た目の年齢と反比例する落ち着きとオーラがある。
「なるほど、あなた達の事情は分かりましたわ。
ですが、それならば、あなた達は砂の宮のお爺様のところにいなくてはいけないのではないかしら?。こんな所にいたら、それこそユージーンと銀様とやらが心配するのではないかしら?。」
「それが、じーちゃんのところに翠子様って言う女神様が来るらしくって、じーちゃんが、地下水路の道を教えてくれたんだ。俺と銀様はその女神様とはちょっと因縁があるから、会わない方が良いだろうって。俺も、銀様と翠子様が鉢合わせしないようにしたいし、テドールの進行も、動き出す前に止めたいと思っていたから、丁度いいんだ。」
「そう言うことなのね。分かったわ。」
ティアちゃんは立ち止まると、優君の方に向き直って、静かに話し始めた。
「ユウ、まずは謝らせてください。召喚したあとの神子への干渉はしないのが原則です。ですがあなたに起こってしまったことに対して、アースに生きる者として、本当に申し訳なく思います。辛い想いをたくさんさせてしまいましたわね。」
「いえ、その、僕はユージーンに出会うことができたから。海里さんにも会えたし。あっちの世界にいても、絶望と悲しみしかなかったけれど、今はユージーンって言う、その…、生きる希望があるから。」
うつ向くティアちゃんに、優君はふわりと笑う。ティアちゃんはしばらくうつ向いていたけれど、優君の柔らかな雰囲気を感じ取ったのか、顔をあげて優君を見るとその顔に笑みを浮かべた。
「やっぱりティアちゃんは、どこかの宮様なんですか?。」
「そうです。察しが良いですね。私は、東の国にある暁の宮のティアラよ。」
優君は目を見開いて、驚いた様子ではあるけれど、召喚した女神に対して怒ったり怯えたりすることはなかった。
俺なら文句の一つや二つや五つくらい言ってしまうかもしれない。優君、君って奴は本当に優しい。
ティアちゃんもそれを感じたのか、もう一度優君に微笑みかけて、俺の方に向き合った。
「ふふふ、で?、災厄の神子はどうやってこの事態を収めようとしているのかしら?」
ティアちゃんが、挑発的な目で俺を見つめる。
「そ、それは、えっと…。」
「ここで聞いたことは、私のプライドにかけて他言しないし、阻止もしないわ。」
「ありがとう。
俺は、優君とテドールの番契約を解消させようと思う。契約がなければ、テドールもこれ以上堂々と優君に構う理由がなくなるだろう?。あとは、きっと優君とユージーンさんなら乗り越えていけるんじゃないかと思うし。」
「海里さん…。ありがとう。」
「カイリは番契約を解消できる力があるって言うことね。そんなことが知れたら、世界中がパニックよ。まさに災厄ね。」
「う……。
俺だって、みんなをへたに不安がらせたくないよ。でも、俺ができることで救われる人もいると分かったら、やっぱりがんばりたいんだ。」
「海里さん…。」
「せめて事態が動く前に止めたい。でも、優君とテドールを会わせないといけないから、君にはまた辛い思いさせちゃうけれど。」
この事は、翠子さんが来る前に、じーちゃんと優君と話していたことでもあったから、優君は握りこぶしを作って、決意を新たにしているようだった。
「ううん、海里さんの葛藤に比べたら、僕の気持ちなんて。その、僕もがんばりたいです。」
「優君…。お互いがんばろうな。」
「はいっ。」
「くっ、なんて尊いのあなた達。さすが、私が召喚した神子だわ。」
ティアちゃんが、納得している様子でうんうんとうなずいていた。
「そう言えば、召喚って依頼されてするんですよね?。ティアちゃんは、テドールに依頼されて優君を召喚したの?。」
「違うに決まってるじゃない。
そもそも、異世界から神子を召喚するって、大変なことなのよ。その人とその近しい人達の人生を大きく変えてしまうんだから。
依頼した番候補者の望みと相性を加味して、こちらの世界に来ても良いって思ってくれそうな人材にヒットするように、魔力を練り合わせるのよ。誰も彼も転移して順応するわけではないし。」
ご、ごもっとも……。
ティアちゃんのしゃべりが止まらない。そんなにムキになって言わなくても…。
「で、召喚した後は、番候補者がいかに神子を説得したり口説いたりするかは本人次第。そこはもう干渉しないのよ。でも、召喚直後に他の番候補者や住民と出会って、その相手と契約する事例がここ数100年増えてきているのよ。まぁ、高魔力と召喚スキルがあれば、別に五大神でなくても召喚できるから、召喚事例が増えた分、トラブルも増えたと見ていたのですけれど。
神子に逃げられたらまた別の神子を召喚すればいいから、ユージーンみたいに奪われた神子に執着する番候補者は珍しいのかも。あら、失礼…。」
「い、いえ。」
優君がうつ向いてしまった。
優君はユージーンさんが支えてくれるから良いとして、今の話。奪われた神子や転移されて不本意な神子の末路はどうなんだろう。みんな、優君のように辛い想いをしているんじゃないだろうか…。
「神子をもとの世界に戻す方法はないの?。」
「お願いされたことがないから分からないけれど、理論上は可能だと思うわ。けれど、実現できるかどうかは、召喚者の能力に大きく作用されるんじゃないかしら。
そもそも、さっきも言ったけれど、召喚って難しいのよ。とても魔力を使うし。あ…話が長くなってきたわね。
そんなことよりも、そろそろ急いだ方がよろしくてよ。」
ティアちゃんの言う通りだ。今は、契約を解除することに集中しよう。
俺はティアちゃんをおんぶして、優君にバックパックを背負ってもらい、走る準備を整えた。
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