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第69話 伊勢志摩の休日 ③
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その後も商店を巡り、買い物を済ませる一方で日差しはどんどん強くなっていく。
「うわぁ、強烈ですね。
少し休んで行きませんか?」
無理をして熱中症にでもなったら大変だ。
ちょうど茶屋があったので一休みしようとすると、見覚えのある菓子が目に止まる。
「赤福!…ここにも…」
元の世界でも存在した伊勢の名物。
これは食べておかなくては。
そう思い人を呼ぼうとした所で、お江さんが提案を持ち掛ける。
「若旦那さん、今なら夏限定の赤福氷が食べられますよ」
「マジっすか、俺食べた事ないんですよ」
そう、伊勢名物の赤福と抹茶蜜を使った絶品かき氷。何の因果かこれまで口にする機会に恵まれなかったが、まさか異世界に来て食べられるとは!
「すいません、かき氷2つください」
店員に注文すると在庫の関係で、1つしか用意できないと言われてしまう。
「それなら若旦那さんが食べてください。アタシはいつでも大丈夫なので」
「いや、折角なんで一緒に食べましょう。
これだけ暑いから絶対美味しいですよ」
よかれと思っての提案だったのだが、お江さんは出されたお茶をひっくり返す勢いで立ち上がり、店中の注目を一身に浴びてしまう。
「あの……落ち着いて…」
駒送り映像みたいな動きで着席すると同時に、にこやかな笑顔の店員がかき氷が運んでくる。
とりあえず一口食べてみるが抹茶蜜とかき氷の相性が抜群で、冷たい氷が喉を通ると生き返る気分だ。
しかし、お江さんはスプーンを持ったまま、頭から蒸気を上げて固まってしまった。
…かき氷を前にここまで緊張する人は初めて見るかもしれん。
「…あまり無理をしない方が良いかと…」
それでも意を決した感じでスプーンを差し入れ、驚く程ゆっくりとした動きで一口した所で限界を迎えたのだろう。
そのまま電池が切れるようにバタンと倒れてしまった。
「おいおい、えらいこっちゃでぇ……」
――――――――――
「……………ここは…?……」
「良かった…あれから全然目を覚まさないので心配しましたよ」
ここは五十鈴川沿いの河川敷へ続く道。
あれからお江さんを抱えて店を出ると、そのままバギーに乗せて宿へ戻る途中だ。
「やだ…アタシったら、こんな時間まで?」
未知の乗り物よりも気を失っていた事を気にする様子で、立つ瀬もないといった感じでしきりに謝るお江さん。
「いや、半分は俺のせいですから…」
どうも謝られてばかりでは調子が出ない。
ふと川に視線を移すと午後の光を浴びた水面が目映く輝き、水遊びをする子供達の笑顔を更に明るく照らしていた。
「お江さん、しっかり掴まって!」
「え?……えぇ!?」
一気にアクセルを吹かせると河川敷の坂を下り、河原へと突っ込んでいく。
「ちょっと!若旦那さん!?」
この辺りは足首ほどの水深しかないので水没する心配は無用。
まさにアウトドアを楽しむ為に生まれたバギーは、その能力を遺憾なく発揮して滑りやすい砂利を難なく踏破してみせた。
巻き上げる水飛沫が火照った体に涼を与え、次第に背中越しに伝わっていたお江さんの緊張も、清流が運ぶ風と共に洗い流して行く。
思いもよらない宝船に遭遇したように、満面の笑みでバギーを追う子供達。
羽を休めていた水鳥は突然現れた見知らぬ来訪者に驚き、一斉に飛び立つと並走する形となり、あたかも水辺を滑空するかのような錯覚を味わう。
「…まるで空を…飛んでいるようです…」
2人の時間は現れては消え行く景色のように、午後の日だまりに溶けて消えていく…。
叶う事なら……ずっと、このままで…。
――――――――――
「遅いぞ、どこへ行っておったんじゃ!?」
「いや…まぁ、買い物っす…」
夕方に宿へ戻ると初音お嬢様が仁王立ちで出迎えて下さったようで、まさに怒り心頭といった具合だ。
「買い物ぉ~?ほんとかのぅ~?
あしなよ……ワシも鬼ではない。
素直に吐けば許してやらんでもないぞ?」
絶対ウソだ……。てゆうか鬼だ。
あの目は納得するまで拷問してでも聞き出す構え…だとすれば!
一目散に部屋を飛び出そうとするが襖にすら到達できず、必殺のロメロ・スペシャルを極められる。
「さぁ、言え!言わんとどうなるのか…たっぷりと分からせてやるわ!」
1日の締めくくりを悲鳴と言い訳で満たし、森田屋の平和な夜は更けていく。
「うわぁ、強烈ですね。
少し休んで行きませんか?」
無理をして熱中症にでもなったら大変だ。
ちょうど茶屋があったので一休みしようとすると、見覚えのある菓子が目に止まる。
「赤福!…ここにも…」
元の世界でも存在した伊勢の名物。
これは食べておかなくては。
そう思い人を呼ぼうとした所で、お江さんが提案を持ち掛ける。
「若旦那さん、今なら夏限定の赤福氷が食べられますよ」
「マジっすか、俺食べた事ないんですよ」
そう、伊勢名物の赤福と抹茶蜜を使った絶品かき氷。何の因果かこれまで口にする機会に恵まれなかったが、まさか異世界に来て食べられるとは!
「すいません、かき氷2つください」
店員に注文すると在庫の関係で、1つしか用意できないと言われてしまう。
「それなら若旦那さんが食べてください。アタシはいつでも大丈夫なので」
「いや、折角なんで一緒に食べましょう。
これだけ暑いから絶対美味しいですよ」
よかれと思っての提案だったのだが、お江さんは出されたお茶をひっくり返す勢いで立ち上がり、店中の注目を一身に浴びてしまう。
「あの……落ち着いて…」
駒送り映像みたいな動きで着席すると同時に、にこやかな笑顔の店員がかき氷が運んでくる。
とりあえず一口食べてみるが抹茶蜜とかき氷の相性が抜群で、冷たい氷が喉を通ると生き返る気分だ。
しかし、お江さんはスプーンを持ったまま、頭から蒸気を上げて固まってしまった。
…かき氷を前にここまで緊張する人は初めて見るかもしれん。
「…あまり無理をしない方が良いかと…」
それでも意を決した感じでスプーンを差し入れ、驚く程ゆっくりとした動きで一口した所で限界を迎えたのだろう。
そのまま電池が切れるようにバタンと倒れてしまった。
「おいおい、えらいこっちゃでぇ……」
――――――――――
「……………ここは…?……」
「良かった…あれから全然目を覚まさないので心配しましたよ」
ここは五十鈴川沿いの河川敷へ続く道。
あれからお江さんを抱えて店を出ると、そのままバギーに乗せて宿へ戻る途中だ。
「やだ…アタシったら、こんな時間まで?」
未知の乗り物よりも気を失っていた事を気にする様子で、立つ瀬もないといった感じでしきりに謝るお江さん。
「いや、半分は俺のせいですから…」
どうも謝られてばかりでは調子が出ない。
ふと川に視線を移すと午後の光を浴びた水面が目映く輝き、水遊びをする子供達の笑顔を更に明るく照らしていた。
「お江さん、しっかり掴まって!」
「え?……えぇ!?」
一気にアクセルを吹かせると河川敷の坂を下り、河原へと突っ込んでいく。
「ちょっと!若旦那さん!?」
この辺りは足首ほどの水深しかないので水没する心配は無用。
まさにアウトドアを楽しむ為に生まれたバギーは、その能力を遺憾なく発揮して滑りやすい砂利を難なく踏破してみせた。
巻き上げる水飛沫が火照った体に涼を与え、次第に背中越しに伝わっていたお江さんの緊張も、清流が運ぶ風と共に洗い流して行く。
思いもよらない宝船に遭遇したように、満面の笑みでバギーを追う子供達。
羽を休めていた水鳥は突然現れた見知らぬ来訪者に驚き、一斉に飛び立つと並走する形となり、あたかも水辺を滑空するかのような錯覚を味わう。
「…まるで空を…飛んでいるようです…」
2人の時間は現れては消え行く景色のように、午後の日だまりに溶けて消えていく…。
叶う事なら……ずっと、このままで…。
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「遅いぞ、どこへ行っておったんじゃ!?」
「いや…まぁ、買い物っす…」
夕方に宿へ戻ると初音お嬢様が仁王立ちで出迎えて下さったようで、まさに怒り心頭といった具合だ。
「買い物ぉ~?ほんとかのぅ~?
あしなよ……ワシも鬼ではない。
素直に吐けば許してやらんでもないぞ?」
絶対ウソだ……。てゆうか鬼だ。
あの目は納得するまで拷問してでも聞き出す構え…だとすれば!
一目散に部屋を飛び出そうとするが襖にすら到達できず、必殺のロメロ・スペシャルを極められる。
「さぁ、言え!言わんとどうなるのか…たっぷりと分からせてやるわ!」
1日の締めくくりを悲鳴と言い訳で満たし、森田屋の平和な夜は更けていく。
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