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第54話 最強の調味料

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「これ以上なにをするんじゃ?
 今でも十分旨いというに」

 そう、確かに不満はない。
 だがしかし、この味を知ってしまえば底無し沼に足を取られるが如く、その魅力から抜け出すのは困難を極めるだろう。

 俺は用意していた竹皿を初音の前に置き、そこにある調味料を静かに勧めた。

「これは見た事のない…卵黄?」

 怖さ半分、興味半分といった初音は勧められるままに、トンカツを未知の調味料に潜らせて口に運ぶ。

「……これは!?」

 想像すらしなかったであろう衝撃が、味覚を通じて脳へと伝わっていく様子が明確に見て取れる。

「……完全にちぃとじゃろ。
 挙げ句にこんな畏れ多い物まで考案して、食材に対する敬意とかないんか?」

 だから俺じゃないって。
 てか、こいつも俺と喋る内にかなり毒されてきたな。

 初音が食事の感想とかけ離れた奇妙な抗議をするのも無理はない、先程の調味料はご存知マヨネーズ。
 アレンジによっては素材の味を上書きしてしまう程の可能性を秘めた食卓のお供だ。

 岩塩、猪の脂身を溶かした油、カドデバナから作った酢、そしてミズサシシギの卵を合わせた素材から誕生した。
 こだわりのポイントは卵黄のみを使い、残った白身は湯煎で固めた後に砕いて歯応えを変化させた所だろうか。
 空の缶詰を残しておいて正解だったわ。

「まよねーず、醤油とも味噌とも違う…。
 なんとも不思議な舌触りと味じゃがこれは癖になるのう~」

 子供はマヨネーズが大好き。
 いや、俺も好きだけど。
 思った通りトンカツとの相性も抜群で、適度な塩気と酸味が食欲を刺激して様々な食べ物とマッチするだろう。
 聞いた話だと刺身にも合うそうだが、機会があれば試してみようかな。

 マヨネーズの投入によって、ますますトンカツの消費は加速していき、相当な量を用意していたのにマジに足りるか心配しなければならない程だった。

「この滑らかな口当たり、いくらでも食べれそうじゃ~♪」

 すいません、本日はもうカンバンです。

 ――――――――――
 今日までのAwazonポイント収支

 ログインボーナス5日分――1500P
 初めての燻製――1000P
 初めての干し肉作成――1000P
 多目的ポリタンク2個購入――(-2000P)
 メープルシロップを作成――1500P
 サイダーを作成――500P
 蝋燭を作成――500P
 石鹸を作成――500P
 ヒヨコムギを採取――300P
 豆フレークを作成――500P
 ???購入――(-1500P)

 手元の6800Pと合わせると合計9100ポイント。
 こうして見るとAwazonの買い物で消費されるポイントは本当に馬鹿にならない。
 どうにかして商売を軌道に乗せないとジリ貧は目に見えている。

「明日、晴れてくれるかな」

 思わず不安が口に出てしまったが、初音は聞き漏らさずにハッキリとした口調で答えた。

「うむ、明日は終日快晴じゃ」

 …なんで言い切れるんだよ。
 まぁ、そんな事は誰にも分からないし、今から心配してもしょうがない。
 鬼属サマがこう言ってるんだ、明日って奴を信じて頑張ってみようか。

 そんなガラにもない事を考えながら、不安と期待に満ちた異世界での商売が始まろうとしていた。
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