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宰相は今日も世話焼き 1
しおりを挟む「ウィリュアートンは、大変な騒ぎになったらしいね」
「らしいね」
彼は、ジークが、ユージーンの「後押し」をしたことに気づいている。
ジークも、彼が気づいていると、悟っている。
が、軽く肩をすくめただけで、ちっとも悪びれたところがない。
実際には「後押し」というより「突き飛ばした」くらいの勢いだったのだろう。
ユージーンは、ウィリュアートン公爵家で、ひと悶着、起こしていた。
「たいていは、彼が行く先々で、騒ぎが起きるのだよ」
王宮での議会も、紛糾することが多くなっていると聞く。
なにしろ、ユージーンは、諦めることを知らない。
人の話は聞かないし、やると決めたら、絶対に譲らないのだ。
妥協だの、譲歩だのといった「手ぬるい」考えが、ユージーンにはない。
おまけに、間が抜けているのだから、騒ぎが起きて当然、と言える。
「厄介事を引き寄せる体質でもあるのでね。彼自身が厄介の元なのさ」
「でも、めずらしーよな。父上が、世話を焼くなんてサ」
「彼のためではないよ」
「だろーね」
彼の妻のためでもあるが、なにより、ユージーンが、かつて右腕だった少年の従兄弟だからだった。
その少年に、彼は、ユージーンのことについて「善処する」と言っている。
だから「善処」しているのだ。
不意に、ジークが、彼に意味有りげな視線を投げてきた。
2人は、小ホールで話している。
ソファに向き合って座っていた。
「そーいえば、ルノーヴァが監獄から消えたって、聞いたけど?」
「そのようだね」
ジークの、もの言いたげな視線に、彼は、やわらかく微笑んでみせる。
ジークだって察しているはずなので、説明する必要はないだろう。
レオナルド・ルノーヴァは、彼が「始末」した。
最近は、滅多に、こういうことはしない。
さりとて、必要があれば、する。
(ウィリュアートンの地下になど、行くものではない)
ウィリュアートンの地下には、トラヴィスの兄レイモンドを「蟄居」させている。
彼が、地下の土壁に、めり込ませたのだ。
彼の妻を害することをした、という理由で。
とはいえ、レイモンドは、今も生きている。
知っているのは、彼のほかにはトラヴィスだけだった。
放っておけば餓死するのに、わざわざ食事を運んでやっているらしい。
(トラヴィスは、好人物だからね。少し善人過ぎる気もするが)
そのレイモンドを、ルノーヴァは、見たようだ。
兄の様子がおかしいと、トラヴィスから連絡が入ったのは、まさにルーナが姿を消す前日のこと。
状況を聞いた彼は、少し前に訪ねて来たという、ルノーヴァを怪しいと思った。
そして「始末」するかどうか、考え中だったのだ。
レイモンドの存在を公にされては迷惑なので。
レイモンドは、どこかの辺境地に蟄居している。
そのように伝わっているし、これからも、そうでなければならない。
妻には、たいていのことは話しているが、話していないこともあった。
たとえば、ユージーンの与える者の力のこととか、レイモンドのこととか。
話さないと決めたのであれば、死ぬまで隠し通す必要がある。
少なくとも、彼は「墓場まで持っていく」つもりでいた。
だから、ルノーヴァの口は「迷惑」だったのだ。
彼が、考えていたのは、ルーナがルノーヴァとのつきあいをやめるまで待つかどうか。
ルーナは、ルノーヴァを選ばない。
そんなことは、わかりきっていたので。
(早目に彼がカタをつけてくれて、私もやり易くなった。お互いさまというところかな)
彼が小さく笑ったせいだろう、ジークが首をかしげている。
右腕であった少年とは違い、息子は、彼の「禄でもなさ」を知らない。
薄々は気づいているだろうが、それはともかく。
「いいのじゃないかな、それで。ルノーヴァがいなくても、誰も困りやしないさ」
「奴の兄も、病気が治ったらしいしね」
「そのようだね」
それも、レオナルド・ルノーヴァの仕業だったのだろう。
王宮に属さず魔力分配を受け続け、かつ、家督を継がずにすむよう、兄の病状を制御していたに違いない。
「でもサ、ルーナが、あいつの好みだったのはともかく、婚姻したがってた理由ってのが、わかんねえ」
「ルノーヴァは道楽者だったのだよ、ジーク」
「道楽者?」
「ルーナと婚姻すれば、彼は公爵家の一員。働かずして、一生、生活していける。ひたすら趣味に没頭する時間が持てることは、さぞ魅力的だっただろうね。だから、婚姻したあとでルーナを殺すほうが、ルノーヴァにとっては、本当は都合が良かったのさ」
「なんだよ、金目当てじゃねーか。つまんねー理由だなあ」
ジークの、本気で呆れているといった様子に、彼は、くすくすと笑った。
彼の息子は、意外とロマンチストに育っているようだ。
「ま、いいや。いなくなっちまった奴のことなんか、どーでもいい。それよりさ、父上、もう教えてくれてもいいだろ?」
ジークの目が、きらきらと輝いている。
これには、彼も弱かった。
なにしろ、彼の妻に、そっくりなのだから。
「ああ、わかったよ。種明かしをしてあげよう」
「やった!」
嬉しそうにするジークに、彼も、にっこりする。
「ルーナをどう思っているか、私が聞いた時に、ユージーンがどう答えたか、きみは覚えているかい?」
「えーと、ルーナのことは、大事に思ってて可愛いとも思ってるけど、女としては見ていない?」
「少し違うね。物事は、正確に把握しておかなければいけないよ」
ジークは、きょとんとした顔をしていた。
そのジークに、彼は、ユージーンの言葉を正確に伝える。
「あれのことは、大事に思っている、可愛いとも思うが、女としては見ておらん、と、彼は言った」
「え~、だいたい一緒だろー?」
「だいたいはね。さぁ、間違い探しをしてごらん」
ん~と、顔をしかめつつ、ジークが考えこんでいた。
しばしの間のあと、ハッとした様子で、彼に視線を向ける。
どうやら、気づいたようだ。
「そうか! ジーン、ルーナのこと“あれ”って言った! そうだ、あン時からだ! ジーンは、よくルーナのこと、“あれ”とか“これ”とか言うようになった!」
「その通りさ、ジーク。彼はね、無意識に、ルーナを、“自分のものだ”と誇示していたのだよ」
「へーえ!! なるほどなあ! ジーン、分かり易過ぎだろ!」
「彼は、昔から分かり易い男だったね」
ジークが、声を上げて笑っている。
ルノーヴァの話とは違い、面白かったらしい。
「でも、自分じゃ気づいてねーんだろ?」
彼は、軽く肩をすくめてみせた。
ユージーンとは、そういう男なのだ。
彼の心情を、ジークが代弁する。
「頭いいのに、ジーンって、やっぱり間が抜けてるぜ」
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