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単純明快 1
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ジークに言われたことは、いったん棚上げ。
考えても、よくわからなかったからだ。
(どう考えたって、1本道だもん)
好き、という気持ちだけでは、変えられないこともある。
ユージーンが、男子を望んでいるのは事実だし。
ルーナが、期待に添えない可能性が高いのも事実だし。
そもそも、ユージーンには子供扱いされているし。
求婚だって断られたし。
受け入れてもらえるとも思えないし。
ルーナの頭には、数々の「できない案件」が浮かんでいる。
そして「しかたがない」と思っていた。
変えられないものは、変えられないのだ。
あがきたくても、あがくことすらできない。
やれることがあれば、ルーナだって前向きになれただろう。
やれることがないから、諦めるほうに舵を切ったのだ。
「なにか、心配事?」
ルーナは、瞬きをして「現実」に戻ってくる。
レオナルドが、ルーナに穏やかな視線をおくっていた。
なんとなく後ろめたい気持ちになる。
ユージーンに心を残したまま、レオナルドと会い続けるのがいいことなのか。
ジークのせいで、迷いが生じ始めていた。
「心配ってほどじゃないの。ただ……」
「僕と、これ以上、親しくなるのは困る?」
「あ~……うん……困るっていうか……」
レオナルドは、ルーナの正直な返事にも、嫌な顔を見せない。
怒る様子もなかった。
落ち着いた雰囲気に、いささかの乱れも感じられない。
今日は、ルノーヴァの屋敷に来ている。
こぢんまりとしてはいたが、貧相といった印象はなかった。
どこも手入れが行き届いていて、長年、大事に使われてきたのが、わかる。
住み心地も良さそうだ。
将来、ここに住むことになるのかもしれない、と思いながら、ルーナは、屋敷を見ていた。
ウィリュアートンの屋敷は広いものの、使うのは、ごく少数の部屋だけだ。
広ければいい、というものでもない。
生まれた時から住んでいるため、気に入っていないわけでもないが、自分のものというふうにも感じられずにいる。
もとより、両親の家であり、「ウィリュアートン公爵家」のものだ。
自分で、あれこれと手を加えていくことで「自分の家」だと感じられるものなのかもしれない。
ローエルハイドの屋敷は、まさに、そんなふうだった。
あそこは大公が造り、レティシアが手を加えている。
ローエルハイドの屋敷というより「ローエルハイド家」なのだ。
不意に、レオナルドが、くすっと笑う。
にこやかな表情に、きょとんとなった。
「僕としちゃあ、きみが婚姻を意識してくれるのは、嬉しいのだけれどもね」
「あ……えっと……レニーは、違うの?」
「違わない」
ふわっと、頬が熱くなる。
レオナルドは、言葉を飾らず、正直なのだ。
にもかかわらず、強引なことはして来ない。
レオナルドから「婚姻」の言葉が出たのも、これが初めてだった。
「それって、やっぱり爵位を気にしてる?」
「それも違うね」
客間ではなく、2人は居間と呼ばれる部屋にいる。
長ソファがL字型に置かれており、斜め向かいに座っている状態だ。
正面でもなく、真横でもなく。
まじまじと見られている感覚がないため、気楽でいられる。
レオナルドの目を、まっすぐに見つめ返さなくてすむことにも助かっていた。
自分の屋敷で会うのとは違い、気後れしてしまうからだ。
婚姻を意識する男性の家に来るのも初めてなので。
「僕は、きみがウィリュアートン公爵令嬢でなくても、惹かれていたよ。たとえば、市場で花売りをしていたとしてもね」
レオナルドの言葉は、素直に嬉しい。
情けない話ではあるが、爵位目当てに近づいてくる男性しか、ルーナの周りにはいなかった。
「私個人に、そう言ってもらえるものがあるなんて思えないわ」
ジークやトマスは、ルーナを「可愛い」と言ってくれる。
だが、それは、父がルーナを「可愛い」というのと、さして変わらないのだ。
身近にいる者に対する欲目であって、客観的な意見ではない。
相手がユージーンなら、主観でいいのだけれども。
いや、むしろ、主観でなければ。
またぞろ意識が、ユージーンに戻りかけている。
気づいて、無理に引き戻した。
「私から爵位を取ったら、なにも残らないんじゃないかって思うほど、爵位目当ての人ばかりだったのよね」
「人には誰でも好みというものがあるだろう? たまたま、巡りあわせが悪かったということじゃないかな」
レオナルドは、人を悪くも言わない。
本当に「いい人」なのだと、ルーナの中の好感度が上がる。
恋はしていなくても、婚姻するための「条件」は満たしていると言えた。
少なくとも、ルーナは、レオナルドを気に入ってはいるのだから。
「率直に言って、きみは、僕の好みだ」
ぶわっと、今度は、耳まで熱くなる。
こうした言葉は、言われ慣れていない。
とかく、ルーナの周りの男性は「無礼者」が多いのだ。
大公以外は。
「最初は、見た目に惹かれたのだけれど」
レオナルドが、少し気恥ずかしそうに笑う。
外見だって、その人の個性のひとつだ、とはユージーンの受け売り。
だが、ルーナも同感だった。
どうしたって、見た目に受け入れ難い相手も、いる。
「でもね、こうして話していて、ますます惹かれるようになった。きみは、貴族の令嬢らしくはないかもしれない。素直だし、正直だし、駆け引きをしないからね。僕は、そういうところが、とても好ましいと感じるし……」
レオナルドが、いったん言葉を止めた。
少しうつむいて、彼自身の指先を見つめている。
気づくと、レオナルドの耳の端が、ほんのわずか赤くなっていた。
「可愛いと、思っている」
かぁっと頬から耳、首元まで熱くなる。
きっと真っ赤になっているに違いない。
(レニー……率直過ぎ……私のほうが照れちゃうじゃない……)
慣れない「口説かれ」状態に、ルーナは心の中で、あたふたしていた。
そのせいで、ジークの「忠告」が頭から飛んでいる。
考えても、よくわからなかったからだ。
(どう考えたって、1本道だもん)
好き、という気持ちだけでは、変えられないこともある。
ユージーンが、男子を望んでいるのは事実だし。
ルーナが、期待に添えない可能性が高いのも事実だし。
そもそも、ユージーンには子供扱いされているし。
求婚だって断られたし。
受け入れてもらえるとも思えないし。
ルーナの頭には、数々の「できない案件」が浮かんでいる。
そして「しかたがない」と思っていた。
変えられないものは、変えられないのだ。
あがきたくても、あがくことすらできない。
やれることがあれば、ルーナだって前向きになれただろう。
やれることがないから、諦めるほうに舵を切ったのだ。
「なにか、心配事?」
ルーナは、瞬きをして「現実」に戻ってくる。
レオナルドが、ルーナに穏やかな視線をおくっていた。
なんとなく後ろめたい気持ちになる。
ユージーンに心を残したまま、レオナルドと会い続けるのがいいことなのか。
ジークのせいで、迷いが生じ始めていた。
「心配ってほどじゃないの。ただ……」
「僕と、これ以上、親しくなるのは困る?」
「あ~……うん……困るっていうか……」
レオナルドは、ルーナの正直な返事にも、嫌な顔を見せない。
怒る様子もなかった。
落ち着いた雰囲気に、いささかの乱れも感じられない。
今日は、ルノーヴァの屋敷に来ている。
こぢんまりとしてはいたが、貧相といった印象はなかった。
どこも手入れが行き届いていて、長年、大事に使われてきたのが、わかる。
住み心地も良さそうだ。
将来、ここに住むことになるのかもしれない、と思いながら、ルーナは、屋敷を見ていた。
ウィリュアートンの屋敷は広いものの、使うのは、ごく少数の部屋だけだ。
広ければいい、というものでもない。
生まれた時から住んでいるため、気に入っていないわけでもないが、自分のものというふうにも感じられずにいる。
もとより、両親の家であり、「ウィリュアートン公爵家」のものだ。
自分で、あれこれと手を加えていくことで「自分の家」だと感じられるものなのかもしれない。
ローエルハイドの屋敷は、まさに、そんなふうだった。
あそこは大公が造り、レティシアが手を加えている。
ローエルハイドの屋敷というより「ローエルハイド家」なのだ。
不意に、レオナルドが、くすっと笑う。
にこやかな表情に、きょとんとなった。
「僕としちゃあ、きみが婚姻を意識してくれるのは、嬉しいのだけれどもね」
「あ……えっと……レニーは、違うの?」
「違わない」
ふわっと、頬が熱くなる。
レオナルドは、言葉を飾らず、正直なのだ。
にもかかわらず、強引なことはして来ない。
レオナルドから「婚姻」の言葉が出たのも、これが初めてだった。
「それって、やっぱり爵位を気にしてる?」
「それも違うね」
客間ではなく、2人は居間と呼ばれる部屋にいる。
長ソファがL字型に置かれており、斜め向かいに座っている状態だ。
正面でもなく、真横でもなく。
まじまじと見られている感覚がないため、気楽でいられる。
レオナルドの目を、まっすぐに見つめ返さなくてすむことにも助かっていた。
自分の屋敷で会うのとは違い、気後れしてしまうからだ。
婚姻を意識する男性の家に来るのも初めてなので。
「僕は、きみがウィリュアートン公爵令嬢でなくても、惹かれていたよ。たとえば、市場で花売りをしていたとしてもね」
レオナルドの言葉は、素直に嬉しい。
情けない話ではあるが、爵位目当てに近づいてくる男性しか、ルーナの周りにはいなかった。
「私個人に、そう言ってもらえるものがあるなんて思えないわ」
ジークやトマスは、ルーナを「可愛い」と言ってくれる。
だが、それは、父がルーナを「可愛い」というのと、さして変わらないのだ。
身近にいる者に対する欲目であって、客観的な意見ではない。
相手がユージーンなら、主観でいいのだけれども。
いや、むしろ、主観でなければ。
またぞろ意識が、ユージーンに戻りかけている。
気づいて、無理に引き戻した。
「私から爵位を取ったら、なにも残らないんじゃないかって思うほど、爵位目当ての人ばかりだったのよね」
「人には誰でも好みというものがあるだろう? たまたま、巡りあわせが悪かったということじゃないかな」
レオナルドは、人を悪くも言わない。
本当に「いい人」なのだと、ルーナの中の好感度が上がる。
恋はしていなくても、婚姻するための「条件」は満たしていると言えた。
少なくとも、ルーナは、レオナルドを気に入ってはいるのだから。
「率直に言って、きみは、僕の好みだ」
ぶわっと、今度は、耳まで熱くなる。
こうした言葉は、言われ慣れていない。
とかく、ルーナの周りの男性は「無礼者」が多いのだ。
大公以外は。
「最初は、見た目に惹かれたのだけれど」
レオナルドが、少し気恥ずかしそうに笑う。
外見だって、その人の個性のひとつだ、とはユージーンの受け売り。
だが、ルーナも同感だった。
どうしたって、見た目に受け入れ難い相手も、いる。
「でもね、こうして話していて、ますます惹かれるようになった。きみは、貴族の令嬢らしくはないかもしれない。素直だし、正直だし、駆け引きをしないからね。僕は、そういうところが、とても好ましいと感じるし……」
レオナルドが、いったん言葉を止めた。
少しうつむいて、彼自身の指先を見つめている。
気づくと、レオナルドの耳の端が、ほんのわずか赤くなっていた。
「可愛いと、思っている」
かぁっと頬から耳、首元まで熱くなる。
きっと真っ赤になっているに違いない。
(レニー……率直過ぎ……私のほうが照れちゃうじゃない……)
慣れない「口説かれ」状態に、ルーナは心の中で、あたふたしていた。
そのせいで、ジークの「忠告」が頭から飛んでいる。
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