世話焼き宰相と、わがまま令嬢

たつみ

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どっちの方角に? 3

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 結局、よくよく考えても結論は出なかった。
 相談できる相手もいないし。
 となると、本人に、直接、確認するしかない。
 
(でも、大公様の忠告そのまま聞くのは無理だから……)
 
 それとなく探りを入れることにする。
 ルーナを、誰よりも知っているユージーン相手に「それとなく」が通用するかはともかく。
 
 大公の言った「覚悟」が、ユージーンとの婚姻を決定づける。
 であれば、諦められなかった。
 ルーナは、ほかの男性と婚姻するなんて考えられないのだ。
 舞踏会の時のことを思い出して、ゾッとする。
 ユージーンであれば、どうとも思わないのに、相手が変わるだけで嫌悪感に体中が粟立った。
 
(うう~……やっぱり無理……ジーンじゃなきゃ嫌……)
 
 ユージーンは、ルーナを「親離れ」できない子供扱いする。
 けれど、自分の気持ちがすでに「子供」から離れていると、知っていた。
 舞踏会で助けられ、より明確になったのだ。
 父や、弟のような存在のジークやトマスとは感情の質が違う。
 
 ユージーンを、1人の男性として見ていた。
 
 少し前まで平気だったのに、じっと見られるだけで、どきどきする。
 ユージーンにくっついていても、そうだ。
 胸が高鳴って、もっと、ぎゅっと抱き締めてほしくなる。
 大人の口づけだってしてみたい。
 ユージーン限定で。
 
 これが、恋でなくてなんだというのか。
 
 ルーナには、わかっているのだ。
 たとえユージーンにだって、否定される謂れはなかった。
 どれだけ知られていようとも、ルーナにはルーナの心があるのだから。
 
 ひとまず、どんなふうに「それとなく」聞くかを想定しておくことにする。
 行き当たりばったりでは、まず間違いなくルーナの意図がバレるからだ。
 頭の中で、ユージーンとの会話を再現してみる。
 
 ユージーンは、現在、38歳。
 一般的に考えれば、すでに婚姻しているはずの歳だった。
 ロズウェルドでは、14歳で大人とされる。
 早ければ、親の承諾を得て、婚姻している者たちもいた。
 
 とくに、貴族の男性は、早くに婚姻する傾向にある。
 家督を継ぐための条件のひとつが、婚姻にあるからだ。
 女性は、出産に伴う危険があるため、16歳での婚姻が望まれる。
 が、14歳の男性と16歳の女性の婚姻も、めずらしいというほどでもない。
 
 むしろ、38歳で独り身というのは、あまり聞かない話だ。
 先妻を亡くし、後添のちぞえを迎えていないことは、少なからずある。
 さりとて、ユージーンは1度も婚姻していないので、これにはあてはまらない。
 
(大公様は、ジーンは、もうレティ様のこと吹っ切ってるって言ってた)
 
 大公が言うのだから、これも間違いはないようだ。
 レティシアが忘れられず、婚姻を拒んでいるのではない。
 だとすれば、婚姻しない理由はなにか。
 
 『俺は、好きで独り身をやっている。まだ婚姻など考えておらん』
 
 その台詞も、なんだか釈然としなかった。
 ユージーンの「まだ」とは、どの程度の期間を指すのか。
 最短で婚姻した場合を想定すると、24年もユージーンは婚姻せずにいることになる。
 はっきり言って、24年は「まだ」と言える年数ではない気がした。
 
「私の問題じゃなかったり……? ジーンのほうに、なにか……」
 
 婚姻する気にならない理由があるのではなかろうか。
 婚姻とは、2人だけの問題ではないが、そもそもが、自分たちの問題なのだ。
 爵位にしろ、年齢にしろ、ルーナに問題がないのであれば、ユージーンの側に、なんらか「覚悟」が必要なほどの問題がある。
 
「ジーンの問題を、私が受け止められるかどうか。そういう覚悟なんだ!」
 
 たぶん。
 
 大公の言っていた「覚悟」に、最も近い気がする。
 どんな問題かは、やはりユージーンに聞くしかない。
 ユージーンのことは、ユージーンしか知らないのだから。
 
 それとなく聞けるかどうかなど、頭から飛んでいた。
 ルーナは、すぐに執務室に転移する。
 気が急いていたので、ついうっかり。
 
 すとん。
 
 ユージーンの膝に、転移してしまった。
 子供っぽいからやめようと思っていたのに。
 
「俺は、最近、思うのだがな」
 
 ユージーンは、ルーナが膝に乗っかっていても、慌てるそぶりも見せない。
 平然と、報告書に目を通している。
 読みながら、ルーナの相手ができるのだから、実に器用だ。
 書類を持っていないほうの手で、何気なく頭を撫でてくる。
 
「お前は、もう少し太ったほうが良い」
「え? 私、そんなに痩せてないよ?」
「だが、軽い。この間、高い高いをしてやった時も、軽いと思っていた」
「ちゃんと食べてるんだけどなぁ」
「もっと量を増やすか、回数を増やしたほうが良いのではないか?」
「え~……そんなに食べられ……」
 
 言いかけた言葉が、止まった。
 ユージーンは、書類を読んでいて、ルーナの視線には気づいていない。
 そこには、別の書類がある。
 内容から、瞬間的に、ルーナは悟っていた。
 
「ジーン……」
「どうした?」
 
 体を乗り出して、その書類を引っ掴む。
 ユージーンが、初めて動揺を面に出した。
 そのせいで、なおさら確信してしまう。
 
「これ、私の婚姻相手の候補じゃないのっ?!」
 
 その書類には、貴族の子息について詳細な記載がされている。
 出自だけではなく、性格や生活態度、そして恋人の有無まで。
 年齢の欄を見れば、ルーナの相手であることは一目瞭然。
 最も離れている者でも、十歳違いの26歳。
 
「ルーナ、それは……」
「ジーンの馬鹿っ! 私と婚姻したくないからって、ほかの人をあてがおうとするなんて最っ低ッ!!」
「ぶわっ?!」
 
 書類を、ユージーンの顔に投げつけた。
 ぴょんと、膝から飛び降りる。
 目の縁が熱かったけれど、涙はこらえた。
 
「なんで、わかんないのっ?! 私には、ジーンしかいないのに!」
 
 怒鳴って、パッと転移で姿を消す。
 自室に戻り、ルーナはベッドに飛び込んでから、泣いた。
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