夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第41話 病んでるのか?

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やぁ、混乱中の私です。
いきなり求婚されました。
それも、相手は自分好みの美少女です。
彼女は、私が結婚していることも知ってい…

「ちょっと待った…シーホさん、私は、結婚してるんですよ?ついさっき言いましたよね?」

そうだ、俺には優子マメがいる。
結婚してると言ったのに、この子は何を言っているんだ?
…そうか、からかっているんだな。
この間言ったことをまだ怒っているんだ。だから、俺を困らせようとしてこんな事を…
そうだ、そうに違いない。

「え?だって、他にいないんですよね?なら問題無いじゃないですか。」

「何を言って…ちょっ…!」

急に立ち上がったシーホさんは、俺の横に座ると、手を握って来た。

「あの後、家に帰って考えたんです。
命がけで助けてくれたのに、私、酷いことしちゃったって…
昨日も謝りに来ようと思ったんですけど、勇気が出なかったんです。
でも、ずっと、ずっとボンさんのことを考えていました…そうしたら、今日は会うことができました!
これはきっと運命、そう運命なんです!」

「ちょ…シーホさん、近い…近いですって!」

なんだろ、少し目が怖い…
目の奥に闇があるっていうか、今まで感じたことのない種類の視線だ…

「ボンさん…いえ、ボン様。私の旦那様に…」

どんどん近づいてくるシーホさんから、離れようとするが、手を押さえられてしまい避けられない。
目を逸らして体を捻るが、自分の世界に入ってしまっているような彼女は、勝手なことを言いながら…

「ねぇ、何してんの?」

声のした方に慌てて顔を向けると、階段を降りて来た優子マメがいた。

「いや、ちが…これはなんでも…いた!痛い痛い!」

咄嗟にシーホさんの手を振り払おうとしたが、まるで外れない…
ギリギリと力を込められて、手が潰れるんじゃないかと錯覚するくらいの痛みが走る。

「マメさん。いえ、お姉様。これからよろしくお願いします致します。」

「は!?ちょなに、痛い!痛いって言ってば!?」

シーホさんが訳のわからないことを口走る。
止めようと声を上げるが、全然手を離してくれないし、その細腕からは想像できないほど強い力で握られていて、冗談じゃなく無茶苦茶痛い。

「ぼん?この短時間でなにが起きたの?」

「それより助けて!手が潰れる!!キャナタさんもなんとかしてくれ!!ちょ!マジ離せってば!!」

説明できる状況じゃない。
キャナタさんも、そろそろ復活してくれよ!
いつまでショック受け…痛いってば!

「あ?ボン?…ってシーホ!お前何してんだ!?」

「おじさんは邪魔しないで!これは私たちの問題なんだから口出ししないで!」

「おじ…また言われた…俺そんなに年寄り臭いか…?」

「いやいや!キャナタさん!いいから助けてよ!イガッ…!!グギギ!!なー!もう!ふざけんな!!」

手を振り解こうとかなり力を込めて動かすが、どうなっているのかビクともしない。
なんなんだよ!マジでなんなんだよ!!

「もう、よく分かんないけど騒ぎすぎだよ?ほら、あなたも、一回離して。」

優子マメは、こちらに近寄って来て、俺の手が潰されかけているところに手をかざす。

「まずは話をしないと、ね?」

その瞬間、シーホの力が弱まり、手を外すことが出来た。

「抜けた!」

手が抜けると同時に、俺は席を立ち、優子マメを連れてシーホから距離を取る。

「大丈夫?」

「大丈夫じゃない!シーホ!あんた何なんだよ!?ちょっとおかしいんじゃないか!?」

俺の言葉が聞こえていないかのように、キョトンとした表情でこちらを見るシーホ…
その表情に、言い様のない恐怖を覚える。
いくら見た目が美少女でも、いや、美少女だからこそ、この状況はホラーだよ。

「ぼん、ぼんも少し落ち着いて。」

「イギャ!!ったいな!!」

「あ、ごめん。そんなに痛い?」

落ち着かせようとしたのか、優子マメが手を握って来たのだが、その手はさっきまで潰されかけていた手だ。
痛すぎて少し飛び上がってしまった。
真っ赤になっているが、腫れ上がってはいないから、骨は折れてないと思う。
触られなければ耐えられるくらいの痛みだ。

シーホから離れたことと、優子マメがいることで、少しだけ落ち着くことが出来た。
この手は後で回復してもらうとして、今はシーホをどうにかしないと…

「俺の手は後、シーホ…あんた何がしたいんだ?いきなり結婚とか言われても、正直訳がわからないし、怖えよ…」

俺がそう言うと、シーホは俯いてしまい何も話さなくなる。
本当に何なんだよ…

「ぼん、女の子にそんな風に言っちゃ駄目だよ。目つき悪いんだから、怖がられちゃうよ?」

「おい優子マメ…そこで茶化すな。」

「…だって…」

ん?今何か言ったか?

「だって!もう無理なんだもん!!」

そう言って彼女は顔を上げたが、その目には今にも零れ落ちそうなほど涙を溜めていた。



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作者です。
変な人しかいないな…
感想その他、お時間あれば是非。
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