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「ということがあったみたいだよ」
昨晩、大聖堂内に「聖なる巫女」が降臨した、というお話は、大司教様から国王陛下に直接伝わり、すぐさま箝口令が敷かれたようです。
王城でも一部のものしか知らない、という事情は公爵家には筒抜けらしく、朝食の団らんの際、お父さまは軽い話題のようにわたくしたちに教えてくださいました。
その一部に公爵家が当たり前のように入っているのか、それともコッソリと入っているのかはわたくしにはわかりかねますが、お父さまがわたくしたちにも話していい内容だと判断されたのでしょうから、ありがたく情報を聞いておくことにいたします。
お父さまのお話しは見てきたかのように具体的で、異国の風貌、見たこともない装束を着ていた、というあたりで、わたくしの心の内はお祭り騒ぎとなっておりました。
(異世界召喚!!ですわ!!!!)
ヒロインのパターンは異世界から召喚された巫女!!
(なんて王道な導入、やはり正統派乙女ゲームですわね!!)
三十路の乙女ゲーム好きな魂が興奮しております。
記憶が戻ってから十年が過ぎておりますから、もう四十路なのでしょうか。
5歳から人生をやり直し、この十年で、精神年齢が肉体の年齢にゆっくりと合ってきているような感覚はあるのですけれど。
「巫女様がいらっしゃったのなら、マテオの心労も軽くなりますかしら?」
「どうだろうね?
巫女は現れたけれど、どうも肝心の災厄のことやこちらの世界のことは何もわからないようだから、しばらくは教会、ヴィジネー家預かりになるようだよ」
心配そうに尋ねたお母さまに、お父さまは考える素振りで首を傾げました。
巫女を見つけたヴィジネー大司教は、お母さまの従兄弟にあたり、三年前、大司教位を受け継いだばかりです。
お年はまだ若く、お母さまよりも年下ですが、幼い頃から自分は神に仕えるために生まれたのだと言って教会に入り、先代の大司教様──お母さまの大叔父様に大層可愛がられていたとか。
何度かお会いしたことがございますが、全体的に白い印象の方でしたわ。
その頃の法衣が真っ白だったことに加え、髪も肌も真っ白、ヴィジネー家のサファイアの瞳だけが唯一の彩りのような、敬虔な印象をより強く与えるような、優しさの中に厳しさも持ち合わせた面差しの方です。
(教会預かり……星神様が遣わせた巫女様ですから、当然といえば当然ですけれど、これからどうやって殿下たちと関わるようになるのでしょう?
学園には通わないのかしら?)
「巫女様は、わたくしたちと同じほどのお年なのでしょう?
こちらのことを何もわからないなんて、ご不安ではないかしら?」
巫女様を慮る妖精のフリで、さらなる情報収集を試みます。
「私のティアは優しいね。
ひとまずは様子を見るようだけど、閉じ込めたりはしないだろうから、君たちも会える機会が来るだろう。
同じ年頃として、協力をお願いされるかもしれないよ」
会える機会に、協力。
なるほど、お父さまの婉曲な言い方でも、わたくしには伝わりました。
お父さまは、そうするおつもりのようですわね。
おそらくまだ国としても方針の決まっていない巫女様の取り扱いについて、お父さまとしては、できるだけ巫女様を教会の外に出すべきだとすでにお考えのようです。
(お父さま、信仰がどうのと言うことではなく、教会、「聖国」のやり方がお好きではないようですものね)
大した「神託」を寄越したつもりで、自分たちの手柄のように巫女様を取り込まれてはたまらない、と言ったところでしょうか。
ヴィジネー家、マテオ様ならその点はあまり心配することはなさそうですけれど、何せわかっていることが少なすぎる「災厄」に「巫女」様ですから、ことは慎重に、けれどできるかぎり速やかに答えを見つける必要がございます。
(問題は、災厄の時期ですのよ)
いつ来るかわからない、というのが現状ですから、まずはそこから、巫女様に託されるのでしょうか。
突然、何もわからない世界にやって来て、わかっていることの少ないお伽噺のような巫女にされて、それで世界まで救ってくれなんて、なんてハードゲームなのでしょう。
シナリオどおりにトントンと進めばいいのですが、わたくし、やはり心配ですからぜひともお手伝いしたいですわ。
ヒロインに近づかない、というのも確かに自衛のひとつではあるのですが、人となりを知っておいた方が、どんな破滅に向かっているかもすぐにキャッチできるかもしれませんし、シナリオが不明な以上、万全の対策を取るためにも情報は必要です。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉もありますから、積極的に関わっていくスタイルで参りましょう。
(もちろん、もしも断罪イベントが発生しても、嫌がらせなどしていない、と証明できる確信があるからできることなのですけれど)
ファウストは、ついに完成させたのです。
それも、わたくしの想定よりもはるかに優れた性能のものを。
学園に入学するより以前に、フルカラーの動画が撮れる映写機は完成していたのですけれど、ここへ来てさらにそれを進化させ、かなりの小型化に成功したのです。
ブローチやイヤリング、果てはメガネなどの装飾品に魔石そのものを組み込んで、好きな時に盗さ……いえ撮影し、リアルタイムでサーバーのような本体にデータを転送、その場で見ることも、保存しておくことも可能となりました。
動力源は装着者の魔力を転換し、光魔法と時間魔法に置き換えて作動するというのですから、とんでもないシロモノなのは間違いございません。
ファウストが試しにメガネをかけてみたところ、そのまま見た目は子ども、頭脳は大人の名探偵になってしまいました。
あら?メガネを作ったのもファウストですから、博士のほうと一人二役なのかしら?
ほかに蝶ネクタイ型の変声機と麻酔針の仕込まれた腕時計を作ってもらうには、その用途について説明ができませんから断念するしかありませんけれど。……話が逸れました。
小型のカメラは、わたくしくらいの魔力量ですと一日中作動させることができてしまいますので、ここまで来ると法整備の必要な案件となります。
いったん国に報告し、まずはその性能がどれほどのものなのか、サンプルデータの取得のため、実験的にわたくしやお兄さまが装着して学園内で生活をしてみる、ということになったのが、二年次への進学直前でした。
ファウストの入学も重なりますので、何かあったときは対処が可能な人選でもあります。
撮影されたデータは、他にもファウストが作ったもので法整備が必要なもののため、ビランチャ宰相がすでに立ち上げていらした対策室で管理、保存され、チェックを受けますので、これで国を巻き込んでの冤罪対策は完璧となりました。
まかり間違って、階段から突き落とされた、などというウソをつかれても、撮影データがあればわたくしの無罪は証明されたも同然です。
わたくしが、本当に突き落とさなければ、ですけれど。
(シナリオの強制力とは、どれほどのものなのでしょう)
巫女が現れたと聞いただけでは、ソワソワとはいたしますが、とくに敵意のようなものは湧き上がっては来ませんわね。
そもそも攻略対象の皆さまに特別な好意を持ってはおりませんので、仲良くなっていただいても一向にかまいませんし。
(お兄さまはダメですけれど)
ベアトリーチェ様の敵になるようでしたら、ちょっと出方を考えなければなりません。
(でも、スカーレット様も、クラリーチェ様もマリレーナ様も、ひどい目に合ってほしくはありませんわ)
結局、これまでのところお兄さま以外の方に婚約者は出来ず、もつれた一方通行が散乱している状態です。
(中心にわたくしがいるのが解せませんが……)
そうであっても、わたくしは素知らぬフリを続けるだけですから、巫女様が殿下ルートに入ればスカーレット様が立ちはだかるでしょうし、フェリックス様ルートならクラリーチェ様とマリレーナ様が間違いなくライバルキャラになってしまいます。
シルヴィオ様とラガロ様ルートならまだ穏やかに進むかもしれませんが、わたくしのお花畑のご令嬢たちが黙っていないかもしれませんし……。
(巫女様にはそのまま教会でお過ごしいただくのがよろしいのでは?)
などと、乙女ゲームのはじまらないことを願ってしまいそうです。
(誰かの攻略ルートに入らなければ巫女様のお力が発揮されない、とか、乙女ゲームっぽくありそうですわね……とてもありそうですわ……誰かしらは必ず巫女様と恋に落ちていただかないと困りますけど……)
殿下、お兄さま、シルヴィオ様、フェリックス様、ラガロ様、そしてファウストにイザイア。
攻略対象と思わしき方たちのお顔を思い浮かべます。
(どなたもダメ、という気もしてきましたわ)
今のところ、わたくしを中心に描かれている相関図に、巫女様がどのように飛び込んでくるのか想像もつきません。
乙女ゲームのシナリオどおりに、恋ははじまってくれるのでしょうか。
(心配は尽きませんけれど、目標は破滅回避に加えて隕石の回避!
シナリオは知らなくてもわたくしの乙女ゲーム知識が役に立つかもしれませんし、やはり巫女様とはお近づきになるほうが良さそうですわね)
そう小さく決意したわたくしですが、朝食は飲み物しか口を付けられませんでしたわ。
昨晩、大聖堂内に「聖なる巫女」が降臨した、というお話は、大司教様から国王陛下に直接伝わり、すぐさま箝口令が敷かれたようです。
王城でも一部のものしか知らない、という事情は公爵家には筒抜けらしく、朝食の団らんの際、お父さまは軽い話題のようにわたくしたちに教えてくださいました。
その一部に公爵家が当たり前のように入っているのか、それともコッソリと入っているのかはわたくしにはわかりかねますが、お父さまがわたくしたちにも話していい内容だと判断されたのでしょうから、ありがたく情報を聞いておくことにいたします。
お父さまのお話しは見てきたかのように具体的で、異国の風貌、見たこともない装束を着ていた、というあたりで、わたくしの心の内はお祭り騒ぎとなっておりました。
(異世界召喚!!ですわ!!!!)
ヒロインのパターンは異世界から召喚された巫女!!
(なんて王道な導入、やはり正統派乙女ゲームですわね!!)
三十路の乙女ゲーム好きな魂が興奮しております。
記憶が戻ってから十年が過ぎておりますから、もう四十路なのでしょうか。
5歳から人生をやり直し、この十年で、精神年齢が肉体の年齢にゆっくりと合ってきているような感覚はあるのですけれど。
「巫女様がいらっしゃったのなら、マテオの心労も軽くなりますかしら?」
「どうだろうね?
巫女は現れたけれど、どうも肝心の災厄のことやこちらの世界のことは何もわからないようだから、しばらくは教会、ヴィジネー家預かりになるようだよ」
心配そうに尋ねたお母さまに、お父さまは考える素振りで首を傾げました。
巫女を見つけたヴィジネー大司教は、お母さまの従兄弟にあたり、三年前、大司教位を受け継いだばかりです。
お年はまだ若く、お母さまよりも年下ですが、幼い頃から自分は神に仕えるために生まれたのだと言って教会に入り、先代の大司教様──お母さまの大叔父様に大層可愛がられていたとか。
何度かお会いしたことがございますが、全体的に白い印象の方でしたわ。
その頃の法衣が真っ白だったことに加え、髪も肌も真っ白、ヴィジネー家のサファイアの瞳だけが唯一の彩りのような、敬虔な印象をより強く与えるような、優しさの中に厳しさも持ち合わせた面差しの方です。
(教会預かり……星神様が遣わせた巫女様ですから、当然といえば当然ですけれど、これからどうやって殿下たちと関わるようになるのでしょう?
学園には通わないのかしら?)
「巫女様は、わたくしたちと同じほどのお年なのでしょう?
こちらのことを何もわからないなんて、ご不安ではないかしら?」
巫女様を慮る妖精のフリで、さらなる情報収集を試みます。
「私のティアは優しいね。
ひとまずは様子を見るようだけど、閉じ込めたりはしないだろうから、君たちも会える機会が来るだろう。
同じ年頃として、協力をお願いされるかもしれないよ」
会える機会に、協力。
なるほど、お父さまの婉曲な言い方でも、わたくしには伝わりました。
お父さまは、そうするおつもりのようですわね。
おそらくまだ国としても方針の決まっていない巫女様の取り扱いについて、お父さまとしては、できるだけ巫女様を教会の外に出すべきだとすでにお考えのようです。
(お父さま、信仰がどうのと言うことではなく、教会、「聖国」のやり方がお好きではないようですものね)
大した「神託」を寄越したつもりで、自分たちの手柄のように巫女様を取り込まれてはたまらない、と言ったところでしょうか。
ヴィジネー家、マテオ様ならその点はあまり心配することはなさそうですけれど、何せわかっていることが少なすぎる「災厄」に「巫女」様ですから、ことは慎重に、けれどできるかぎり速やかに答えを見つける必要がございます。
(問題は、災厄の時期ですのよ)
いつ来るかわからない、というのが現状ですから、まずはそこから、巫女様に託されるのでしょうか。
突然、何もわからない世界にやって来て、わかっていることの少ないお伽噺のような巫女にされて、それで世界まで救ってくれなんて、なんてハードゲームなのでしょう。
シナリオどおりにトントンと進めばいいのですが、わたくし、やはり心配ですからぜひともお手伝いしたいですわ。
ヒロインに近づかない、というのも確かに自衛のひとつではあるのですが、人となりを知っておいた方が、どんな破滅に向かっているかもすぐにキャッチできるかもしれませんし、シナリオが不明な以上、万全の対策を取るためにも情報は必要です。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉もありますから、積極的に関わっていくスタイルで参りましょう。
(もちろん、もしも断罪イベントが発生しても、嫌がらせなどしていない、と証明できる確信があるからできることなのですけれど)
ファウストは、ついに完成させたのです。
それも、わたくしの想定よりもはるかに優れた性能のものを。
学園に入学するより以前に、フルカラーの動画が撮れる映写機は完成していたのですけれど、ここへ来てさらにそれを進化させ、かなりの小型化に成功したのです。
ブローチやイヤリング、果てはメガネなどの装飾品に魔石そのものを組み込んで、好きな時に盗さ……いえ撮影し、リアルタイムでサーバーのような本体にデータを転送、その場で見ることも、保存しておくことも可能となりました。
動力源は装着者の魔力を転換し、光魔法と時間魔法に置き換えて作動するというのですから、とんでもないシロモノなのは間違いございません。
ファウストが試しにメガネをかけてみたところ、そのまま見た目は子ども、頭脳は大人の名探偵になってしまいました。
あら?メガネを作ったのもファウストですから、博士のほうと一人二役なのかしら?
ほかに蝶ネクタイ型の変声機と麻酔針の仕込まれた腕時計を作ってもらうには、その用途について説明ができませんから断念するしかありませんけれど。……話が逸れました。
小型のカメラは、わたくしくらいの魔力量ですと一日中作動させることができてしまいますので、ここまで来ると法整備の必要な案件となります。
いったん国に報告し、まずはその性能がどれほどのものなのか、サンプルデータの取得のため、実験的にわたくしやお兄さまが装着して学園内で生活をしてみる、ということになったのが、二年次への進学直前でした。
ファウストの入学も重なりますので、何かあったときは対処が可能な人選でもあります。
撮影されたデータは、他にもファウストが作ったもので法整備が必要なもののため、ビランチャ宰相がすでに立ち上げていらした対策室で管理、保存され、チェックを受けますので、これで国を巻き込んでの冤罪対策は完璧となりました。
まかり間違って、階段から突き落とされた、などというウソをつかれても、撮影データがあればわたくしの無罪は証明されたも同然です。
わたくしが、本当に突き落とさなければ、ですけれど。
(シナリオの強制力とは、どれほどのものなのでしょう)
巫女が現れたと聞いただけでは、ソワソワとはいたしますが、とくに敵意のようなものは湧き上がっては来ませんわね。
そもそも攻略対象の皆さまに特別な好意を持ってはおりませんので、仲良くなっていただいても一向にかまいませんし。
(お兄さまはダメですけれど)
ベアトリーチェ様の敵になるようでしたら、ちょっと出方を考えなければなりません。
(でも、スカーレット様も、クラリーチェ様もマリレーナ様も、ひどい目に合ってほしくはありませんわ)
結局、これまでのところお兄さま以外の方に婚約者は出来ず、もつれた一方通行が散乱している状態です。
(中心にわたくしがいるのが解せませんが……)
そうであっても、わたくしは素知らぬフリを続けるだけですから、巫女様が殿下ルートに入ればスカーレット様が立ちはだかるでしょうし、フェリックス様ルートならクラリーチェ様とマリレーナ様が間違いなくライバルキャラになってしまいます。
シルヴィオ様とラガロ様ルートならまだ穏やかに進むかもしれませんが、わたくしのお花畑のご令嬢たちが黙っていないかもしれませんし……。
(巫女様にはそのまま教会でお過ごしいただくのがよろしいのでは?)
などと、乙女ゲームのはじまらないことを願ってしまいそうです。
(誰かの攻略ルートに入らなければ巫女様のお力が発揮されない、とか、乙女ゲームっぽくありそうですわね……とてもありそうですわ……誰かしらは必ず巫女様と恋に落ちていただかないと困りますけど……)
殿下、お兄さま、シルヴィオ様、フェリックス様、ラガロ様、そしてファウストにイザイア。
攻略対象と思わしき方たちのお顔を思い浮かべます。
(どなたもダメ、という気もしてきましたわ)
今のところ、わたくしを中心に描かれている相関図に、巫女様がどのように飛び込んでくるのか想像もつきません。
乙女ゲームのシナリオどおりに、恋ははじまってくれるのでしょうか。
(心配は尽きませんけれど、目標は破滅回避に加えて隕石の回避!
シナリオは知らなくてもわたくしの乙女ゲーム知識が役に立つかもしれませんし、やはり巫女様とはお近づきになるほうが良さそうですわね)
そう小さく決意したわたくしですが、朝食は飲み物しか口を付けられませんでしたわ。
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