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44.懸賞金

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 とあるギルドの掲示板。板いっぱい依頼書が張り出されるそれに、新たな一枚が追加された。
 そこに居合わせた者たちは、こぞってその依頼書を確認する。

「ふーむ、魔物退治なんて珍しい。どれどれ、吸血鬼討伐……白金貨千枚?!」

「白金貨…って言うと、金貨何枚分の価値なんだ?」

「白金貨一枚で金貨千枚分の価値になる。つまり換算すると、金貨百万枚か。」

 多額の懸賞金に浮かされて、その場は多いに賑わい出す。しかし、そう舞いあがる者達だけでは無かった。

「ほんとに支払われるんだろうな? 依頼人は誰なんだよ。」

 職員に視線が向けられる。

「依頼人について、具体的にどこの誰とは言えませんよ。ですが、報酬は既にギルドで保管してあります。万一にも支払われないなんて事はありませんよ。」

 その一声で、賑わいにより一層拍車がかかる。
 しかし、その興奮は数秒でかき消された。

「俺より歴長いのに、君達馬鹿だから何も分かってないんだね。」

 顔の整った若い男は嫌味ったらしくそう言った。その男は、露骨に三人の女を侍らせている。

「……何が言いたい。」

「金貨百万枚なんて、仮に五人殺して罰金支払っても、全然余裕にお釣りが来るだろ。……それで察してよ。」

「才はあっても人間性は最悪か。いつか天罰が下るぞアダルベルト。」

「勝手に言ってろよ凡人。君達と違い才能があるもんで、調子乗らせてもらうよ。」

「俺は、お前に人を守る剣を教えたんだ。馬鹿な力の使い方はやめろ。」

「守っても、あいつら付け上がるだけだった。それだけじゃなく、しわ寄せが全部俺に来た……。懲り懲りなんだよ、そういうの。……それで察してよ。」

 若い男、アダルベルトは立ち去る間際、職員に話しかける。

「吸血鬼って、首だけ持ってくればいいんだよな?」

「はい。その通りでございます。」

 アダルベルトは不敵に笑い、女を引き連れてギルドを後にした。

「しっかし、金貨百万枚か。やっぱり、俺も討伐に行こうかな。」

「馬鹿。アダルベルトはあんな性格でも、このギルドの上位に入るんだぞ。それに今回が初犯じゃない。間違いなく殺される。」

「いや、でもな。殺しの罰金なんて馬鹿にならないだろ。見つかったら見つかったで、大人しく命乞いとかすりゃ何とかなると思うんだよ。」

「プライドの欠片も無い…が、確かに一理ある。……俺も討伐に行ってみようかな。」

 一人、また一人と討伐に出向いて行く。気付けば、職員意外のほぼ全ての者が居なくなっていた。


◇□◇□◇□◇


「あークッソ。だりぃな。」

 三十分間、吸血鬼が起きるのをただ待つってのは退屈だったから、ダンジョンに戻って暇潰しでもしようと思った矢先に。『ビスク、カリムって餓鬼を連れてこい』とか……。
 いやいや、百歩譲ってお願いする立場なんだから『連れてきてください』か『連れてきてくれませんか?』だろ。なんで命令形なんだよ。……ま、暇潰しとしては最適だったから良いけどなぁ。

 シエルの匂いを辿れば、いずれ居場所は突き止められるだろうけど、人に見られると不味いかな。今は人の身体使ってるけど、念の為に隠密行動もしとくかぁ。

 月の角度から見て、七分弱経過で残り二十三分。森の中じゃ流石に時間見れないから、出来るだけ早く戻らなきゃな。

「あれ、意外と切迫してるなぁ。」

 とりあえず、急いだ方がいいか。

 ……って思ったけど、進行方向に邪魔な奴がいるんだが、殺して押し通ろうか。弓、魔術、ヒーラー、剣士か。あー時間喰われる編成かよ。戦闘になりたくないなぁ。
 足止めされたら最悪だし様子見に留めとこう。

「ねぇねぇアダルベルトさん。もしぃ、私が吸血鬼に襲われたらどーする?」

 なんだ、この耳に障るぶりっ子の猫なで声。きっしょ。

「もちろん、命懸けでも守ってみせるよ。」

 女の前だからってカッコつけるな。恥かけ。木の根に躓け。

「えー、ずるい。私も守ってくれるぅ?」

「私も私もぉー。」

 ……これ以上の詮索は要らないな。ちょっと見てられない。というか見たくない。
 てか、なんでこいつらと進行方向が被るんだ? 偶然か、目的が同じでカリム君とやらの方向が分かるのか?
 ま、面倒だし。このまま隠密で行こうか。
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