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21.後遺症

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 数分前、まだカリムが攻め込んで来ていない頃の王城内の話。

「シルフィア様、何方へ行かれるのでしょうか。」

「アルマ様の治療が終わったのでしょう。会いに行きたいの。案内をしなさい。」

 気品あるドレスを着こなす女性、シルフィアはアルマの元へと向かっていた。
 二人の衛兵は二つ返事でシルフィアを案内し始めた。

「シルフィア様、失礼ながらお聞きしますがアルマ様のご様態はご存知でしょうか?」

「知らないわ。知っているのなら教えなさい。」

「はい。まず怪我の概要ですが、背後からの刺傷と左腕に刺傷です。後者は命に別状は無かったのですが、前者の方は心臓を突き抜け貫通しており、致命傷でした。
 転移後、近くに居た者達が適切な処置を施した為、命には別状が無いと言われています。
 しかし、数分間心肺が停止していたようでして、見た目以上に脳への負担がかかっていたそうです。最悪の場合、このまま目を覚まさないという事も有り得ます。
 栄養補給は定期的に魔術で行っております。そこは問題ありません。」

「そう。もう少し急ぎましょう。」

 衛兵達は早足になり、シルフィアはそれに着いて行く。

 そして、三人はアルマの元へと辿り着く。

「シルフィア様、我々も中へと入室してよろしいでしょうか?」

「いえ、そこで待機していなさい。」

 シルフィアは一人で部屋の中へと入った。

 部屋の中には家具は少なく、あるのは豪勢なキャノピーベッドとそこで眠るアルマ、その傍らにある剣だけだった。

「サミアの子にやられたのね。やはり赤髪は危険なのね。」

 シルフィアはアルマの額を優しく撫でる。
 毛布を少し退けて服を捲り、胸の傷跡を見る。

「前の身体も傷跡だらけだったけど、ここまで酷い傷跡は初めてだわ。」

 シルフィアは服の裾をギュッと握り締める。

「本当に、生きてて良かった…。本当に…。」

「あのぅ。そろそろ寒いので毛布掛け直してくれません。あと、そんなにまじまじ見られると恥ずかしいんですけど。」

 そう言ったのは、アルマだった。

「あ、あアルマ様。ご無事なのですか!」

 アルマはキョロキョロと周りを見渡し、シルフィアに話しかける。

「えっと…、ここってどこですか?」

 何処かよそよそしくアルマは尋ねる。

「ここは王城内ですよ。安心して大丈夫です。」

「お、王城内だって!」

 それを聞いてアルマは慌てふためく。

「ど、どうしたのですか? アルマ様。」

「いや、だって王城内でしょ? 失礼の無いようにしなきゃ。」

「何を言ってるのですか? いつも暮らしてる場所じゃないですか。」

 それを聞いて半笑いになるアルマ。

「いやいや、私みたいな庶民が王城で生活なんて、そんな夢みたいな話がある訳ないじゃないですか。」

 シルフィアは少し考え込む。

「アルマ様、私が誰か分かりますか?」

「いいや。知らないな。」

 アルマは即答した。

「そう…。脳への負担…記憶喪失ですか。」

 すると、なにか閃いたかのようにアルマはシルフィアの肩を持ち、抱き寄せる。

「なるほどね。道理で辻褄が合わないと思った。」

「え、えっと。なにがでしょう? アルマ様。」

 アルマはシルフィアを押し倒す。

「これって私の夢だろ。」

「…違いますけど。」

 シルフィアは服を脱がされ始め、不味いと感じたのかそれに抵抗する。

「衛兵! 早く来なさい!」

「えぇ…、折角の夢なのに。」

 勢い良く扉が開き、二人の衛兵が部屋へと入る。

「シルフィア様、どうかな…さ…?」

「こ、この変態を一先ず牢に──」

「し、ししし失礼しました! 防音はこちらでしておきます故、どうぞごゆっくりなさって下さい。」

 そう言って、衛兵二人は話を最後まで聞かずに慌てて退出した。

「おお、流石! 夢ってご都合でいいなぁ。じゃあ早速、続きをしよ…グフッ!」

 シルフィアは綺麗にビンタを放つ。

「脳の負担…まさか性欲の暴走ですか! いえ、性欲の権化なのは元々でしたね…。」

 アルマは頬を抑えて悶絶する。

「痛い…。まさか夢じゃないのか?」

「そうです。夢じゃないのでやめてください。」

「…まあ、衛兵達のGOサインは出てたし…、このまま勢いでやるか!」

 そう言って、アルマは全裸になった。


◇□◇□◇□◇


 一方その頃、衛兵達は。

「先輩…シルフィア様は今頃、中でナニやってるんですかね。」

「やめろ。そういう話は慎め。」

「ちょっとだけ覗きませんか?」

「そんな事したら、お前処刑されるぞ。」

「ほんの少しだけですって。」

「私達は職務を全うするだけだ。右側を見張っているから、お前は左側を見張れよ。」

「そんなぁ…。」

「もう一度言う…。私は右側をずっと見張り続ける。仮に後輩が部屋の中を覗こうと気が付けないが、私は右側を見張り続ける。」

「せ、先輩! じゃあお先に失礼します。」

 そのやり取りの直後、何者かによって二人は気絶させられた。
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