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20.王女

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『さっきはすまないな。』

「急になんだ。らしくないな。」

『索敵担当として接近に気が付かなかった事だよ。王女探しや色々な事に気を取られていた。』

「怒ってないよ。僕もお前に頼り過ぎてた。足音が聞こえていたのにそれを警戒しなかったのは僕だ。」

『それはそうと、そろそろ王女の傍まで着く。ここの角は曲がらずに待機しろ。』

 そう言われ、立ち止まる。

『まず後ろと左側には人は居ない。だから警戒する必要は無いぞ。
 右側には四人居る。一人はシルフィア、もう一人がアルマだ。もう二人はただの衛兵だと思う。
 位置関係から推察するに、衛兵二人は部屋の外で、シルフィアとアルマの二人は部屋の中だ。何をしているかまでは分からんぞ。』

 アルマは確か寝たきりだよな…。看病かお見舞いか。どちらにせよ好都合だ。二人とも殺そう。
 その前には衛兵二人を何とかしなくちゃ。

『また首を狙うのか。』

 僕は小声で返す。

「あれは時間がかかるから無理だ。死体も出てるし早めに目標を殺したいから正面突破する。」

『衛兵は殺すのか?』

「いや、極力殺さない。」

『もう無関係な人間を一人殺してんだぞ。三人殺したって同じさ。』

「偶然殺すのと意図的に殺すのは別なんだろ。少し黙っててくれ。」

 まずは《操血》で棒を創る。
 そして二人の前へと躍り出て、不意打ちで衛兵の一人の顔面を棒でぶん殴る。
 二人目は突然の出来事に置いてかれて抜剣すら出来て居なかった。そいつも同じように顔面をぶん殴った。

『おお、凄いじゃん。』

「いやまだだ。」

 この扉の向こうに黒幕が居る筈だ。
 開けた瞬間に殺す。開けた瞬間に殺す。と、呪文のように頭の中でそう何度も呟く。
 棒を剣に変形させて構えながら勢い良く扉を開けた。

 そして、見えた人影に斬りかかった。が、剣で弾かれる。
 僕の攻撃を弾いたのはアルマだった。寝たきりは所詮風の噂だったか…。

「誰だ!」

 声を荒らげるアルマ、その後ろには女性も居た。あいつがシルフィアか。

「なんなのよ! 一体何が起こっているの!」

『おいおい、こいつら全裸じゃないか。一体ナニをしていたんだろうな。』

 もう《操血》を隠して戦う必要は無い。とは言っても、アルマの力は底が知れない。剣一つじゃ捌ききれない程の手数で落とすか…。

『生死を賭けた次は精子を掛けた訳か。カリム君の父上は面白いな!』

 まずは短剣を投げ飛ばした。が、アルマによって僕の眉間目掛けて打ち返された。
 直前で硬化を解除したのでダメージはそれほど受けなかった。

「何者だと聞いている!」

 アルマはそう怒鳴る。

 そうだ、まずは動きを封じよう。
 そう思い、自分の手首を切って血をばら撒くように噴出した。そして、アルマの周辺複雑に血の糸を張り巡らせて硬化させる。下手に動くと身体に糸が食い込むように。

 この糸は、硬化させると自由自在には動かせないし、骨を両断出来る程の鋭度もない上に、服さえ切れないただの拘束技なのだが、生肌にはよく食い込み切れる。
 全裸のアルマには効果抜群だ。

「そこで指咥えて見とけよ。と言っても、指すら咥えられないか。まあ、王女が苦しんで死ぬ姿を見せてやるよ。特等席で堪能しててくれ。その後はお前の番だ。」

「ちょっと、なんなのよあんた!」

「何の変哲もない、ただの因果応報だよ。」

 転移石は厄介だ。使えないように両腕を落とそうと、剣を振り上げたその時。

 パキッという砕けた音と共に、僕の心臓をアルマの剣が貫いていた。
 そのまま壁まで蹴り飛ばされ、衝撃で頭の防具が外れて顔が晒される。
 頭の防具はフードのように繋がっている為、飛ばされはしなかった。

「あ、赤髪の魔物…。 まさかサミアの子が私を殺しに。」

 王女がそう言った。
 数秒後、僕は当たり前のように再生する。

「痛ぇな…、どうやって脱出し…ッ。」

 肌色に混ざる赤色。アルマの傷だらけの裸体を見れば聞くまでもなかった。

『うわ…。痛そぅ。』

「本当、脳筋って嫌いだ。」

 アルマはシルフィアを背に剣を構える。

「何しにここに来た!」

「お前らを殺す為に決まってんだろ。」

 もう一度血の糸で囲むべく、手首を切る。

「させるか!」

 アルマは血飛沫を剣一つで回し受ける。

「…やっぱり脳筋だな。」

 剣に付着した血を硬化させて、壁や床、天井を支点に剣だけをその場に固定させた。
 そこへ更に血を継ぎ足して雁字搦めにする。

「剣無し剣士って無力だよな。ちなみに経験談ね。」

「この程度、ふんッ!」

 アルマは硬化された血を足場にし、全身に力を込めて意図も簡単に剣を引き抜いた。

『馬鹿力だな。』

「…本当に脳筋って嫌いだよ。」

 そこら中に飛び散った血をある程度回収して次に備えた。
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