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10.勇者
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私の父はユーリ、母はヒルダ・シーリスと言う。そして私はアルマと名付けられた。
幼少期は父の話を聞いて育っていた。
その話とは、父が勇者ユーリとして魔王を退けた話だ。しかしその話では、何故か魔王を悪く教えようとしなかった。
「お父さん。なんで魔王を悪く言わないの?」
父は答えてはくれなかった。幼い頃の私には、いや魔王を討った後の今の私でさえも、何故魔王を悪として伝えなかったのかが分からなかった。
私は父に剣術も教え込まれた。
理由は言われなくても分かった。魔王に対抗する為だろう。と、あの言葉を言われる前の私は考えていた。
「大きくなったら、…魔王を倒したいと思うか?」
柄にもなく神妙な面持ちの父に対して、二つ返事で元気よく「はい!」と私は答えた。
極極当たり前の事なので、そう答えたのだ。
そして、紆余曲折を経て私は魔王を討った。
その時に、父のあの当たり前の質問を思い出した。しかし、その質問の真意が未だに分からなかったのだ。
だが、そんな思い出はすぐさま頭の片隅に追いやられた。
魔王を討ち取った私を待っていたものは、まさに天国だった。
助けた王女のシルフィアからは求婚されてそのまま結婚した。
何もしなくても朝昼晩最高級の食事が用意され、望みを言えばすぐに叶えられた。
その待遇により図に乗った私は昔好きだった幼馴染のセナと魔王討伐に協力してくれた魔術師のミィルとも結婚した。無論、王女からは少し嫌悪されたが、その他の誰にも文句は言わせ無かった。
その事で更に調子づいた私は、遂にはメイドにまで手を出したのだ。
それがサミアとの出会いだった。
サミアは一晩で妊娠してしまい。第四の妻として迎えることとなったのだ。
三人の妻からは一晩中縛り付けられ殴られたが、説得が上手くいったのか、はたまた殴り疲れたのか何とか許しを貰えた。
サミアのお腹の中には二人もいるらしいので、二人分の名前を考えていたのだ。
…男の子だったらサルムやカリムとかがいいかな。そんな事を考えていたと思う。
そして、産まれたのだ。
忌まわしき赤髪の赤子が。
そこからサミアの過去が洗われたのだ。まず、サミアは髪を染めて自分の身分を偽り私の元で働いていたのだ。「いつかは言うつもりだった。」と泣くサミアを見て、私は許すつもりだった。
しかし、王女だけは違った。他の二人の妻は良かったのだが、王女だけは違ったのだ。
血相を変えて「穢らわしい醜い赤毛」だの「嘘つきの裏切り者」だのサミアに向かって散々喚き散らしたのだ。
私は、それを止められなかった。
恥ずかしい話、今まで王女を怒らせたことは幾度とあった。だがどれも仏頂面になる程度で許して貰えていた。しかし、ここまで憤怒する王女は初めて見るのだった。
だから怖かった。王女に嫌われる事が怖かったのだ。だからその時の私は…。
「本当に、騙すなんて酷いよな。」
その場に乗っかった。
言い訳かもしれないが、明日には謝ろうと思った。王女も何とか説得しようと思った。
だが、サミアが夜逃げしたのはその晩だった。出産後の弱った身体で、首も座らない赤子二人を抱えて逃げたのだ。
私は街を何十日を練り歩きサミアを捜した。勿論、手下なんかに命令せず自分の足でだ。
そして次第に食事も喉を通らなくなっていき、段々と窶れていった。そんな私を見兼ねたのか王女達も手伝うようになったのだ。
それから程なくして、それらしき死体が森で発見された。獣に食い荒らされたかのようにぐちゃぐちゃで見る影も無かったのだが、服がサミアの物と酷似していた。
最近知ったのだが、サミアは暗殺されたらしい。私の王女によって。
それからも、居るはずもないサミア達を、噴水の縁に座って捜し続けた。
戦争の頃は別だったが、ほぼ毎日座っていた。まあ、流石に十年も経つと週に二三回程度しか通わなくなったが。
そして十五年が経ったある日、一人の少年に話しかけられたのだ。
「よお、おっさん。身なりがいいのによくここに来るんだってな。こんな貧民街に何の用だ。」
◇□◇□◇□◇
そして、今はダンジョンに居る。
ギルド内での吸血鬼魔物の被害、そして吸血鬼に連れ去られた赤毛の少年。街ではそんな噂が飛び交っていた。
赤毛の少年でピンと来た。もしかするとカリムが吸血鬼に連れ去られたのかもしれないと。
杞憂かもしれないが、そう思い立ちダンジョンへと一人で赴いたのだ。
幼少期は父の話を聞いて育っていた。
その話とは、父が勇者ユーリとして魔王を退けた話だ。しかしその話では、何故か魔王を悪く教えようとしなかった。
「お父さん。なんで魔王を悪く言わないの?」
父は答えてはくれなかった。幼い頃の私には、いや魔王を討った後の今の私でさえも、何故魔王を悪として伝えなかったのかが分からなかった。
私は父に剣術も教え込まれた。
理由は言われなくても分かった。魔王に対抗する為だろう。と、あの言葉を言われる前の私は考えていた。
「大きくなったら、…魔王を倒したいと思うか?」
柄にもなく神妙な面持ちの父に対して、二つ返事で元気よく「はい!」と私は答えた。
極極当たり前の事なので、そう答えたのだ。
そして、紆余曲折を経て私は魔王を討った。
その時に、父のあの当たり前の質問を思い出した。しかし、その質問の真意が未だに分からなかったのだ。
だが、そんな思い出はすぐさま頭の片隅に追いやられた。
魔王を討ち取った私を待っていたものは、まさに天国だった。
助けた王女のシルフィアからは求婚されてそのまま結婚した。
何もしなくても朝昼晩最高級の食事が用意され、望みを言えばすぐに叶えられた。
その待遇により図に乗った私は昔好きだった幼馴染のセナと魔王討伐に協力してくれた魔術師のミィルとも結婚した。無論、王女からは少し嫌悪されたが、その他の誰にも文句は言わせ無かった。
その事で更に調子づいた私は、遂にはメイドにまで手を出したのだ。
それがサミアとの出会いだった。
サミアは一晩で妊娠してしまい。第四の妻として迎えることとなったのだ。
三人の妻からは一晩中縛り付けられ殴られたが、説得が上手くいったのか、はたまた殴り疲れたのか何とか許しを貰えた。
サミアのお腹の中には二人もいるらしいので、二人分の名前を考えていたのだ。
…男の子だったらサルムやカリムとかがいいかな。そんな事を考えていたと思う。
そして、産まれたのだ。
忌まわしき赤髪の赤子が。
そこからサミアの過去が洗われたのだ。まず、サミアは髪を染めて自分の身分を偽り私の元で働いていたのだ。「いつかは言うつもりだった。」と泣くサミアを見て、私は許すつもりだった。
しかし、王女だけは違った。他の二人の妻は良かったのだが、王女だけは違ったのだ。
血相を変えて「穢らわしい醜い赤毛」だの「嘘つきの裏切り者」だのサミアに向かって散々喚き散らしたのだ。
私は、それを止められなかった。
恥ずかしい話、今まで王女を怒らせたことは幾度とあった。だがどれも仏頂面になる程度で許して貰えていた。しかし、ここまで憤怒する王女は初めて見るのだった。
だから怖かった。王女に嫌われる事が怖かったのだ。だからその時の私は…。
「本当に、騙すなんて酷いよな。」
その場に乗っかった。
言い訳かもしれないが、明日には謝ろうと思った。王女も何とか説得しようと思った。
だが、サミアが夜逃げしたのはその晩だった。出産後の弱った身体で、首も座らない赤子二人を抱えて逃げたのだ。
私は街を何十日を練り歩きサミアを捜した。勿論、手下なんかに命令せず自分の足でだ。
そして次第に食事も喉を通らなくなっていき、段々と窶れていった。そんな私を見兼ねたのか王女達も手伝うようになったのだ。
それから程なくして、それらしき死体が森で発見された。獣に食い荒らされたかのようにぐちゃぐちゃで見る影も無かったのだが、服がサミアの物と酷似していた。
最近知ったのだが、サミアは暗殺されたらしい。私の王女によって。
それからも、居るはずもないサミア達を、噴水の縁に座って捜し続けた。
戦争の頃は別だったが、ほぼ毎日座っていた。まあ、流石に十年も経つと週に二三回程度しか通わなくなったが。
そして十五年が経ったある日、一人の少年に話しかけられたのだ。
「よお、おっさん。身なりがいいのによくここに来るんだってな。こんな貧民街に何の用だ。」
◇□◇□◇□◇
そして、今はダンジョンに居る。
ギルド内での吸血鬼魔物の被害、そして吸血鬼に連れ去られた赤毛の少年。街ではそんな噂が飛び交っていた。
赤毛の少年でピンと来た。もしかするとカリムが吸血鬼に連れ去られたのかもしれないと。
杞憂かもしれないが、そう思い立ちダンジョンへと一人で赴いたのだ。
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