21 / 29
全ては…
しおりを挟む
シェリーネは、マクドルー公爵家に帰って来てから直ぐに、伯父マリウス宛に手紙を認めて、それをカレンに届ける様に頼んだ。
シェリーネの中で何か不安な思いが駆け巡る。
「どうかした?」
「いいえ何でもないの。少し考え事をしていて…」
「そう、悩みがあるんなら言ってね」
「ええ、大丈夫よ」
ジュリアスは暗い表情のシェリーネを見て、思い当たる事と云えばあの老婆だけだ。それに報告をした時の祖父…コールドマンの様子も気になった。
護衛の話では、裏路地の前で別れたと言っていたな。なら、明日にでも訊ねてみよう。聞きたい事があるしな。
ジュリアスにも聞こえていたあの言葉「おうじ」それが意味すると事が何なのかを確認したかったのだ。
シェリーネに渡されたリンゴを受け取る時、あの老婆は彼女の手を握って、呟いた。その眼には懐かしみながらも恐れているようなそんな風に思えた。
翌日、ジュリアスは昨日の老婆を探しに行ったのだが、近くに住む女性から、昨夜誰かが訪ねてきて、一緒に何処かに行ってから帰って来ていないと言われた。
遅かったか…誰かに先手を取られてしまった。
まさか…祖父の仕業ではないだろうな。
ふと、そんな考えが過ぎったが、いくらなんでも見知らぬ平民を処罰しないだろうと直ぐに否定した。
隣人の話から、老婆を連れて行った人物の心当たりはある。
もし、そうなら何故あの人が…。と思った所で諦めた。
いくら考えてもジュリアスには分からない。
仕方がないので、ジュリアスは次の日にシェリーネを連れて侯爵家を訪問する事にした。
今までの全ては彼女の母エリーロマネに関係があるのだ。
なら直接聞いた方が早い。
あの伯父…マリウスに──。
そこでジュリアスの頭の中に何かが引っ掛かる。
何か重要な事を見逃しているようなそんな気がした。
屋敷に帰ると、シェリーネはサロンで昨日のハンカチに刺繍を刺していた。その髪にはコームが挿されていて、ジュリアスの心に優しい温かなものが流れ込んできた。
「ただいま」
「あ…おかえりなさいませ。お出迎えもせずに」
「いいんだよ。予定が狂ってしまってね。それよりも昨日のハンカチに刺繍をしているんだね」
「ええ、まだ片方しかできていませんが…」
「見せてくれる?」
「ダメです。出来上がってからのお楽しみにしてください」
「残念だな…ちょっとだけ」
「ダメなものはダメです。見せられません」
「ちぇっ、仕方がない。諦めるか。ところで、急なんだけれど、明日、学園が終わったら、迎えに行くから一緒に侯爵家に行こうか」
「急にどうしたんですか?」
「ちょくちょく顔を出してあげないと、マリウス殿も心配するだろうし、寂しいんじゃないかな」
「そうですね」
満面の笑みを見せる婚約者。
ジュリアスはマリウスに軽く嫉妬した。
彼女にこんな顔をさせるマリウス殿の方が父親らしいな。
ん?父親…まてよ。どうして気が付かなかったんだ。
よく考えれば、彼はいつもエリーロマネと一緒だった。
それに、シェリーネの顔立ちは、どちらかというとアレン殿と云うよりはマリウス殿に似ている。
髪と瞳の色は違うが…。
まさか、変えている…のか。どうして…。
そう言えば、あの老婆の隣人が言っていたな。黒髪に青い瞳の男性が訪ねてきていたと。もしかして…老婆が言っていた言葉…「おうじ」とは「王子」という意味なのだろうか。
なら「王子」とは一体誰の事なんだ。
まさかな…そんなはずはない。
だが、もしそうなら全ての辻褄があう。
シェリーネとの結婚に反対している大叔母イフェリナ王太后の態度に、国王が積極的に進めようとしている事も、何よりもシェリーネの髪の色がそうだ。
全ての点が一本の線でジュリアスの頭の中で急に繋がった。
ああ、だからあの人はシェリーネを守ってほしいと僕に頼んだのか。
エリーロマネの言葉をジュリアスは思い出す。
──あの子がこの先、なにか大変な事にあったら、助けて欲しいのです。
きっとあの時には、分かっていたんだろう。シェリーネに危害が及ぶかも知れない事を…。
だから僕に託した。自分の命が残り少ないから、娘を守りきれないかも知れないから。
僕ならある程度は守れる。
マクドルー公爵家の次期当主であり、イフェリナ王太后の血縁者。
だから、エリーロマネに選ばれた。
イフェリナ王太后からの手から守る為に…。
一体いつから仕組まれていたんだ。この茶番劇は…。
もしかして、最初からなのか?シェリーネの婚約解消まで計算されていたんだろうか。
でも、エリーロマネにそんな事が出来るはずはない。既に亡くなっているのだから。
だとしたら、誰が……。
そこでジュリアスは、思い至った。
そうだ。彼なんだ。全ての元凶であり、この計画を立てて実行したのは彼なんだ。
分かっている。
彼の目的が何なのかも…。
──復讐…。
それが全ての答えだ。
その為に彼は最も愛した者達を生贄に差し出したのだとジュリアスは理解した。
次の日、侯爵家を訪れた二人を家令は、応接室に案内した。
そこにはあの老婆と一人の男が待っていた。
『宝玉の緋』の髪とシェリーネの翠の瞳を持つ──。
「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」
そう言って不敵に笑っている。
男の名は──。
マリウス・コンラード。
シェリーネにも一目見て彼が何者なのかを理解した。
どう言葉にしていいのかわからず、ただただ茫然と立っているだけで精一杯だった。
隣のジュリアスはシェリーネを支える様に肩を抱き、マリウスを見つめていた。
マリウスの次の言葉を待つように……。
シェリーネの中で何か不安な思いが駆け巡る。
「どうかした?」
「いいえ何でもないの。少し考え事をしていて…」
「そう、悩みがあるんなら言ってね」
「ええ、大丈夫よ」
ジュリアスは暗い表情のシェリーネを見て、思い当たる事と云えばあの老婆だけだ。それに報告をした時の祖父…コールドマンの様子も気になった。
護衛の話では、裏路地の前で別れたと言っていたな。なら、明日にでも訊ねてみよう。聞きたい事があるしな。
ジュリアスにも聞こえていたあの言葉「おうじ」それが意味すると事が何なのかを確認したかったのだ。
シェリーネに渡されたリンゴを受け取る時、あの老婆は彼女の手を握って、呟いた。その眼には懐かしみながらも恐れているようなそんな風に思えた。
翌日、ジュリアスは昨日の老婆を探しに行ったのだが、近くに住む女性から、昨夜誰かが訪ねてきて、一緒に何処かに行ってから帰って来ていないと言われた。
遅かったか…誰かに先手を取られてしまった。
まさか…祖父の仕業ではないだろうな。
ふと、そんな考えが過ぎったが、いくらなんでも見知らぬ平民を処罰しないだろうと直ぐに否定した。
隣人の話から、老婆を連れて行った人物の心当たりはある。
もし、そうなら何故あの人が…。と思った所で諦めた。
いくら考えてもジュリアスには分からない。
仕方がないので、ジュリアスは次の日にシェリーネを連れて侯爵家を訪問する事にした。
今までの全ては彼女の母エリーロマネに関係があるのだ。
なら直接聞いた方が早い。
あの伯父…マリウスに──。
そこでジュリアスの頭の中に何かが引っ掛かる。
何か重要な事を見逃しているようなそんな気がした。
屋敷に帰ると、シェリーネはサロンで昨日のハンカチに刺繍を刺していた。その髪にはコームが挿されていて、ジュリアスの心に優しい温かなものが流れ込んできた。
「ただいま」
「あ…おかえりなさいませ。お出迎えもせずに」
「いいんだよ。予定が狂ってしまってね。それよりも昨日のハンカチに刺繍をしているんだね」
「ええ、まだ片方しかできていませんが…」
「見せてくれる?」
「ダメです。出来上がってからのお楽しみにしてください」
「残念だな…ちょっとだけ」
「ダメなものはダメです。見せられません」
「ちぇっ、仕方がない。諦めるか。ところで、急なんだけれど、明日、学園が終わったら、迎えに行くから一緒に侯爵家に行こうか」
「急にどうしたんですか?」
「ちょくちょく顔を出してあげないと、マリウス殿も心配するだろうし、寂しいんじゃないかな」
「そうですね」
満面の笑みを見せる婚約者。
ジュリアスはマリウスに軽く嫉妬した。
彼女にこんな顔をさせるマリウス殿の方が父親らしいな。
ん?父親…まてよ。どうして気が付かなかったんだ。
よく考えれば、彼はいつもエリーロマネと一緒だった。
それに、シェリーネの顔立ちは、どちらかというとアレン殿と云うよりはマリウス殿に似ている。
髪と瞳の色は違うが…。
まさか、変えている…のか。どうして…。
そう言えば、あの老婆の隣人が言っていたな。黒髪に青い瞳の男性が訪ねてきていたと。もしかして…老婆が言っていた言葉…「おうじ」とは「王子」という意味なのだろうか。
なら「王子」とは一体誰の事なんだ。
まさかな…そんなはずはない。
だが、もしそうなら全ての辻褄があう。
シェリーネとの結婚に反対している大叔母イフェリナ王太后の態度に、国王が積極的に進めようとしている事も、何よりもシェリーネの髪の色がそうだ。
全ての点が一本の線でジュリアスの頭の中で急に繋がった。
ああ、だからあの人はシェリーネを守ってほしいと僕に頼んだのか。
エリーロマネの言葉をジュリアスは思い出す。
──あの子がこの先、なにか大変な事にあったら、助けて欲しいのです。
きっとあの時には、分かっていたんだろう。シェリーネに危害が及ぶかも知れない事を…。
だから僕に託した。自分の命が残り少ないから、娘を守りきれないかも知れないから。
僕ならある程度は守れる。
マクドルー公爵家の次期当主であり、イフェリナ王太后の血縁者。
だから、エリーロマネに選ばれた。
イフェリナ王太后からの手から守る為に…。
一体いつから仕組まれていたんだ。この茶番劇は…。
もしかして、最初からなのか?シェリーネの婚約解消まで計算されていたんだろうか。
でも、エリーロマネにそんな事が出来るはずはない。既に亡くなっているのだから。
だとしたら、誰が……。
そこでジュリアスは、思い至った。
そうだ。彼なんだ。全ての元凶であり、この計画を立てて実行したのは彼なんだ。
分かっている。
彼の目的が何なのかも…。
──復讐…。
それが全ての答えだ。
その為に彼は最も愛した者達を生贄に差し出したのだとジュリアスは理解した。
次の日、侯爵家を訪れた二人を家令は、応接室に案内した。
そこにはあの老婆と一人の男が待っていた。
『宝玉の緋』の髪とシェリーネの翠の瞳を持つ──。
「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」
そう言って不敵に笑っている。
男の名は──。
マリウス・コンラード。
シェリーネにも一目見て彼が何者なのかを理解した。
どう言葉にしていいのかわからず、ただただ茫然と立っているだけで精一杯だった。
隣のジュリアスはシェリーネを支える様に肩を抱き、マリウスを見つめていた。
マリウスの次の言葉を待つように……。
79
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが気にしません
翔王(とわ)
恋愛
夜会に参加していたらいきなり婚約者のクリフ王太子殿下から婚約破棄を宣言される。
「メロディ、貴様とは婚約破棄をする!!!義妹のミルカをいつも虐げてるらしいじゃないか、そんな事性悪な貴様とは婚約破棄だ!!」
「ミルカを次の婚約者とする!!」
突然のことで反論できず、失意のまま帰宅する。
帰宅すると父に呼ばれ、「婚約破棄されたお前を置いておけないから修道院に行け」と言われ、何もかもが嫌になったメロディは父と義母の前で転移魔法で逃亡した。
魔法を使えることを知らなかった父達は慌てるが、どこ行ったかも分からずじまいだった。
愛することはない?教育が必要なようですわね!?
ゆるぽ
恋愛
ヴィオーラ公爵家には独自の風習がある。それはヴィオーラに連なるものが家を継ぐときに当代の公爵が直接指導とテストを行うというもの。3年前に公爵を継いだシンシア・ヴィオーラ公爵は数代前に分かれたヴィオーラ侯爵家次期侯爵のレイモンド・ヴィオーラが次期当主としてふさわしいかどうかを見定め指導するためにヴィオーラ侯爵家に向かう。だがそんな彼女を待っていたのはレイモンドの「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」という訳の分からない宣言だった!どうやらレイモンドは婚約者のレンシアとシンシアを間違えているようで…?※恋愛要素はかなり薄いです※
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
こんな婚約者は貴女にあげる
如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。
初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。
虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。
音爽(ネソウ)
恋愛
伯爵令嬢と平民娘の純粋だった友情は次第に歪み始めて……
大ぼら吹きの男と虚言癖がひどい女の末路
(よくある話です)
*久しぶりにHOTランキグに入りました。読んでくださった皆様ありがとうございます。
メガホン応援に感謝です。
【完結】よりを戻したいですって? ごめんなさい、そんなつもりはありません
ノエル
恋愛
ある日、サイラス宛に同級生より手紙が届く。中には、婚約破棄の原因となった事件の驚くべき真相が書かれていた。
かつて侯爵令嬢アナスタシアは、誠実に婚約者サイラスを愛していた。だが、サイラスは男爵令嬢ユリアに心を移していた、
卒業パーティーの夜、ユリアに無実の罪を着せられてしまったアナスタシア。怒ったサイラスに婚約破棄されてしまう。
ユリアの主張を疑いもせず受け入れ、アナスタシアを糾弾したサイラス。
後で真実を知ったからと言って、今さら現れて「結婚しよう」と言われても、答えは一つ。
「 ごめんなさい、そんなつもりはありません」
アナスタシアは失った名誉も、未来も、自分の手で取り戻す。一方サイラスは……。
真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる