【本編完結済】この想いに終止符を…

春野オカリナ

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全ては…

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 シェリーネは、マクドルー公爵家に帰って来てから直ぐに、伯父マリウス宛に手紙を認めて、それをカレンに届ける様に頼んだ。

 シェリーネの中で何か不安な思いが駆け巡る。

 「どうかした?」

 「いいえ何でもないの。少し考え事をしていて…」

 「そう、悩みがあるんなら言ってね」

 「ええ、大丈夫よ」

 ジュリアスは暗い表情のシェリーネを見て、思い当たる事と云えばあの老婆だけだ。それに報告をした時の祖父…コールドマンの様子も気になった。

 護衛の話では、裏路地の前で別れたと言っていたな。なら、明日にでも訊ねてみよう。聞きたい事があるしな。

 ジュリアスにも聞こえていたあの言葉「おうじ」それが意味すると事が何なのかを確認したかったのだ。

 シェリーネに渡されたリンゴを受け取る時、あの老婆は彼女の手を握って、呟いた。その眼には懐かしみながらも恐れているようなそんな風に思えた。

 翌日、ジュリアスは昨日の老婆を探しに行ったのだが、近くに住む女性から、昨夜誰かが訪ねてきて、一緒に何処かに行ってから帰って来ていないと言われた。

 遅かったか…誰かに先手を取られてしまった。

 まさか…祖父の仕業ではないだろうな。

 ふと、そんな考えが過ぎったが、いくらなんでも見知らぬ平民を処罰しないだろうと直ぐに否定した。

 隣人の話から、老婆を連れて行った人物の心当たりはある。

 もし、そうなら何故あの人が…。と思った所で諦めた。

 いくら考えてもジュリアスには分からない。

 仕方がないので、ジュリアスは次の日にシェリーネを連れて侯爵家を訪問する事にした。

 今までの全ては彼女の母エリーロマネに関係があるのだ。

 なら直接聞いた方が早い。

 あの伯父…マリウスに──。

 そこでジュリアスの頭の中に何かが引っ掛かる。

 何か重要な事を見逃しているようなそんな気がした。

 屋敷に帰ると、シェリーネはサロンで昨日のハンカチに刺繍を刺していた。その髪にはコームが挿されていて、ジュリアスの心に優しい温かなものが流れ込んできた。

 「ただいま」

 「あ…おかえりなさいませ。お出迎えもせずに」

 「いいんだよ。予定が狂ってしまってね。それよりも昨日のハンカチに刺繍をしているんだね」

 「ええ、まだ片方しかできていませんが…」

 「見せてくれる?」

 「ダメです。出来上がってからのお楽しみにしてください」

 「残念だな…ちょっとだけ」

 「ダメなものはダメです。見せられません」

 「ちぇっ、仕方がない。諦めるか。ところで、急なんだけれど、明日、学園が終わったら、迎えに行くから一緒に侯爵家に行こうか」

 「急にどうしたんですか?」
 
 「ちょくちょく顔を出してあげないと、マリウス殿も心配するだろうし、寂しいんじゃないかな」

 「そうですね」

 満面の笑みを見せる婚約者。

 ジュリアスはマリウスに軽く嫉妬した。

 彼女にこんな顔をさせるマリウス殿の方が父親らしいな。

 ん?父親…まてよ。どうして気が付かなかったんだ。

 よく考えれば、彼はいつもエリーロマネと一緒だった。

 それに、シェリーネの顔立ちは、どちらかというとアレン殿と云うよりはマリウス殿に似ている。

 髪と瞳の色は違うが…。

 まさか、変えている…のか。どうして…。

 そう言えば、あの老婆の隣人が言っていたな。黒髪に青い瞳の男性が訪ねてきていたと。もしかして…老婆が言っていた言葉…「おうじ」とは「王子」という意味なのだろうか。

 なら「王子」とは一体誰の事なんだ。

 まさかな…そんなはずはない。

 だが、もしそうなら全ての辻褄があう。

 シェリーネとの結婚に反対している大叔母イフェリナ王太后の態度に、国王が積極的に進めようとしている事も、何よりもシェリーネの髪の色がそうだ。

 全ての点が一本の線でジュリアスの頭の中で急に繋がった。

 ああ、だからあの人はシェリーネを守ってほしいと僕に頼んだのか。

 エリーロマネの言葉をジュリアスは思い出す。

 ──あの子がこの先、なにか大変な事にあったら、助けて欲しいのです。

 きっとあの時には、分かっていたんだろう。シェリーネに危害が及ぶかも知れない事を…。

 だから僕に託した。自分の命が残り少ないから、娘を守りきれないかも知れないから。

 僕ならある程度は守れる。

 マクドルー公爵家の次期当主であり、イフェリナ王太后の血縁者。

 だから、エリーロマネに選ばれた。

 イフェリナ王太后からの手から守る為に…。

 一体いつから仕組まれていたんだ。この茶番劇は…。

 もしかして、最初からなのか?シェリーネの婚約解消まで計算されていたんだろうか。

 でも、エリーロマネにそんな事が出来るはずはない。既に亡くなっているのだから。

 だとしたら、誰が……。

 そこでジュリアスは、思い至った。

 そうだ。彼なんだ。全ての元凶であり、この計画を立てて実行したのは彼なんだ。

 分かっている。

 彼の目的が何なのかも…。



 ──復讐…。


 それが全ての答えだ。

 その為に彼は最も愛した者達を生贄に差し出したのだとジュリアスは理解した。



 次の日、侯爵家を訪れた二人を家令は、応接室に案内した。

 そこにはあの老婆と一人の男が待っていた。


 『宝玉のあか』の髪とシェリーネの翠の瞳を持つ──。

 
 「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」

 そう言って不敵に笑っている。

 男の名は──。

 マリウス・コンラード。

 シェリーネにも一目見て彼が何者なのかを理解した。

 どう言葉にしていいのかわからず、ただただ茫然と立っているだけで精一杯だった。

 隣のジュリアスはシェリーネを支える様に肩を抱き、マリウスを見つめていた。

 マリウスの次の言葉を待つように……。
 


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