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閑話 全てはあの時から始まった
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「ぐっ…ふっ……だ…れ……か…」
「大丈夫でございますか?イレニア様」
倒れて意識が混濁する主を心配して、側に仕えていた侍女が訊ねた。しかし、主はそのまま意識が無くなり、数日後には息を引き取ったのだ。
冷たい王宮の離れた場所に建てられている離宮。
そこには国王の愛妾とその息子が住まさわれていた。彼女は人気の旅芸人でその仄かに赤い髪と金色の瞳で国王を虜にした。
旅芸人仲間が他方に旅立っても彼女一人だけ、王宮に留まらされ、国王の寵愛を受ける事になったのだ。
彼女の名はイレニア。
彼女には夫がいたが既に死別していて、辺境地で旅芸人らと出会った。
舞と唄が得意な彼女を誰が言い出したか、『緋髪の舞姫』と呼ばれる程有名になっていった。
イレニアは王宮の宴に招かれて、そこで国王の目に留まった。だが、決して愛されている訳ではない。王の目に留まったのは、彼女が持つ美しい髪…「緋髪」だったのだ。
何も知らない王妃は嫉妬した。
そして、イレニアに毒を盛った。無味無臭の遅効性の毒は彼女の身体を徐々に蝕み苦しめた。
ただ誤算だったのは、彼女が産んだ王子。
第三王子コンラードは、『宝玉の緋』の髪を持って生まれたことだ。
王妃は、邪魔な王子を始末すべく動いた。このままでは取るに足りない愛妾が産んだ王子が自分が産んだ第一王子を退けて、王太子の座に着く事だけは避けたかった。
そして、愛妾と第三王子を始末した。
表向きは「病死」として発表したが、本当は……。
国王は事情を直ぐに把握して王妃を問い質した。
王妃は、直ぐに自白して、国王に自分の思いを打ち明け、国王を詰った。
国王は、この時初めて真実を明かした。
イレニアがシンドラー侯爵の傍系パスパール辺境伯の行方不明の姪だという事を…。
パスパール辺境伯は、セルドア・シンドラーとブリジット王女との間に生まれた第二子が継いだ家。
その血を受け継ぐイレニアに、当然、『宝玉の緋』が受け継がれていることは十分に考えられる。実際に国王の目に留まったのは、髪の色だったのだから。
国王は後悔した。
もっと早く王妃に事実を告げていれば、このような事を起こさずに済んだだろうと。
王子が誕生した時に、王妃の実子として第三王子をイレニアから引き離しておけばよかったと。
全ては遅すぎた。
だが、第三王子は生きている。
イレニア付きの乳母が密かに手配した身代わりを王子の遺体に見せかけて、秘密の通路から王宮より脱出させたのだ。
時は流れて、彼は髪の色を黒く染め、翠の瞳を青く染めて別の名で生きている。
いつの日にか自分達を都合の良いように扱った王家に復讐するために…。
「もうすぐ、全てが終わる…」
男は美しい貴婦人の肖像画の前で、恍惚とした表情を浮かべながら、肖像画の人物の唇に自身の唇を重ねた。
「大丈夫でございますか?イレニア様」
倒れて意識が混濁する主を心配して、側に仕えていた侍女が訊ねた。しかし、主はそのまま意識が無くなり、数日後には息を引き取ったのだ。
冷たい王宮の離れた場所に建てられている離宮。
そこには国王の愛妾とその息子が住まさわれていた。彼女は人気の旅芸人でその仄かに赤い髪と金色の瞳で国王を虜にした。
旅芸人仲間が他方に旅立っても彼女一人だけ、王宮に留まらされ、国王の寵愛を受ける事になったのだ。
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何も知らない王妃は嫉妬した。
そして、イレニアに毒を盛った。無味無臭の遅効性の毒は彼女の身体を徐々に蝕み苦しめた。
ただ誤算だったのは、彼女が産んだ王子。
第三王子コンラードは、『宝玉の緋』の髪を持って生まれたことだ。
王妃は、邪魔な王子を始末すべく動いた。このままでは取るに足りない愛妾が産んだ王子が自分が産んだ第一王子を退けて、王太子の座に着く事だけは避けたかった。
そして、愛妾と第三王子を始末した。
表向きは「病死」として発表したが、本当は……。
国王は事情を直ぐに把握して王妃を問い質した。
王妃は、直ぐに自白して、国王に自分の思いを打ち明け、国王を詰った。
国王は、この時初めて真実を明かした。
イレニアがシンドラー侯爵の傍系パスパール辺境伯の行方不明の姪だという事を…。
パスパール辺境伯は、セルドア・シンドラーとブリジット王女との間に生まれた第二子が継いだ家。
その血を受け継ぐイレニアに、当然、『宝玉の緋』が受け継がれていることは十分に考えられる。実際に国王の目に留まったのは、髪の色だったのだから。
国王は後悔した。
もっと早く王妃に事実を告げていれば、このような事を起こさずに済んだだろうと。
王子が誕生した時に、王妃の実子として第三王子をイレニアから引き離しておけばよかったと。
全ては遅すぎた。
だが、第三王子は生きている。
イレニア付きの乳母が密かに手配した身代わりを王子の遺体に見せかけて、秘密の通路から王宮より脱出させたのだ。
時は流れて、彼は髪の色を黒く染め、翠の瞳を青く染めて別の名で生きている。
いつの日にか自分達を都合の良いように扱った王家に復讐するために…。
「もうすぐ、全てが終わる…」
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