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番外編 この想いは永遠に…
最悪な卒業パーティー
しおりを挟むその決別の日から、王宮には不穏な空気が流れていた。
貴族らは、元々仲が良かった王太子殿下と第二王子オーウェン殿下の仲が拗れたと噂しながら、どの王子を王位に就けるか水面下で結託し始めていたのだ。
ただ、私だけがその争いを知らずにいた。
オーウェン殿下は、あれから謝罪として何度もサフラ侯爵家に面会を求めたが、父と弟は政局の行方が分からないまま殿下を我が家に入れる事は避けている。
サフラ家が拒絶したことで、オーウェン殿下の素行が王宮内で密かに噂される様になり、彼らはどんどん追い詰められていく。
学園卒業パーティーで、私は弟にエスコートされて入場した。
参加者らはオーウェン殿下と私が破局したことを確認して、それぞれの当主に報告する事だろう。八つの侯爵家の内三家がオーウェン殿下を支持してない。
その中でも一番力のあるバルボッサ侯爵家が第三王子コンラッド殿下を支持しているとなれば、王太子エイバン殿下との衝突は避けられないことだった。
一触即発の状態の中で、きっかけを作ったのは他ならぬオーウェン殿下だった。
卒業パーティーの日、王太子エイバン殿下は病床の国王陛下の代理として祝辞を述べる為に来ていた。
エイバン殿下の祝辞が終わり、音楽が流れてパーティーが始まったのだが、私は疲れてバルコニーの方に出ていた。
バルコニーから見える中庭に人影を見て驚いた。
そこには今日いないはずの人物が立っていた。
オーウェン殿下だった。
「グレイシア、話があるんだ」
彼はそう言ってバルコニーに姿を現した。
「ど…どうしてここに…謹慎中のはずではなかったのですか」
「そうだ。だけど、君と話がしたくて来たんだ。あれからまともな話ができなかったから、今日がチャンスだと思って…」
「今更、何の話があるのです。全て終わった事です」
「ち…違う。あれは気の迷いなんだ。君を愛している。もう一度やり直そう」
オーウェン殿下は私に縋って来るが、本当は公爵の地位を賜るはずだったのに、男爵家に婿入りしろとエイバン殿下に言われている事は父から聞いて知っている。
それは陛下が病床にある中、王太子エイバン殿下が采配を振るっているので、危険分子であるオーウェン殿下に公爵の地位を与えれば、寝首をかかれることになるからだ。
だから、男爵家に婿入りさせようと画策したのだ。
「私はもう愛しておりません。先日お別れしたはずです」
私はオーウェン殿下から逃げる様に背を向けて、会場内に入ろうとした時、強い力で腕を掴まれ引っ張られた。
倒れ込むように、バルコニーにあったソファーに押し倒される形になる。馬乗りになったオーウェン殿下からアルコールの臭いがした。
お酒を召し上がっているのかしら…。
「君は僕の物だ。今までもこれからもずっと永遠に…」
段々、近づいてくるオーウェン殿下の体を押しのけようとするが、女の私では男の力に抵抗するにも限度がある。
殿下の手がドレスの裾から入って来るのを足をバタつかせながら涙目になっていると、
「こんなことなら早くこうすれば良かったんだ」
キッと睨みながら、
「やめて下さい!!オーウェン殿下をこれ以上失望させないでください」
そう言った私の頬に痛みが走った。
私はオーウェン殿下によって叩かれたのだ。
「君まで僕を貶める事を言うのか!皆掌を返したように僕を蔑むようになった。たかが浮気だろう。君が僕の正妻になるんだ。ほんの少し遊んだだけだ。貴族なら皆やっている事だろう」
その言葉に私は吐き気がした。皆している訳ではない。この国の宗教に反する行いだと誰もが知っていることを彼は行なったのだ。
しかもまだ婚約中の段階でだ。結婚したらきっと、もっと大勢の女と関係を持つかもしれない。そんな男との結婚生活なんて誰も望まない。
嫌がる私をねじ伏せようと、オーウェン殿下が更に力を入れた時、私は目を閉じて身を固くした。
不意に体が自由になり、恐る恐る目を開けると、バルコニーの端で蹲っているオーウェン殿下をが目に映った。
私の前に立っているのはコンラッド殿下だったのだ。
「兄上!何をしているんだ。謹慎中のはずだろう」
「邪魔をするな!!グレイシアと話をしているだけだ」
見ればオーウェン殿下の口の端が切れて殴られた跡があった。
コンラッド殿下に抱き起されながら、
「こんな所に一人でいるなんて不用心だぞ」
傍に控えていた侍従に命じて侍女を呼びに行かせた。
私はドレスを直しながら、コンラッド殿下にお礼を言うと、
「そんなことより、頬が赤くなている。殴られたのか」
私の頬に手を当てながら、再びオーウェン殿下を睨みつけた。
コンラッド殿下はオーウェン殿下の胸座を掴むと、
「女に手をあげるとは情けないですね。兄上」
「うるさい!グレイシアは僕の女だ。どう扱おうと僕の勝手だろう」
「彼女とは婚約を解消したはずです。兄上とはもう他人だ。これ以上恥の上塗りは止めた方が賢明でしょう。連れて行け!!」
オーウェン殿下は駆けつけた親衛隊によって連れて行かれた。
私の肩にコンラッド殿下が上着を着せて、
「そんな姿を曝したら君の評判に関わるだろう。ドレスを着替えたら今日は侯爵家に帰るといい」
そう言い私を侍女に渡した。
悪夢のような卒業パーティーから一週間後、陛下の崩御が国中に知らされた。
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