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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
私の平凡な幸せ
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サロンで先生と他愛のない話をしていたら、何だか急に眩暈がして視界が暗くなっていた。
気が付けば自室のベッドで寝かされている。その傍らにハルト様がしっかりと手を握っているのが見えた。
すると目が合った先生から、
「アシュリー様。おめでとうございます。ご懐妊だそうですよ」
にっこり微笑まれてそう言われて、
「ご解任?もしかして妻解任ですか?」
何か拙いことをしただろうかと考えると、私のしたことは全部公爵夫人いや貴族としては全部拙い事だらけだった。とうとうハルト様にも愛想を尽かされたんだとしょんぼりしていると、
「はっ……?どうしてそうなる」
ハルト様の素っ頓狂な声が聞こえてくる。見ると目を丸くして驚いていた。
「だって、ご解任だって…えっ?懐妊…?赤ちゃんの事?」
えっ、違うの。本当に…私はお腹に手を当てて体中が温かい物に包まれるのを感じた。まだ信じられない。確かにハルト様と共寝をしているのだから、何時かはそういう事だってあり得るのに……。少しお子様な私は『コウノトリが赤ちゃんを運んでくる』なんてことを信じていたのだ。
「そうだよ。君のお腹には僕との子供がいるんだ。これからはあまり無理をしてはいけないよ」
何だか凄い剣幕で、ハルト様が圧をかけてくる。
「えええ…!じゃあ、洗濯もお料理もですか?」
そんな事が出来なければ、この屋敷での私の価値って無いんじゃあないの?どうしよう、何かしないと追い出される?
「それだけじゃない!畑仕事もだ」
「そ…そんな──」
畑仕事もなんて、ショック過ぎて落ち込んでしまう。
そんな私達のやり取りを後ろで先生たちが二マニマと笑っている。その視線が生温かいのは気のせいだろうか。いや気の所為ではない。控えている侍女たちや気難しいロータスさんも何だか感動しているようだ。
次の日から私はベッドに張り付けられるような生活をさせられた。
これもお腹の子供を守るために仕方のないことだと言われて渋々了承した。
「奥様、果物をお持ちしましたよ」
侍女たちはここぞとばかりに私の甲斐甲斐しく世話を焼く。
普通の貴族の奥様って何をしているものなのかしら?
疑問に思った私は、さっそく先生に相談した。だって先生にしか聞けない。
「アシュリー様はそのままでいいのですよ。その方が公爵にとっては癒しになりますからね」
「そのまま……癒し…」
私はハルト様にとっては猫か小動物なのだろうか?
「ふふふっ、ご心配にならなくても閣下はアシュリー様にぞっこんですわ。それはもう他の方を寄せ付けない程に…今にお分かりになりますからあまり気を揉まない様にね。お腹のお子様によくありませんから」
そう言って私を慰めてくれている。
でもそういわれても自信がない。あんなに素敵な旦那様とたかが伯爵家の庶子。しかも貴族の礼儀もままならない私などつり合いが取れないのではと思ってしまう。
それでもハルト様の隣は誰にも譲りたくない。そんな自分本位な想いを抱いていた。
最近、何時にも増して忙しそうにいしているハルト様が暇を見つけては私の所にやってくる。それをロータスさんとルファスさんが引きはがしにやってきている。
「嫌だ──っ、もう少しここにいる」
と叫んでいるが、ずるずると二人に引きずられるように執務室に連れられていく姿を見ると、
記憶喪失だった頃より駄々っ子みたいなハルト様に思わず笑みが零れてしまう。
「まさか、あのラインハルト殿下のあんな姿を見ることになるなんてなあ」
「ああ、私も驚いた」
アルバート様とロバート様がうんうんと頷きながら、衝撃を受けていた。
先生は、
「あれが本来のあの方の姿なのかもしれませんね」
等と言っているが、本来の姿が10才児の精神年齢なら大変な事になる。そんないらぬ心配をしている私だった。
それにしても暇だなあ。畑も気になるし、厨房にも行きたいなあ。
と考えている私のありふれた幸せな毎日が特別な事だと、この時の私は気付けていなかったのである。
気が付けば自室のベッドで寝かされている。その傍らにハルト様がしっかりと手を握っているのが見えた。
すると目が合った先生から、
「アシュリー様。おめでとうございます。ご懐妊だそうですよ」
にっこり微笑まれてそう言われて、
「ご解任?もしかして妻解任ですか?」
何か拙いことをしただろうかと考えると、私のしたことは全部公爵夫人いや貴族としては全部拙い事だらけだった。とうとうハルト様にも愛想を尽かされたんだとしょんぼりしていると、
「はっ……?どうしてそうなる」
ハルト様の素っ頓狂な声が聞こえてくる。見ると目を丸くして驚いていた。
「だって、ご解任だって…えっ?懐妊…?赤ちゃんの事?」
えっ、違うの。本当に…私はお腹に手を当てて体中が温かい物に包まれるのを感じた。まだ信じられない。確かにハルト様と共寝をしているのだから、何時かはそういう事だってあり得るのに……。少しお子様な私は『コウノトリが赤ちゃんを運んでくる』なんてことを信じていたのだ。
「そうだよ。君のお腹には僕との子供がいるんだ。これからはあまり無理をしてはいけないよ」
何だか凄い剣幕で、ハルト様が圧をかけてくる。
「えええ…!じゃあ、洗濯もお料理もですか?」
そんな事が出来なければ、この屋敷での私の価値って無いんじゃあないの?どうしよう、何かしないと追い出される?
「それだけじゃない!畑仕事もだ」
「そ…そんな──」
畑仕事もなんて、ショック過ぎて落ち込んでしまう。
そんな私達のやり取りを後ろで先生たちが二マニマと笑っている。その視線が生温かいのは気のせいだろうか。いや気の所為ではない。控えている侍女たちや気難しいロータスさんも何だか感動しているようだ。
次の日から私はベッドに張り付けられるような生活をさせられた。
これもお腹の子供を守るために仕方のないことだと言われて渋々了承した。
「奥様、果物をお持ちしましたよ」
侍女たちはここぞとばかりに私の甲斐甲斐しく世話を焼く。
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疑問に思った私は、さっそく先生に相談した。だって先生にしか聞けない。
「アシュリー様はそのままでいいのですよ。その方が公爵にとっては癒しになりますからね」
「そのまま……癒し…」
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「ふふふっ、ご心配にならなくても閣下はアシュリー様にぞっこんですわ。それはもう他の方を寄せ付けない程に…今にお分かりになりますからあまり気を揉まない様にね。お腹のお子様によくありませんから」
そう言って私を慰めてくれている。
でもそういわれても自信がない。あんなに素敵な旦那様とたかが伯爵家の庶子。しかも貴族の礼儀もままならない私などつり合いが取れないのではと思ってしまう。
それでもハルト様の隣は誰にも譲りたくない。そんな自分本位な想いを抱いていた。
最近、何時にも増して忙しそうにいしているハルト様が暇を見つけては私の所にやってくる。それをロータスさんとルファスさんが引きはがしにやってきている。
「嫌だ──っ、もう少しここにいる」
と叫んでいるが、ずるずると二人に引きずられるように執務室に連れられていく姿を見ると、
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等と言っているが、本来の姿が10才児の精神年齢なら大変な事になる。そんないらぬ心配をしている私だった。
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