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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
プロローグ
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春麗らかな陽射しの中、二匹の大型犬と庭先の芝の上を転がりまわっている男がいた。少し離れた小高い丘には布を広げて大きな木に凭れる様に座っている女性の姿がある。
男の名はラインハルト・エステル。
元王太子で今は公爵位を賜っている。
彼は現在もっか記憶喪失中で10才までの記憶しかない状態。正確には10才まで育ったと言う方が正しいかもしれない。
記憶喪失になったのは彼が18才の王立学園を卒業した時で、当時は5才の記憶しか持っていなかった。その為、王太子の座を追われることになった。
ところが残念な事に2人の弟殿下達も3年前に王都で猛威を振るった流行病で亡くなってしまったのだ。王族の血縁関係もその病に侵され殆どの者がいない中、唯一流刑同然にこの辺境国領を賜った彼だけが生き残ったのだ。
血を繋げるために今まで多くの女性を送り込んだが、未だかつて一年と持った試がなかった。
それもそのはず、彼は体は成人男性でも精神年齢は子供なのだ。無理やり彼に迫った女性もいたようだが、寝台で泣いて暴れられたら、男性の力に敵う筈もなく皆、撃沈した。
遂には国王が冴えないデニーロ伯爵家に話を持ってきたのだ。
私、アシュリーはデニーロ伯爵家の長女。でも、本妻腹ではなく、伯爵が酔ってメイドに狼藉を働いた結果、生まれたのが私だった。
そんな私が何故生かされているかというと、この時にはまだ本妻の伯爵夫人には子供が出来ず、唯一伯爵の娘であった為、私を殺さず生かしたのだ。
この国は一夫一妻制を重んじている神を信仰している。血を残す為に王家では側妃を娶る事はあるが、貴族ではあまりいない。つまり不義で過って出来た婚外子の私は異端な存在なのだ。
そんな私が伯爵家ではどういう扱いか想像するに容易い。私は屋根裏部屋に一室を与えられ、いない者の様に扱われていた。
貴族の学園に通う事も赦されなかった私は、家庭教師に教えを乞いながらどうにか令嬢としてのマナーを身に付けただけの存在。
誇れる事があるかと聞かれれば、その見た目だけは王女の如く美しいという点だけだろうか。後は家事全般が得意ですなんてことは貴族の令嬢の基準から大いに外れているので美点にはならない。
その私が辺境地レグナに来たのには訳があって、本妻腹の娘、つまり私の異母妹の代わりに嫁ぐことになったのだ。
彼女は私より2才下の16才。既に成人したとはいえまだ子供である。学園もまだ入学したばかりという事もあり、私が選ばれた。というよりは、厄介払いと言った方が正解かもしれない。父である伯爵からは「今まで育ててやった恩を返せ」と迫られ、義母からは「貴女のような者には身に余る光栄よ、謹んでお受けしなさい」そして、異母妹からは「お義姉様にはお似合いのお相手よ」と言われた。
別に悲観などしていなかった。寧ろあの家を出られた喜びの方が勝っていたと言っても過言ではない。
大きな手を振って、幼い少年のように目を輝かせて駆けてくる美麗な夫ラインハルト。
「アシュリー、見てみてミミズだよ」
この夫は、時々嫌がらせの様にこういった虫?なものを持ってくる。はっきり言ってやめてほしい。
「ゲッ!!」
顔にも出ていたかもしれないが、苦手なものは仕方がない。さっさと捨てて下さい。旦那様。
「可愛いでしょう」
そんなもの可愛いわけあるか──っ!!
「か…かわいくはないですね。ミミズは大地の神のお使いです。そっと自然に返してあげましょうね」
にっこり微笑みながら言うと「チッ」舌打ちしたのが聞こえてくる。今のは気のせいですかね。もしかして本当の嫌がらせ?
「アシュリーが嫌なら返すよ」
夫は美麗な微笑みを浮かべながら、ミミズを地面に置いた。しかし、その笑みは私には黒い微笑にしか見えなかった。最近、ふと考える事がある。
もしかして、この元王子殿下の記憶喪失って嘘何じゃあないかと思ってしまうのは、私の心が腐っているからなのかもしれない。
だって、この夫の笑顔は嘘くさい!!
男の名はラインハルト・エステル。
元王太子で今は公爵位を賜っている。
彼は現在もっか記憶喪失中で10才までの記憶しかない状態。正確には10才まで育ったと言う方が正しいかもしれない。
記憶喪失になったのは彼が18才の王立学園を卒業した時で、当時は5才の記憶しか持っていなかった。その為、王太子の座を追われることになった。
ところが残念な事に2人の弟殿下達も3年前に王都で猛威を振るった流行病で亡くなってしまったのだ。王族の血縁関係もその病に侵され殆どの者がいない中、唯一流刑同然にこの辺境国領を賜った彼だけが生き残ったのだ。
血を繋げるために今まで多くの女性を送り込んだが、未だかつて一年と持った試がなかった。
それもそのはず、彼は体は成人男性でも精神年齢は子供なのだ。無理やり彼に迫った女性もいたようだが、寝台で泣いて暴れられたら、男性の力に敵う筈もなく皆、撃沈した。
遂には国王が冴えないデニーロ伯爵家に話を持ってきたのだ。
私、アシュリーはデニーロ伯爵家の長女。でも、本妻腹ではなく、伯爵が酔ってメイドに狼藉を働いた結果、生まれたのが私だった。
そんな私が何故生かされているかというと、この時にはまだ本妻の伯爵夫人には子供が出来ず、唯一伯爵の娘であった為、私を殺さず生かしたのだ。
この国は一夫一妻制を重んじている神を信仰している。血を残す為に王家では側妃を娶る事はあるが、貴族ではあまりいない。つまり不義で過って出来た婚外子の私は異端な存在なのだ。
そんな私が伯爵家ではどういう扱いか想像するに容易い。私は屋根裏部屋に一室を与えられ、いない者の様に扱われていた。
貴族の学園に通う事も赦されなかった私は、家庭教師に教えを乞いながらどうにか令嬢としてのマナーを身に付けただけの存在。
誇れる事があるかと聞かれれば、その見た目だけは王女の如く美しいという点だけだろうか。後は家事全般が得意ですなんてことは貴族の令嬢の基準から大いに外れているので美点にはならない。
その私が辺境地レグナに来たのには訳があって、本妻腹の娘、つまり私の異母妹の代わりに嫁ぐことになったのだ。
彼女は私より2才下の16才。既に成人したとはいえまだ子供である。学園もまだ入学したばかりという事もあり、私が選ばれた。というよりは、厄介払いと言った方が正解かもしれない。父である伯爵からは「今まで育ててやった恩を返せ」と迫られ、義母からは「貴女のような者には身に余る光栄よ、謹んでお受けしなさい」そして、異母妹からは「お義姉様にはお似合いのお相手よ」と言われた。
別に悲観などしていなかった。寧ろあの家を出られた喜びの方が勝っていたと言っても過言ではない。
大きな手を振って、幼い少年のように目を輝かせて駆けてくる美麗な夫ラインハルト。
「アシュリー、見てみてミミズだよ」
この夫は、時々嫌がらせの様にこういった虫?なものを持ってくる。はっきり言ってやめてほしい。
「ゲッ!!」
顔にも出ていたかもしれないが、苦手なものは仕方がない。さっさと捨てて下さい。旦那様。
「可愛いでしょう」
そんなもの可愛いわけあるか──っ!!
「か…かわいくはないですね。ミミズは大地の神のお使いです。そっと自然に返してあげましょうね」
にっこり微笑みながら言うと「チッ」舌打ちしたのが聞こえてくる。今のは気のせいですかね。もしかして本当の嫌がらせ?
「アシュリーが嫌なら返すよ」
夫は美麗な微笑みを浮かべながら、ミミズを地面に置いた。しかし、その笑みは私には黒い微笑にしか見えなかった。最近、ふと考える事がある。
もしかして、この元王子殿下の記憶喪失って嘘何じゃあないかと思ってしまうのは、私の心が腐っているからなのかもしれない。
だって、この夫の笑顔は嘘くさい!!
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