上 下
3 / 48
本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして

王太子ざまあ?

しおりを挟む
 それは、5年前の王立学園卒業パーティーでの事。

 当時王太子だった旦那様ことラインハルト殿下は、婚約者だったアデイラ・メイナード侯爵令嬢ではなく、ピンクブロンドに派手なリボンを頭からつま先まであしらったショッキングピンクのドレスを着た男爵令嬢を伴っていた。名前をなんていったかなあ……ああ、そうそうフローラ・メッケン男爵令嬢だったかな?そんな姿の女性を公然と連れ歩いていたらしい。はっきりいって女の趣味が悪いとしか思えない。

 傍にいたら目がちかちかして疲れそうだ。全身ピンク一色の令嬢を連れて、側近候補たちも会場の壇上の上からか男爵令嬢を守る様にしていたらしい。

 そして、ラインハルト殿下がメイナード侯爵令嬢の罪を一つずつ言って最後に婚約破棄を告げる予定だったようなのだが、ここでアクシデントがあった。

 殿下が「こ…」まで言ったところで、誰かが勢い余って殿下を押したのだ。殿下はとっさに全身ピンクの令嬢を掴んだが、

 「いやよ、離して!一緒に落ちるなんて御免よ!!」
 
 と言って、殿下を突き落す形になってしまった。

 殿下は高さ3mの壇上から落ちて、頭から血を流して倒れて気を失った。

 その一部始終を会場にいた学園生徒や教員が見ていたわけで、王子に対する傷害罪で男爵令嬢はその場で拘束される事になった。

 因みに殿下の婚約者だったメイナード侯爵令嬢は、この時、男爵令嬢の偽証の証拠を持って『ざまあ』をする予定だったのだ。

 第二王子ジークハルトと一緒に……しかし、王太子がまさかの『階段落ちイベント』をやらかしてしまった。

 階段落ちと云ったら悪役令嬢かヒロインが相場なのだが、ラインハルトが落ちて怪我をしてしまった事により、侯爵令嬢とジークハルトが仕掛けようとした『ざまあ』の展開も不発となってしまい、残念無念な結果に終わった。

 ところが、王太子ラインハルトが2週間後に目覚めると、彼は記憶を失って5才の幼児となってしまっていたのである。

 勿論、婚約者のアデイラの事も弟たちのことも全て忘れてしまっている状態。国王は廃嫡はせずに辺境国領レグナに新しい公爵位を与えて、追放同然に送り出したのだ。

 その際、アデイラとの婚約は解消し、晴れて第二王子ジークハルトと婚約した。だが、運命とは皮肉なもので、折角、兄を蹴落としてでも手に入れたかった王太子の地位に着いたのも束の間、流行病にかかってしまい呆気なくこの世を去った。

 後に残された王太子妃となったアデイラ。彼女はラインハルトとの復縁を望むも記憶の回復の兆しは無く断念していた。

 そして、国王は絶賛子作りの結果、ようやく男子が3年前に生まれたのだが、まだ赤子を王太子に据えるわけにもいかず、かといって外見23才、中身10才のラインハルトを再び王太子の地位に据えるわけにもいかない。

 苦肉の策として、せめて血は残させようとあらゆる女性を送り込んだのだが、我こそはという肉食系の女子たちは天使のような容貌のラインハルトの純粋?な瞳と仕草で陥落し、泣く泣く公爵夫人の地位を諦めたのだった。

 そんなこんなで、目ぼしい貴族令嬢の中でデニーロ伯爵家が最後の希望となった。

 まあ、南の辺境地は海に近く、山に囲まれた要塞のような土地。海賊・山賊も頻繁に出る治安の悪い場所に愛娘を送る訳にもいかず、結局私にお鉢が回ってきたのだった。

 私は初めて会った時から、この元王子を胡散臭く見ていた。なんだか嘘くさい笑顔にあざとさを感じ取っていた。

 どうして旦那様情報が詳しいかっていうと、実は私の家庭教師をしていたデボラ・カートン伯爵夫人は旦那様たちの同級生で一部始終を見ていたそうで、面白おかしく話してくれたのだけれど、まさかその2年後に自分がその当事者の妻になるなんて思わなかったのよね。

 ああ、人生って何が起きるのか分からない物よね。

 そして、今日も胡散臭い旦那様との生活が始まるのだった.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

【完結】「侯爵令息は婚約破棄されてもアホのままでした」

まほりろ
恋愛
ヴェルナー侯爵家の嫡男アークは数々の浮気が原因で、婚約者のブルーナから婚約を破棄されてしまう。 愚か者のアークはブルーナに婚約を破棄されても、何も変わらないと思っていた。 だがアークとの予想に反し、アークの友人や浮気相手は次々と離れて行き……。 その時になって初めて、アークは自身が何を失ったか知るのだった。 ※人生舐めプしていたアホ侯爵令息が、婚約を破棄されたことをきっかけに転落していくお話です。 ※他サイトにも掲載予定。アルファポリス先行投稿。一応pixivに同名タイトルの作品をアップしてるんですが、あちらは未完で推敲してないです。完結まで書いて推敲したものをアップするのはアルファポリスが初です。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

処理中です...