【完結】この愛に囚われて

春野オカリナ

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ローズマリア視点4

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 王宮に付くと殿下は私に公務以外の外出を禁じた。そして、護衛の数を倍に増やした。お腹の子を守る様に見せかけて本当は私が勝手に公爵家に帰らない様にするための見張りなのだ。

 ある日、宮人が囁くのが聞こえてきた。

 「殿下が毎日お忍びで夕暮れに公爵家を訪れている」

 そう噂されていた。私は日頃の行いから宮人達から嫌われていることは知っている。

 これも身から出た錆。自分が蒔いた種なのだ。姉の澄ました顔が崩れるのが見たくて、嫌な噂をまき散らした罰。

 私は殿下に愛されていない。そんなことは当の昔に分かっている。縋ってしがみ付いているのは、私にとって殿下は初恋の人だからだ。

 どうして、こんなに殿下に拘るのか分からない。自分でもどうしようもない。きっとそれは姉の婚約者だからだ。そうでなければこんな思いをしてまで手に入れようとは思わなかったはず。

 私の歪な感情は渦を巻いて自身を苦しめる。

 姉は良くも悪くも人を引き付ける。殿下も母も私も誰も彼もが姉に拘っている。

 サフィニア・ミシェルウィーに魅了されているなんて。

 認めたくない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。私が子供の様に姉に執着しているなんて。絶対に認めたくない。

 構って欲しい。その瞳に私を映して欲しい。愛して欲しい。そんな感情が甦る。

 こんな感情を持つなんて、私じゃない!私は『ローズマリア・ミシェルウィー』よ。誰より愛されて当然の華やかな女よ。姉のような地味な容姿ではないわ。至高の存在でなければいけないのよ。

 私は自分の感情に蓋をして、社交界最後の夜会に出た。

 ふふ。お姉様。今日は誰にエスコートを頼むのかしら。

 私の歪んだ思いとは裏腹に、姉はユリウス・デントロー公爵令息に伴われて会場に入った。

 彼らが入場した途端、会場内は一斉に注目をした。そこには婚約を解消された憐れな女の姿はなく。凛とした『社交界の女神』の姿が遭った。

 どうしてなの。お姉様。貴女はどんなに傷ついても平気でいられるの。どうすれば取り乱して泣く姿が見られるの。

 どんどん、心が黒く塗り潰されていく。忌々しい女。今度こそ淑女の仮面を剥がして見せる。

 王族への挨拶が終わると次々と貴族が二人の周りに集まり出す。まるで今日の主役が姉であるかの様に。

 女王然と振る舞う姿は、かつての姉そのものだった。

 悔しい。どうして私が欲しいものを簡単に奪っていくの。いつも姉は私の前を歩いて行く。決して交わることが無ければ並ぶこともない。

 お姉様。見てなさい。今度こそ。

 そう思っていると、最後の曲の前に殿下が姉の手を取りホールの中央に進み出た。

 誰もが息を呑むほど美しく、二人だけの世界に浸っている。私には決して向けられない熱い視線で殿下は姉を見ている。

 私は、その雰囲気を壊したくて

 「お、お腹が痛い、誰か助けてーっ」

 大きな声を挙げた。

 ふふ、きっと殿下は来て下さる。この場で私を切り捨てたり出来ないでしょう。

 案の定、殿下は私の元に来てくれた。姉を放っておいて、私を選んでくれた。

 「立てるか?」
 
 私は見せつける様に殿下にしな垂れかけた。

 「どういうつもりだ。ここが何処だかわかっているのか?」

 「殿下、立てません。控室に連れて行って下さい」

 殿下は私を抱き上げて、控室に向かった。

 ふふ、上手くいった。ねえ、お姉様。これで分かったでしょう。殿下は私のものよ。王太子妃の座もね。決してお姉様には渡さないわ。

 初めて殿下に抱き上げられた私は、今だけは殿下は私のものなのだと安心した。

 控室のソファーに私を降ろすと殿下は王宮医師を呼びに部屋を出た。

 殿下と入り替わる様に母が部屋に入って来る。

 「ローズ、もう貴女は王太子妃なのよ。子供のような真似はおやめなさい。もうすぐ一児の母となるのだからしっかりしないといけないわ」

 「お母様一体どうしたのです。いつものように私を甘やかさないのですか?」

 「貴女の立場は注目を浴びるのよ。これからは皆の手本となって…」

 「ええ、私の手本はお母様ですわ。ですからお母様を真似て、お姉様に薬を入れたんです。まさかバルコニーから落ちるなんて思わなかったけれど。精々ふら付いて恥を掻いたらいいのにと思っていたのに」

 「ま…まさか、貴女の仕業なの?」

 「あら、お母様の所為かもしれませんよ。だって、私聞いてしまったんです。お父様に懺悔なさっていらしたでしょう?お姉様のハーブティーに睡眠薬を入れていたことを」

 「し…知っていたの…」

 怯える母の姿に私は溜飲の降りるのを感じた。今更何を言っているのだろう。最早手おくれよ。私は何時までも姉の代用品ではないわ。

 この会話を殿下が聞いていたとも知らずに私は出産まで部屋に閉じ込めれらていた。

 そして、運命の出産を迎えたのだ。

 
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