【完結】この愛に囚われて

春野オカリナ

文字の大きさ
上 下
33 / 57

ローズマリア視点3

しおりを挟む
 王宮に姉が目覚めたという知らせが入り、私は直ぐに実家に宿下がりをする許可を申請した。

 しかし、殿下がそれを差し止めた。理由は聞かなくても分かっている。私を姉に会わすのが嫌なのだ。

 子供を身籠ってから増々、殿下との距離が開いていくのを感じていた。前は他所他所しいだけだったのに、今は時々その瞳に憎悪が灯っている。

 まさか、バレたのだろうか?腹の子の出自が……

 そんな不安を抱えながら、1ヶ月後に実家への帰省が叶った。

 「今日は公爵家に帰る日だな。私も一緒に行こう。偶には義父母に挨拶せねばな」

 そんな白々しい事を言っているが、魂胆は見え見え、殿下の口角は上がっていた。きっと姉と再会するのが嬉しいのだろう。

 殿下は私が見たこともない柔らかな笑みを浮かべている。きっと無自覚なのだ。私が一番欲しい物を簡単に手に入れる姉が憎い。

 公爵家の姉の部屋を訪れた私は姉を見て驚いた。

 やせ細っているものの、以前と変わらず澄ましているその姿に、私の歪んだ心に火を点けた。

 ----どんな言葉や態度をすればお姉様の表情が崩れるのかしら。楽しみだわ。

 「お姉様、お加減は如何です?」

 「ええ、順調に回復しているわ。わざわざ・・・・お見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」

 「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」

 どう、お姉様。悲しい、悔しい、それとも羨ましい。お姉様の愛した殿下は今は私の夫よ。さあ、顔に出して、私の心を満たしてちょうだい。

 「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」

 だが、殿下が止めに入り、姉の表情は変わらなかった。つまらないわ。ふふっ、そうだ今度はどうかしら。泣いたら私の心も晴れるのに。

 「殿下、私はもう婚約者・・・ではなく妃殿下・・・の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」

 「す、すまないつい、口から出てしまった」

 私の前で殿下と姉は会話をし出した。その姿が無性に癇に障った。

 「ねえ、ジーク様、お腹・・が張って来たので帰りましょう」

 しな垂れかかる様な仕種で、姉の嫉妬心を煽った。でも姉の淑女としての仮面は剥がれなかった。その上殿下は私を気遣う言葉を言いながら、その実、姉の体を労わっていた。

 殿下の瞳には姉に対する慈しみの色しか見えない。

 「そうだな。身体・・に良くないし、帰ることにしよう。サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」

 「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」

 「ありがとう」

 姉から祝いの言葉を貰っても私の心は軋むばかり、だからもっとこの姉が人であるところを見たい。私の前で泣いて乱れて縋りつく姉の姿が見たくて仕方がない。

 私はいつもの手・・・・・を使って、姉を追い詰めていく。きっと騒ぎを聞き付けた両親が姉を𠮟り付付けてくれる。

 どこまでも歪んだ私は、姉を貶める事でしか優越感を見い出せなかった。

 「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」

 「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼び・・・できません」

 「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」

 「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」

 私が姉の部屋で泣き喚いたら、その騒ぎを聞き付けた両親が思った通りにやって来た。

 「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」

 「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」

 ふふ、はは、ねえ、お姉様。分かったでしょう。やっぱり私の方が愛されているのよ。残念ね。お姉様の大切な物は私が全て壊してあげるわ。そうしたら、私の前で泣いてくれる。怒ってくれる。その顔が崩れて乱れた姿を見たいの。

 両親に連れられながら、私は嘘の涙を流して口元は嗤っていた。でも、殿下は私の心配よりも姉の方を見ていた。

 そして、あれ程穏やかに微笑んでいた姿はなく。今は私を睨んでいる。

 「君には常識というものがないのか。病み上がりの姉に何ということをするのだ。誰もいなければ…」

 その先の言葉を飲み込んだ殿下はきっと『罰していただろう』そう続けたかのか。それとも……

 殿下の鋭い視線が怖くて、

 「…申し訳ありません」

 小さな声で呟いた。それ以降殿下は押し黙ったまま、馬車は王宮に着いた。その道のりは悠久の時の様に重苦しく、辛い物だった。
 
 そして、最後の夜会が始まったのだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...